第1回 意識を変えるだけで。
糸井
野性味を取り戻す、
動物として瞬時に判断できるようにするという、
今年、原さんが目指す野球は、
ファンとしてとてもたのしみなんですが、
それは、やはり、去年のジャイアンツの
反省点を踏まえてのことなんでしょうか。
そうですね。
今年のチームは「新成」という
スローガンを掲げていますが、
ほんとうに、新しくしたいという思いがあります。
昨年の戦い方というのは、
まぁ、結果だけ見るならば、
リーグ戦で3連覇を達成した。
これはもうまったく悪くありませんけども、
内容的には、もう、
二度と送りたくないシーズンですよね。
糸井
「二度と送りたくない」ですか(笑)。
そうです。
糸井
優勝したシーズンで、そのコメントはすごいですね。
それは、選手にも‥‥。
言いましたよ、選手の前で。
たしかに優勝することはできたけれども、
これだけね、選手の力が発揮されないシーズン、
ひいてはチーム力も発揮できなかったシーズンは、
いままで監督やっていたなかで、はじめてだと。
それはやっぱり、選手ひとりひとりが
コンディションをつくれなかったということです。
ですから、昨年、チームとして、
全員の力が結集した状態で何試合戦えたかというと、
もう、何試合もないよと。
だから、一度解体して、新しいチームをつくる、
というところからスタートしてるんです。
糸井
ああ、そうですか。
あの、去年のシーズンって、ファンからすると、
たしかに観ていてつらかったんですけど、
終わってみればものすごくおもしろかったです。
つまりその、危なっかしい部分が。
うーん‥‥まぁ、わかります。
しかし、ボクは思うんですが、
プロ野球というものはですね、
1年の試合の三分の一は、大勝するものです。
また、三分の一は、大敗とはいわないまでも
スカッと負けてしまうのがプロ野球です。
そして、残りの三分の一が、接戦。
この、「三分の一の接戦」を、
いかにものにするかというのがプロ野球の醍醐味だと。
ところが、去年は、すべてが、もうすべてが接戦で。
糸井
「すべてが接戦」(笑)。
だってね、糸井さん、
ボクは初回からサイン出しました。
そんなのプロ野球じゃないです。
糸井
初回から監督がサインを出すというのは、
やっぱり、あまりないことですか(笑)。
ないですよ!
プロ野球における采配、サインはね、
終盤の7回、8回、9回ぐらいで
いいんです、出すのは。
それがボクの理想の野球です。
糸井
はい(笑)。
それが、去年は、まぁ、
たとえ初回に2点、3点とっても、
結果的に7回になると4対3ぐらいになって、
「まーた接戦だ!」と。
(自分のヒザをパァンと叩く)
糸井
だって、2回くらいに
ブルペン動いてましたもんね(笑)。
そうなんですよ。
「あぁー、また接戦。
 いつもいつも接戦ばかりで、このチームは!」
(自分のヒザをパァンと叩く)
と思いながらね、ベンチに座ってましたよ。
これはね、プロ野球のチームじゃないと。
ふつう、三分の一はね、やっぱり、
「よし、これはもうジャイアンツに軍配上がった!」
っていう試合でね、三分の一は、
「今日の試合は相手が上回った」と。
で、三分の一が「接戦」ですよ。
そのときにどうやって勝つかというのがプロ野球ですよ。
(「パァン!」)
糸井
はい、はい(笑)。
オーダー(打順)にしたってね、
基本的には、変わらないのが理想ですよ。
それが、コロコロ、コロッコロ、
変わってるようじゃ、高校野球じゃないかと!
(「パァン!」)
糸井
たしかに去年はずいぶん打順が変わりました。
もともと、去年のキャンプでお話をうかがったときに、
「オールスターくらいまではいろいろ試しますよ」と
監督がおっしゃっていたので、
ある程度は意図的なんだろうと思っていたのですが、
けっきょく、最後まで打順を動かし続けましたよね。
あれはやっぱり、いろいろ試しているわけじゃなく、
ほんとうに、毎日、模索して‥‥。
いや、もう、必死なんですよ。
いまは「打順を固定するのが理想」なんて
達観した感じで言えますけれど、
シーズンがはじまったら
そんなこと言ってられませんから、
もう、「今日から変えよう」の連続です。
今日からこのチームは変わるんだ、と思っているうちに
百何通りものオーダーになった(笑)。
(※去年は144試合で113通りもの打順を組んだ)
糸井
やっぱり、そういうことだったんですか(笑)。
つまり、「今日から不動のオーダーだ」という打順が
結果的にそれだけ増えてしまった。
そうです、「今日から変わる」と。
昨日まではこうだったけど、「今日から変わる!」と。
それが、今日から、今日から、今日から、
今日から、今日から、になって‥‥。
(「パァン!」)
糸井
9月になって、ようやく少しだけ、
安定した気配がありましたか。
少しだけ安定しましたかね。
しかし、それでも、選手全員の力を
結集させるという感じではまったくなく、
シーズン終盤には(菅野)智之が去り、
それまでチームを引っ張っていた
(高橋)由伸がケガをしたり‥‥。
糸井
しかし、逆にいえば、
それでも優勝できたわけですから。
まぁ、それぞれがぎりぎりでカバーし合い、
なんとか優勝することができましたが。
その意味では、昨年のチームで誇れる部分というのは、
試合の終盤、7回、8回、9回の、
投手陣ももちろんですけど、守りがよかったですね。
糸井
守りは、よかったですね!
外野守備においても、内野守備においても、
守りの凡ミスというのが、ほとんどなかった。
この守備力というのはですね、
創立80年のジャイアンツの歴史の中でも
トップレベルだったと、そう思います。
しかし、「守りから入る野球」っていうのはね、
‥‥疲れますよ。
糸井
そういうものなんですか(笑)。
いや、もう、疲れます。スタミナがなくなる。
糸井
つまり、守るというのは緊張感の連続で‥‥。
だって守ってるときは、
点が入らないんですから!
(「パァン!」)
糸井
ハハハハハ、そうですね。
こんなつまらないことはないわけです。
糸井
「こんなつまらないことはない」(笑)。
まぁ、さっき言ったようにね、
「また接戦か」と思う反面ね、
「今日から行くぞ」という点においてはね、
たのしめたシーズンではあったんです。
オーダーにおいても、戦術、戦法においても、
ものすごく考えたという点においてはね、
非常にスリリングなシーズンではありましたね。
しかし‥‥二度と送りたくないですね。
糸井
はぁーー(笑)。
まぁ、たしかに、ぼくらファンからしたら、
終わってみればおもしろかったシーズンですけど、
今年もああだと‥‥ちょっとつらいですね。
つまんないですよ、あんな野球。
糸井
いやいやいや、「つまんない」とまでは(笑)。
そういう意味ではね、3連覇はしましたけど、
我々が去年のチームを引きずってね、
あれをベースに上乗せしていこう、
なんていう考え方だったら、
今年はかならず足もとをすくわれますよ。
糸井
あああ、なるほど。
(つづきます)
2015-03-30-MON
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