20.入院は激戦である。
ガンジーさんは、病院にいるのが嫌いだ。
たしかに、この『the親戚新聞』の描写を読むと、
病院と留置所はよく似ている。
病気なんだから、普通の自由はのぞめないのはわかる。
だけど、望んでここにいたいという人は、
おそらくいないだろうなぁと、ぼくは思ってしまう。
だから、ガンジーさんも退院するための条件を
クリアするために、必死で戦っている。
「大嫌いなバナナ こりゃ拷問だぜ。
くわなきゃシャバに出られない」
こういうのって、医療として正しいものなのかなぁ。
なんか、変な話だなぁと、ぼくは思うんだけど。
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◆「オン ザ ベッド」
病院の朝は早い と おもっていた。
が この病院の 朝食は8時。
その前7時半ごろ
看護助手という肩書きの おばさん達が
お茶をはこんでくる。
各ベッドに備え付けられた
キャスター付き小テーブルの上に置く
「絶食中」 のプレートがあるテーブルには置かない。
食器は各自 廊下にとめてある電動ワゴン車に入れる。
俺のように 吐き気と悪戦苦闘している患者は
8時半ごろおばさんが 下げにきても
まだ 終わってない。
最長1時間20分かかったことがある。
大嫌いなバナナ こりゃ拷問だぜ。
くわなきゃシャバに出られない。
吐き気と格闘しながら。さらなる強敵だ。
この激戦を3度 経験した”俺は強い!」と
潜在意識に 叩き込みながら。
10時ごろ
”これから回診がはじまります
患者さんはトイレを済ませベッドの上で お待ちください”
と アナウンス。
複数の医師が患者を診る この制度はいいことだ。
露払いの看護婦が ”回診で〜す ” と告げ
やがて数人の医師.看護婦が
どやどや と 病室に入ってくる。
この555号室では 窓際ベッドの 俺が最初だ。
看護婦が
”いかがですかYさん お変わりありませんか?”
と 型どうりの挨拶。
”いいえ ご臨終です お坊さんを呼んでください”
これホントのはなしだよ。
先生.看護婦.だれも 笑わない。
苦笑してるのはいる 他の患者への配慮だろう。
こんなやりとりで
はじめ嫌な顔をしていた同室の患者たちも
俺と看護婦との話から
余命すくない癌患者 と
知ってから態度がかわった。
それでも患者どうしほとんど会話はない
たまに挨拶する程度だ。
そのくせ 他の患者への見舞い客との話には
病人特有の地獄耳をたてているようだ。
見舞い客も話が長くなると 話題がなくなるらしく
他の患者の 「うわさ」 をはじめる。
声が急にトーンダウンするのでわかる。
大方の人間は くだらねぇなぁ と 思う。
もって生まれた資質.磨き上げた才能のある人は
めったにいない と 感じた。
舞台で 演じる人.客席でただ観てるだけの人
人生は 芝居小屋 だ。
なんちゃって。
本日 これまで。
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「うわさ話」って、退屈な集団では、
なんか特別なエンターテインメントなんですかね。
だけど、「うわさ話」に興じている人間の姿って、
なんだかある種のみにくい動物みたいに見えるよねぇ。
きっと自分も、そういうふうに見えるんだろうなぁ、と、
ぼくは気をつけちゃいるんですけどね。
(つづく)
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