ほんとうにほんとのハワイ。 |
■Vol.1 プロローグ 大学生の頃に日本語を勉強した私は、 日本の文化や歴史にも興味を持ち、 「いつかきっと日本に住みたい」という思いがつのって 卒業後すぐに日本にやってきました。 日本での生活は、今年でもう5年目になります。 初めて会う日本人に最初に訊かれる質問は、決まって 「どこから来たんですか?」 「どこの国の人ですか?」 というもの。 皆さんも知っての通り、ハワイは1959年に アメリカの50番目の州になりました。 だから私の国籍はもちろんアメリカ。 「どこの国の人ですか?」の質問に 「アメリカ人です」という答えを選ぶこともできるし、 その方が皆さんにはわかりやすいかもしれない。 でも、私はいつも「ハワイ人です」と答えます。 それは、ハワイ人であることは、 私にとってとても大切な“誇り”だからなのです。 ハワイと聞くとみんな一様に 「いいところですねぇ」と言ってくれます。 「そんな素敵なところに住んでるなんてラッキーだよ。 ハワイを離れて日本に住むなんて信じられない」と。 ほんとに多くの日本人が毎年ハワイにやってきます。 ワイキキ・ビーチやアラモアナ・ショッピングセンターは 日本人観光客でいっぱいです。 でも、ワイキキのあるオアフ島以外の 7つの島々を訪れたことのある日本人は それほど多くないようです。 日本の本屋さんに並んでいるガイドブックには 素敵なホテルやレストラン、ショッピングの情報ばかり。 “本当のハワイ”を伝えるものは1冊もありません。 実はそれも仕方のないことで、 ハワイ人でさえ、 白人文化が入ってくる前のハワイについては ほとんど憶えていないというのが悲しい現実なのです。 1893年、ハワイ人は それまで信じていたもののすべてを 捨てなければなりませんでした。 ハワイ語を話すことも許されず、 ハワイの神々への信仰も廃止され、 生活様式も一変しました。 ハワイ人であることのアイデンティティは失われ、 ハワイ人だということがどんな歴史や意味を持つのかさえ わからなくなりました。 私がいま、自分のことを 敢えて「ハワイ人です」と言うのは、 私たちの先祖に対する思い、 失ってしまったものへの思いがあるから。 私の父方の血筋は、18世紀にハワイの島々を 統一したことで有名なKamehameha the Great (カメハメハ1世)治世の頃、 王と同等の権力を持つとされ 政治をサポートする役割を担った司祭、Hewahewa (ヘヴァヘヴァ)につながります。 また、私の母方は カメハメハ1世の血を受け継いでいます。 これがヨーロッパや日本だったら 誉れ高き“名門の出身”ということにもなるのでしょうが、 いまのハワイではほとんど意味を持ちません。 現に、先祖からの地位や名誉、土地、財産などは なにも受け継がれていないのですから。 しかし、私はこの血筋のお陰で お金には変えられない大事なものを 手に入れることができました。 ハワイにはもともと文字がなく、 すべての重要なことは口から口へ伝えられてきました。 特にハワイの歴史は、王族や特別な地位の一族に代々、 その血の歴史とともに絶えることなく 大切に伝承されてきたのです。 だから、200年の間にハワイが 多くのものを失ったにもかかわらず、 私はこの血のお陰でほかのハワイ人よりも 簡単にハワイの歴史に触れることができたわけです。 私の父は、私が幼い頃ハワイの歴史や伝説を よく話して聞かせてくれました。 父の先祖Pa'ao(パアオ)が約800年前、 タヒチからカヌーで太平洋を渡り ハワイにやってきた話は私の胸を躍らせました。 ときには父は私を連れheiau (ヘイアウ=ハワイの古代宗教の寺院)に行き、 私が生まれる何百年も前に、 そこでいろいろな魔術が行なわれていたことを 教えてくれました。 また、森を散歩しながらハワイに自生する 植物のうちどれが薬になり、 どれが毒になるかを教えてくれたりもしました。 そしていま、私がここで 皆さんに伝えたいハワイとは、 数々の観光名所やガイドブックにあるような情報ではなく、 現代への大きな、そしてある意味暴力的な 時代の転換の中で、息を潜めざるを得なくなってしまった ハワイ本来の姿なのです。 |
2000-05-24-WED
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