第1回 意識を変えるだけで。
糸井
いま、今年のチームのキーワードとして、
盛んに「野性」とおっしゃってますよね。
はい。
糸井
あと、「自己判断」ということもおっしゃってます。
これは、「群れ」から離れること、
「獣」として独立することを、
選手に求めているんでしょうか。
まぁ、その答えははっきりとは言わないというか、
選手ひとりひとりに考えてもらいたいんですけどね。
やっぱり、野球というものに、
野性味を持って、取り組んでもらいたい。
野生の動物たちには、生きていくために、
戦うだけではなくて、防衛本能もありますよね。
ケガをしたときは、自分で治す力も備えている。
そういうことをすべて含めて、
ひとりで生きていくということだと思うんですね。
それに比べると、いまの選手たちというのは、
少し、まわりが親切になりすぎていないだろうか、と。
糸井
ああ、自分で判断する領域がどんどんせまくなっていて。
そういうことです。
たとえば、肘が痛いとき、病院に行くと、
すぐに患部を映像で確認できて、
病名もたちどころにわかってしまう。
もちろん、それ自体を否定するわけではないんですが、
自分の体を感じ取るような力が
弱くなっているのではないかと。
あるいは練習に関しても、
基本的なメニューというのは、
まず、我々がつくりますよね。
しかし、ただそのメニューを消化する、
というのが練習ではない。
プロである以上、やっぱり自分で
いかに納得してそれに取り組むかということ。
たとえば、今日、ブルペン(投球練習場)に
入る予定のピッチャーが、
ウォーミングアップをするあいだに
「あ、今日はブルペンに行きたくないな」
というときもあるでしょう。
そのときは自分の判断でやめればいい。
ブルペンで10球くらい投げて、
「今日はどうもバランスがよくない」と思ったら、
そこでパッと中断して、
別のトレーニングに切り替えればいい。
逆に、「おお、今日は調子がいい」と思ったら、
予定を超えて150球、200球と投げてもいい。
大事なのは、自分で納得して取り組むこと。
そういったことが、自分の野性味という部分に
つながってくると思うんですよね。
選手たちには、そういったことを伝えました。
選手たちも、チーム全体としても、
もともとの力はあるわけですから。
そこに、個人の野性味を加えてくれ、と。
糸井
プロ野球の選手というのは、
上司のいない職業なんですよね。
チームというのは組織だから、
命令系統というのは、当然、あるんだけど、
動いているプレーの最中に、上司はいないわけで。
ああ、そうですね。
糸井
でも、いまの野球は管理が過剰になっていて。
たとえば、自分で現状に違和感を感じたとしても、
こういうことをしてもいいんですか、って、
誰かにいちいち判断してもらう、みたいなことが。
まぁ、そのへんが、いまは非常に親切であると。
環境が整っているのはすばらしいことですけど、
親切すぎることの弊害のようなものも
あるような気がするんですよね。
糸井
最良の結果を出すために管理している側としては、
間違いがないように、リスクがないようにと、
どんどん策を講じていく。
そうすると、親切にならざるを得ないですよね。
でも、選手ひとりひとりが
親切すぎる環境に完全に自分を委ねてたら、
ただの、野球する機械みたいになってしまう。
そうです。
ですから、全体の目指すものから、
個はもっと独立していていいと思うんです。
糸井
そうですね。
キャンプで練習をするときに、
すべてを選手に任せて、全員、自由に練習させる、
これは、いいことじゃありません。
だから、我々は、基本的なメニューはつくるよと。
そのなかにおいて、選手は、それぞれに選択肢、
そして自主性を持ち、納得した練習をする。
「あー、今日は1日、いい練習ができた」と、
野球人として、自分で納得できる1日を終える。
そういうところに、「野生」が出てくると思うんです。
糸井
原さんも、現役時代の晩年は、
ケガを抱えて練習していました。
もしも、そんなふうに言われてたら、
違う練習ができたのかもしれませんね。
まぁ、ボクもね、時期によっては、こう、
義務感で野球やってたところがありましたからね(笑)。
糸井
言われたことをやるという、
当時の美学みたいなものもありましたし。
「自分で判断してメニューを消化しろ」なんて、
昔の監督やコーチは言わなかったでしょう。
そうですね。だから、今年はコーチにね、
「今年は選手が自分の意志を伝えてくるだろう。
 意志を伝えてきたときにはボクに報告してくれ」
というふうに伝えてあるんです。
先日も、(坂本)勇人、片岡、寺内が、
練習の後半に、特守をやりたいから、
ノックを受けさせてくれって自分たちで言って来た。
あるいは、久保が最初の10球くらいで
ブルペンから引き上げて別の練習に切り替えた。
そういうことが少しずつ浸透しつつあると思います。
糸井
若いころからずっとそういうやり方で練習してたら、
ひとりひとりに、ずいぶん個性が出るでしょうね。
そう思います。
あくまでも「自分がどう考えるか」なんですよね。
本人がどう受け止め、どうそれを消化していくか。
そこがいちばん大切なんです。
糸井
司令部というのは組織の中にあるけど、
自分の中にもあるわけですよね。
だから、「自分で考える」というのは
まさしく司令部の役割であって。
野球に限らず、成熟したスポーツというのは、
優秀な司令部がいちいち命令しなくてもできるように
組織化され、管理されていったわけですよね。
で、そういう環境においては、
選手はただの手足になりやすい。
いま、原さんがおっしゃったことは、
もう一度、動物に戻って、
お前の司令部はお前の中に置くんだよ、
っていうことですよね。
はい。
糸井
それはおもしろいなあ。
プロですからね。
糸井
そうですね、プロですからね。
メシが食えるか、食えなくなるかは、
おまえが考えることしだいなんだよ、と。
そういうことです。
やっぱりプロですから、
クラブ活動、アマチュアとは違う。
我々も、選手に委ねる部分、
ここは任せたよという部分が必要になってくる。
プロである以上は、
自分で自分をつくりあげるという、
大きな責任感を持ってほしい。
糸井
それが練習のときにできると、
試合がはじまってから、また活きてくる。
出てきます。
試合ではもっと如実に、瞬時に出てくる。
もっとも大事なことは、
食うか食われるかという戦いの中で、
いかに自分がいい判断ができるかということですから。
練習の中でそれができるようになっていれば、
試合でも、いい形でできるようになると思います。
(つづきます)
2015-03-27-FRI
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