2年前、取材した南会津高校の選手が、
福島県大会の開会式で選手宣誓を務める。

知らせを受けて、すぐに取材すると決めた。
取材というよりも、観たい、という思いだった。

それを知ったのは開会式の1週間前だったけれど、
スケジュールを前後にぎゅっと押しやって、
朝いちばんの電車で
いわきグリーンスタジアムに向かった。

ささやかな取材体験だったけれど、
2年前、高校野球の地方予選を
ひと夏をかけて追いかけた経験は、
ぼくのなかにしっかりと残っていた。

球場のだいたいの構造。
記者のみなさんが集まる部屋のつかい方。
三塁側と一塁側を移動するときのルート。
首から提げるパスは大会本部からもらえるけど、
腕章は自分たちで用意するということ。
選手たちは、ぼくのようなにわか記者であろうと
パスと腕章をつけた人を見かけると
きちんと立ち止まって「こんちはっ!」と
礼儀正しく挨拶してくれるから
いちいちドギマギしていてはいけないということ。
あと、腕章というものは、
記者のみなさんは意外に腕につけておらず、
ウエストポーチなどに通して目立たせる
というつかい方のほうが「らしい」ということ。

どんな経験もそうだけど、
やる前は右も左もわからなくておろおろするけど、
ひととおり経験してみると
2回目はずいぶん図太く振る舞える。
いやぁ、なんでもやってみるものだなぁ。



開会式の朝。
球場を包む、華やかで、緊張感のある独特の雰囲気。
そう、これだって2回目の経験だ。
だから、以前よりはずいぶん知ってることがある。
たとえば、観客席に座っている選手たちは、
残念ながらベンチ入りできなかった選手たちで、
レギュラーの選手たちは、入場行進を控えて、
球場の外のどこかに集められている。
だいたいの見極めをつけて探すと、ああ、あれだ。



知ってる高校の名前がいくつもあって、
勝手にうれしくなってしまう。



高校野球の選手どうしは、
学校の垣根を超えて知り合いであることがめずらしくない。
練習試合や大会を通じて知り合う
というパターンもあると思うけど、
それより多そうなのは
中学時代のチームメイト、というケース。
違うユニフォームを着た選手どうしが
開会式の前に「どうなのよ」とばかりに
こづき合ったりしている風景が、ぼくはとても好きである。




あるいは、どこのチームも
背番号1をつけている選手は
独特の存在感があるなぁ、とか‥‥
ああ、だめだだめだ、入場行進前の集合だけで
延々書いてしまいそうになります。

客席に戻って、南会津高校の監督、
いや、元野球部監督の猪股俊伸さんと2年振りの再会。
おひさしぶりです!

「おひさしぶりです!」


変わってないですね、監督。
あ、もう監督じゃないんですよね?

「はい。いまはスキー部の監督に専念してます。
 でもまあ、移動のときの運転手役とか、
 いろいろお手伝いはしてますけど」

選手宣誓のこと、知らせてくださって
ありがとうございました。

「いえいえ、急にすみませんでした。
 わざわざ来てくださって、
 なんだか申し訳ないです」

とんでもない。来たくて来ました。
あの、ぼくが取材したときの1年生が、
キャプテンとして、選手宣誓を。

「はい。齋藤怜摩です」


これは、2年前に取材したときの写真。
前列左端、ロゴの入っていない
白いユニフォームを着ているのが齋藤怜摩くん。
みんなから、怜摩(りょうま)と呼ばれていた。
当時1年生。まだ幼い印象がある。
センターを守っていて、
ピッチャーの練習もしていた。


あれから2年、
彼はどんなふうに成長したのだろう?
そうだ、2年前の夏のあと、
スキー部の生徒たちはどうしたんですか?

「秋の大会まではいっしょにやって、
 そのあとはみんなスキーに専念しました」

あ、そういえば、あのとき背番号10をつけてた
スキー部の1年生、いたじゃないですか。
最後にマウンドにあがった子。

「平野亨ですか?」

そうそう、トオルくん、トオルくん。
彼、スキーの大回転かなんかで
いい成績を残したでしょう?
読者の方が教えてくださったんですよ。

「平野亨はインターハイと国体と出ましたね。
 当時、野球部を手伝ってた3人は
 みんなインターハイまで行きましたよ」

うわぁ、さすが。身体能力、高い。
将来、オリンピックとか出てくれたら
すっごいうれしいんですけど。

「ハハハハ、そこまではまだ。
 あ、彼がいまの野球部の監督です」


渡部允也監督。おお、若い。
猪股さんも野球部の監督としてはずいぶん若いけど、
さらに若い印象があります。

「若いですけど、頼もしい監督です。
 きっちりきびしく指導されてますよ。
 あ、それから、今日選手宣誓を務める
 齋藤怜摩のご両親です」


こんにちは。はじめまして。
今日はたのしみですね。

いや、しかし、自分の子どもが
大きな大会の開会式の選手宣誓を務めるって
いったい、どういう気持ちなんだろう。

そうこうしている間に、定刻。
開会式がはじまる。

おっと、こうしてはいられない。
慌てて提出した取材申請が
ぎりぎりのタイミングで通ったから、
今日、ぼくはグラウンドに降りて
取材することができるのだ。

カメラを抱え、グラウンドへ降りる。
開会式前の、独特の雰囲気がある。

2013年7月11日。
いわきグリーンスタジアム。
快晴。
第95回全国高等学校野球選手権記念福島大会、
開会式がはじまる。

(つづく)
2013-08-15-THU