糸井重里の、2011年8月19日の「今日のダーリン」より。
 

「イーさん」という名前の犬がいます。
 推定される年齢は10歳ということですが、
 もっとずっと若いかもしれないとも聞きました。
 犬種は「キャバリア」で、たぶん純血種でしょう。
 『福島の特別な夏。』にも登場している友森さんが、
 「愛護センター」から引き取ってきたわんこです。
 
 なんだか目は飛び出しているし、
 舌が口からべろーんと出っぱなしで乾いてます。
 「べーってしているけれど、
  ふざけてるわけじゃないよ」と、
 ブログで紹介されていたこともあります。
 ずいぶん変な、マンガみたいな顔なのです。
 ぼくは、「イーさん」がある程度元気になってから、
 二度ほどあったことがありますが、そのときは、
 少し舌を引っこめたりもできかけていました。
 友森さんが、ずいぶんかわいがってたみたいだから。
 
 「愛護センター」でも、
 「イーさん」のような極端にボロボロの犬には、
 なかなか里親希望者もつかなかったようです。
 友森さんの周囲の人たちも、さすがに
 「イーさん」を見たときには、
 けっこうびっくりした、という話も聞きました。
 
 どうして、「イーさん」がこんな身体になったのか。
 「イーさん」は、何度も何度もくり返し仔犬を産まされて、
 歯も毛も抜け、筋肉の力もなくなってしまったのです。
 「繁殖マシーン」のように扱われ棄てられた犬なんです。
 そういうわんちゃんが、現実にいるんですよね。
 
 よくなるにも、悪くなるにも、「イーさん」は、
 ずっと人間の思うままに生かされていたんですよね。
 犬や猫って、じぶんの運命を決められないからね。
 ぼくは、すべてのペットショップが悪いとは思いません。
 ただ、悪いショップや冷酷なブリーダーがいて、
 それが闇に隠れられるような社会のしくみは、
 犬や猫のためにも、人間のためにも、
 変えていきたいものだと思っています。
 そして、そのことに期待と希望を抱いているところです。
 どうぞ、『犬と猫と人間のはなし。』をごらんください。

 
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