「ぼくは、サッカー選手にとって実現可能な
究極の目標であるW杯に、優勝しました。
今後は、ぼくがぼくでいることを許してくれる
ASローマに、自分をささげます」
フランチェスコ・トッティが、
ちょっと悲しさのこもる声でこう言い、
何の問題もなくアズーリを引退してから、
早くも3年以上の時が流れました。
その3年間というもの、
アズーリにもどるという話には全くならず、
アズーリの監督もリッピからドナドーニ、
またリッピへと替わりましたが、
このイタリア人監督たちも、
トッティの意志を尊重してきました。
そして今、何かが動こうとしています。
来年のW杯南アフリカ大会に
トッティが出場する可能性が出てきたのです。
ベルリンで2006年に勝ち取った
世界タイトルを守るために、
イタリア代表アズーリに
トッティが返り咲くかもしれないのです。
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トッティの考えを変えたものは? |
2006年のW杯ドイツ大会優勝選手のうち、
トッティの他にもう一人、
もうアズーリのシャツを着ることは無いだろうと
言った選手がいます。
アレッサンドロ・ネスタです。
「事故に遭いすぎたし、
ACミランのためだけにプレイしたいんだ」
彼はそう言って、アズーリからの引退を表明しました。
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ネスタはトッティと異なり、
その思いを今も変えていません。
しかし、いったい誰が
トッティの考えを変えさせたのでしょうか?
お金のためでないことは確かです。
ASローマは少し前に、
イタリア人の選手の給料としては新記録となる金額で、
彼との契約を更新しましたから。
どうせなら、
2回の優勝を果たした数少ない選手として、
歴史に名を残そうと思い直した?
──これも違うでしょう。
トッティはいつも大きな望みを抱いている選手ですが、
見栄っ張りではありません。
4年前のドイツ大会のとき、
テレビや新聞の多くが
トッティは酷いケガが完治していないとして、
彼の出場を危ぶみました。
これに反して、マルチェッロ・リッピは
彼を出場させたのです。
でも、トッティに大きな信頼を寄せてくれた
リッピに対する友情や尊敬する思いから、
引退宣言をくつがえすというのでもないでしょう。
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ここで浮上して来るのが、
妻のイラリー・ブラージです。
こういう場合にしばしば起るように、
夫を動かす決定的な言葉は
妻が握っていたりするものなのです。
イラリーは "le iene" (ハイエナたち)という、
とても人気のあるテレビ番組の司会をしていますが、
しばしばこんな質問がなされます。
「もし貴女がリッピの立場にあったら、
ご主人にアズーリに戻るように説得しますか?」
そんな時、イラリーは微笑みながら、
こう切り返すのです。
「トッティに何かをさせたり、
考えを変えさせたりできる唯一の人物は、
私です」と。
それは聴視者を笑わせるための
ジョークに思えます。
イタリア人たちに日々起きること、
多くの場合「そりゃ、そうだ」と
人々が了解する背景が、
イタリアにはありますからね。
つまり、ひとりの女性が完璧な妻になるためには、
母親のようになる必要もあるということです。
イタリア男たちは子どものまんま
大きくなったようなところがありますから、
愛情の他にも、いい子いい子されることや、
優しい命令などが必要なのです。
トッティはイラリーの言葉を、
まるで本当のママの言葉のように
聞いたにちがいありません。
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いずれにせよ考えを変えたトッティは、
アズーリにもどることも可能だと
暗にリッピに知らせる言動も見せています。
インタビューで
「W杯のために南アフリカへ行きたくないか?」
と聞かれるたびに、トッティは、
「W杯は究極です。
たくさんのスクデットや
UEFAチャンピオンズ・リーグ優勝よりも
価値があります。
リッピ監督がぼくを呼んでくれたら
名誉なことです」と、
3年前ならぜったいに言わなかったであろうことを
言い始めました。
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ずっとトッティの復帰を待ち望んでいたリッピは、
まずアズーリ代表としてキャプテンの
カンナヴァーロに語らせました。
「トッティが戻ってくれれば、ぼくら全員が幸せだ」と。
その後で、リッピも口を開きました。
「トッティは完璧に桁外れに優れた選手です。
彼が元気で、再びアズーリのユニフォームを
受け入れてくれたら、それは素晴らしい事です。
3月に私たちは、また話し合うつもりです。
トッティのコンディションが整っていれば、
10番のユニフォームは彼の物です。
私は、そう願います」
さて、その暁には、
夫人のイラリー・ブラージにも
アズーリのユニフォームをお渡しするべきかと、
ぼくは思うのですが‥‥。