BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第4回
ちょっとだけ騙して
糸井 僕がマジックを好きなのにはね、
騙された自分が好きというところがあるんですよ。
思うに、なんか、
人って騙されたくてしょうがないってところが
ありますよね。
松田 びっくりしたいという気持ちと、
びっくりさせてやろうという
人間の本能みたいなものが、
需要と供給みたいな関係で結びついてますね。
でも、騙されるほうも贅沢なことを言います、
あんまりひどくは驚かせないでほしいとか。
むちゃくちゃにびっくりさせられると
気持ち悪がる人は多いです。
糸井 そこまでしちゃ駄目なんだ。
ボナ 「心を読まれてるんだ」
とか思われたら怖いんでしょう。
パルト トリックが全然わからなくて
自信をなくしちゃう方もいますよね。
松田 マジック番組の司会者も、
「今のネタ、わかりました?」
って観客に聞くでしょう。
本当は
「おもしろかったか」
と聞くべきですよ。
ボナ 「みんなで見破りましょう」
って言う人もいますもんね。(笑)
松田 日本人にはそういう人が多いようですね。
腕組みしながら見てる。
タネがわからないことが
自分の知的水準に対する
侮辱みたいに感じるんでしょうね。
パルト でも確かに、30分のショーで、
まったくタネのわからないものだけを
ぎゅうぎゅうに詰め込んで見せると、
お客さんとは敵対関係になっちゃいます。
だから僕らは
そうならないようにしてるんですけどね。
糸井 してますねえ(笑)。
松田さんがこれまで見てきた中で、
印象に残ってるマジシャンは誰ですか。
松田 日本人で一番うまいと思ったのは、
石田天海さんですね。
我々から見て
タネのわからないマジックというのは
そんなにないんですが、
あの人だけは、
どんなに簡単なことでもわからなかった。
人間離れしてましたね。
糸井 へえー。
松田 ストローに糸を通して切ると、
ストローだけ切れるというのがあるでしょ。
あれでも、あの人がやったら
わからなかったですもん。
ボナ 体操のウルトラCに、
初めてやった人の名前がついてるように、
天海さんは、技法の名前に
「テンカイ・パーム」
というのがあるくらいの人なんです。
パルト カードを手に隠しているんだけど、
広げても見えない、という技ですね。
松田 最初に話に出たスライディーニも、
コインをスッと取って
パッと消す仕草が、芸術的でした。
それから私ら文献派が
もっとも尊敬しとったのは、
アメリカのダイ・ヴァーノンという人です。
パルト 僕も最晩年に会いましたけど、
マジックキャッスルという
マジックの殿堂みたいなナイトクラブに、
常にいました。
ダイ・ヴァーノンの椅子というのがあって、
いつもそこに座ってる。
で、いい人でね、
どんなセコいマジック見ても
「いやあ、すばらしい」って言うんです。
ボナ とね、若手は
「俺はプロフェッサー・
 ダイ・ヴァーノンに見せたぞ」
ってなるわけ。
パルト で、ダイ・ヴァーノンが
驚いたって勘違いしちゃうの。
ボナ あの人はいつも驚いてる。(笑)
パルト 亡くなった江國滋さんも、
ダイ・ヴァーノンが驚いたって言ってたね。
松田 マジックをひとつだけ見せたら、
「もうお前に教えることは何もない」
と言われたって。
糸井 その褒め言葉がトリックですよね。
ボナ 要はもう見たくない。(笑)
糸井 マジックのおもしろさって、
やっぱり人間にあるんですね。
騙されたがる人間、驚きたがる人間、
はたまたその逆をいきたがる人間。
松田 トリックというのは、人間心理そのものですからね。

2001-09-05-WED

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