蓮のストールがDきるまで。
 

「蓮の糸のような、
 太さが不均一な素材は
 手織りの機械でしか織ることはできません。
 量産の機械では、切れてしまったり、
 引っかかってしまったりして織れない。
 だから、手織りなんです」(秀雄さん)



「むかしは、農家には
 機織り機があったものだけれど。
 手織りの着物を着るのは、
 ふつうのことだったのよ」(みや子さん)


写真でこそ見たことがあっても
機織り機というのは、ほんものに触れる機会は
とても減っています。
影山さんの工房の道具の紹介なども交えつつ、
その工程をざっと、追っていきましょう。

まず、必要になるのが、糸の準備です。

糸にははじめ、油分やら汚れやらが
付着しているため、
精錬して取り除くという作業が必要です。


そして、蓮の糸の場合、必要になるのが、糸の染色です。
経糸(たていと)に絹糸を併せて使うことで
強度を強めている蓮の糸の織物は、
白い絹糸に染色をほどこして
蓮の糸との色合わせをします。

植物染料で下染めして、
化学染料で微妙な色あわせ。
グレ―褐色に染め上げます。


次に、糊付け、“カセを広げる”という作業、
糸の乾燥など、糸を実作業の中で扱いやすくする
細かい工程を経て、
いよいよ、織機にかける段階へと入ります。


ここで使われている
検糸機という糸の長さをはかる道具や、
糸車という糸巻きの道具も、
とっても味わいぶかいです。
こういった道具は、現在は生産されていないので、
故障したときは秀雄さんみずからが修理をします。


次に“整経”という作業をするために、
大管と呼ばれる管に経糸(たていと)を
糸車を使って巻いていきます。

整経は、機織りの準備工程で、
整経台を使って
織物に必要な本数や長さの
経糸(たていと)を揃えてあげる、
大切な作業です。


整経台では、
大管が管立てに立てられたり、
羽子板という道具で
糸の張り具合を整えたり、
綾(アゼ)を取ったり。

このあたりのこまかいことは省略しますが、
いずれもはじめて拝見することばかり!


そして、この工程の後には、
経糸(たていと)を機に取付けるため、
筬(オサ)という櫛のような道具に通します。


そうしておくことで、
長さ9メートルの廊下いっぱいに
経糸(たていと)を張って、
千切り巻き(男巻き)をするときも、
糸につっている箇所や、弛みが出ず、
均等に巻けるようになるんです。


これでようやく、織機に
経糸(たていと)をのせる準備が整いました。
それにしても、
織機に経糸(たていと)をのせるだけでも、
かなり細かい作業があり、
その作業を支える道具は沢山あるものです。

そこからさらに、節取りという、
極端に太い箇所を取り除く作業や、
経糸(たていと)が一本おきに
上下する仕掛けをつくる作業、
経糸(たていと)の密度と幅を決める作業があり、
そして、ようやく、
機織りへと至るのです。

杼(ひ)という道具を使って、
緯糸(よこいと)を右から左、
左から右と通しながら、
綜絖(そうこう)を上下させて、
段々と布が織り上げられていきます。


そして、織り上がった織布は、湯通しされ、
竹ヒゴの両端に針のついた伸子(しんし)道具で
しわやヨレを伸ばしながら天日で自然乾燥し、
最後に、砧(きぬた)という木槌で
織り上がった布をまんべんなく打って、
風合いを出していくのです。


こんなところが手織りの大まかな工程です
(そう、これでもおおまかな説明なんです)。
ひとつひとつの工程における配慮については、
書き出したらキリがないほど細かいものです。


影山さんのふたつの夢。


影山さんは、素材からインスピレーションを得て、
織物をつくる職人です。
影山さんが、この面倒な作業をひとつひとつ
根気強くこなしていっていく原動力は、
手織りでしかできない糸素材があり、
それを「かたち」にしたいと強く思っているからです。

影山さんにはふたつの夢があります。
ひとつは、“自分の持つ技術を、
次代に継承していくこと”
そして、もうひとつは、
“少しずつ国産の糸を自分の織る布の、
素材として使っていくこと”です。

影山さんからみれば、蓮の糸は、
ひとつの素材に過ぎません。
それでも、影山さんは、
蓮の糸の織物が織り上がったよろこびを
こんなふうに、話してくださいました。

「こんな風合いのものは、
 他の素材ではありえませんよ‥‥。
 しかも使えば使うほど、
 独特な柔らかい風合いが現れて、
 いっそうに楽しめるんですから」


1本の蓮の糸の織物を仕上げるのに
かかる時間は、3週間。
その1本から、4枚のストールがうまれます。
年に数回、個展をひらき、
そのストールを出品しています。
ちなみに、1枚の値段は、12万円。
ストールとしては高価なものですが、
いままでは、完売しているそうです。
着物にも、洋装にも合うと、
女性客を中心に、人気があるそうです。

そのうち、「ほぼ日」オリジナルの色で
「蓮の糸のくびまき」なんて、
つくること、できるでしょうか。
そんなことを考えつつ、富士宮をあとにしました。


(おわり)
 
2010-08-31-TUE
 
 

目次 蓮の糸を織るひと。 2010-08-27-FRI
  蓮の糸のつくりかた。 2010-08-30-MON
  蓮の糸のストールができるまで。 2010-08-31-TUE



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