- 糸井
- 野性味を取り戻す、
動物として瞬時に判断できるようにするという、
今年、原さんが目指す野球は、
ファンとしてとてもたのしみなんですが、
それは、やはり、去年のジャイアンツの
反省点を踏まえてのことなんでしょうか。
- 原
- そうですね。
今年のチームは「新成」という
スローガンを掲げていますが、
ほんとうに、新しくしたいという思いがあります。
昨年の戦い方というのは、
まぁ、結果だけ見るならば、
リーグ戦で3連覇を達成した。
これはもうまったく悪くありませんけども、
内容的には、もう、
二度と送りたくないシーズンですよね。
- 糸井
- 「二度と送りたくない」ですか(笑)。
- 原
- そうです。
- 糸井
- 優勝したシーズンで、そのコメントはすごいですね。
それは、選手にも‥‥。
- 原
- 言いましたよ、選手の前で。
たしかに優勝することはできたけれども、
これだけね、選手の力が発揮されないシーズン、
ひいてはチーム力も発揮できなかったシーズンは、
いままで監督やっていたなかで、はじめてだと。
それはやっぱり、選手ひとりひとりが
コンディションをつくれなかったということです。
ですから、昨年、チームとして、
全員の力が結集した状態で何試合戦えたかというと、
もう、何試合もないよと。
だから、一度解体して、新しいチームをつくる、
というところからスタートしてるんです。
- 糸井
- ああ、そうですか。
あの、去年のシーズンって、ファンからすると、
たしかに観ていてつらかったんですけど、
終わってみればものすごくおもしろかったです。
つまりその、危なっかしい部分が。
- 原
- うーん‥‥まぁ、わかります。
しかし、ボクは思うんですが、
プロ野球というものはですね、
1年の試合の三分の一は、大勝するものです。
また、三分の一は、大敗とはいわないまでも
スカッと負けてしまうのがプロ野球です。
そして、残りの三分の一が、接戦。
この、「三分の一の接戦」を、
いかにものにするかというのがプロ野球の醍醐味だと。
ところが、去年は、すべてが、もうすべてが接戦で。
- 糸井
- 「すべてが接戦」(笑)。
- 原
- だってね、糸井さん、
ボクは初回からサイン出しました。
そんなのプロ野球じゃないです。
- 糸井
- 初回から監督がサインを出すというのは、
やっぱり、あまりないことですか(笑)。
- 原
- ないですよ!
プロ野球における采配、サインはね、
終盤の7回、8回、9回ぐらいで
いいんです、出すのは。
それがボクの理想の野球です。
- 糸井
- はい(笑)。
- 原
- それが、去年は、まぁ、
たとえ初回に2点、3点とっても、
結果的に7回になると4対3ぐらいになって、
「まーた接戦だ!」と。
(自分のヒザをパァンと叩く)
- 糸井
- だって、2回くらいに
ブルペン動いてましたもんね(笑)。
- 原
- そうなんですよ。
「あぁー、また接戦。
いつもいつも接戦ばかりで、このチームは!」
(自分のヒザをパァンと叩く)
と思いながらね、ベンチに座ってましたよ。
これはね、プロ野球のチームじゃないと。
ふつう、三分の一はね、やっぱり、
「よし、これはもうジャイアンツに軍配上がった!」
っていう試合でね、三分の一は、
「今日の試合は相手が上回った」と。
で、三分の一が「接戦」ですよ。
そのときにどうやって勝つかというのがプロ野球ですよ。
(「パァン!」)
- 糸井
- はい、はい(笑)。
- 原
- オーダー(打順)にしたってね、
基本的には、変わらないのが理想ですよ。
それが、コロコロ、コロッコロ、
変わってるようじゃ、高校野球じゃないかと!
(「パァン!」)
- 糸井
- たしかに去年はずいぶん打順が変わりました。
もともと、去年のキャンプでお話をうかがったときに、
「オールスターくらいまではいろいろ試しますよ」と
監督がおっしゃっていたので、
ある程度は意図的なんだろうと思っていたのですが、
けっきょく、最後まで打順を動かし続けましたよね。
あれはやっぱり、いろいろ試しているわけじゃなく、
ほんとうに、毎日、模索して‥‥。
- 原
- いや、もう、必死なんですよ。
いまは「打順を固定するのが理想」なんて
達観した感じで言えますけれど、
シーズンがはじまったら
そんなこと言ってられませんから、
もう、「今日から変えよう」の連続です。
今日からこのチームは変わるんだ、と思っているうちに
百何通りものオーダーになった(笑)。
(※去年は144試合で113通りもの打順を組んだ)
- 糸井
- やっぱり、そういうことだったんですか(笑)。
つまり、「今日から不動のオーダーだ」という打順が
結果的にそれだけ増えてしまった。
- 原
- そうです、「今日から変わる」と。
昨日まではこうだったけど、「今日から変わる!」と。
それが、今日から、今日から、今日から、
今日から、今日から、になって‥‥。
(「パァン!」)
- 糸井
- 9月になって、ようやく少しだけ、
安定した気配がありましたか。
- 原
- 少しだけ安定しましたかね。
しかし、それでも、選手全員の力を
結集させるという感じではまったくなく、
シーズン終盤には(菅野)智之が去り、
それまでチームを引っ張っていた
(高橋)由伸がケガをしたり‥‥。
- 糸井
- しかし、逆にいえば、
それでも優勝できたわけですから。
- 原
- まぁ、それぞれがぎりぎりでカバーし合い、
なんとか優勝することができましたが。
その意味では、昨年のチームで誇れる部分というのは、
試合の終盤、7回、8回、9回の、
投手陣ももちろんですけど、守りがよかったですね。
- 糸井
- 守りは、よかったですね!
- 原
- 外野守備においても、内野守備においても、
守りの凡ミスというのが、ほとんどなかった。
この守備力というのはですね、
創立80年のジャイアンツの歴史の中でも
トップレベルだったと、そう思います。
しかし、「守りから入る野球」っていうのはね、
‥‥疲れますよ。
- 糸井
- そういうものなんですか(笑)。
- 原
- いや、もう、疲れます。スタミナがなくなる。
- 糸井
- つまり、守るというのは緊張感の連続で‥‥。
- 原
- だって守ってるときは、
点が入らないんですから!
(「パァン!」)
- 糸井
- ハハハハハ、そうですね。
- 原
- こんなつまらないことはないわけです。
- 糸井
- 「こんなつまらないことはない」(笑)。
- 原
- まぁ、さっき言ったようにね、
「また接戦か」と思う反面ね、
「今日から行くぞ」という点においてはね、
たのしめたシーズンではあったんです。
オーダーにおいても、戦術、戦法においても、
ものすごく考えたという点においてはね、
非常にスリリングなシーズンではありましたね。
しかし‥‥二度と送りたくないですね。
- 糸井
- はぁーー(笑)。
まぁ、たしかに、ぼくらファンからしたら、
終わってみればおもしろかったシーズンですけど、
今年もああだと‥‥ちょっとつらいですね。
- 原
- つまんないですよ、あんな野球。
- 糸井
- いやいやいや、「つまんない」とまでは(笑)。
- 原
- そういう意味ではね、3連覇はしましたけど、
我々が去年のチームを引きずってね、
あれをベースに上乗せしていこう、
なんていう考え方だったら、
今年はかならず足もとをすくわれますよ。
- 糸井
- あああ、なるほど。
(つづきます)
2015-03-30-MON