hawaii
ほんとうにほんとのハワイ。

■Vol.19 ハワイアンの名前
 Hawaiian Language Part4


ほかの国々にも似たような伝統があると思いますが、
ハワイには、とくに言葉の力を重んじる
文化が根づいていました。
言葉はいつも注意深く選ばれた上で使われ、
しかも、同じ言葉は繰り返し使われることによって
それ自体のマナを強めると信じられていました。
さらに、その言葉を口にするときに
感情がこもればこもるほど、
言葉の力は大きくなるといわれていました。

昔のハワイ人にとって、
「言葉の力」という意味で
もっとも大切に扱われてきたのが、名前です。
だから、新しい子供が産まれると
名前(ハワイ語では“inoa”イノアといいます)は
とても慎重につけられます。
新しい名前は、一度呼ばれただけで、
それ自体の命を持ちます。
そして、何回も呼ばれるごとに
名前のパワーも強まると考えられているので、
多くの人々に知れ渡るような有名な人の名は
大変な力を持つことになるわけです。

ハワイ語は、ひとつの単語でもフレーズでも
何通りもの解釈をすることができます。
言葉の深いところに隠された意味のことを、
ハワイ語では“kaona(カオナ)”といいます。
奥に隠されたカオナもまた、言葉に力を与え、
新たな効果を生みだすとされていました。
名前もまた、それと同様です。
たとえば、私の3番目の妹のハワイアン・ネームは
“Kahopehele(カホペヘレ)”といいますが、
この直接の意味は“後ろを歩く人”です。
そのままだと、他人に遅れを取るように
解釈されてしまいますが、
この言葉のカオナは
“人々を気にかけ、周囲を慈しみ助ける”という意味。
深いカオナを持つ特別な名前なのです。

伝統的なハワイアン・ネームの場合は、
名前を見ただけで、その人が生まれたときの場所や
周囲の環境、出生の状況、
あるいは血族に昔誰がいたかとか、
先祖の職業なども分かったりします。
同じ名前を血族で代々受け継ぐのは、
使われるほどに名前のマナが強まるから。
しかも、過去に尊敬すべき先祖がいた場合などは
とても強いマナをも受け継ぐことになります。

名前は、その人の健康や幸福、寿命など
人生すべてに影響を与えるものです。
それほど大切なものだから、
子供が産まれると、どんな名前をつけるかは
一番重要な問題です。
家族で会議して選んだ名前を、
一族を守る神に報告して、正式に決定となります。
その際、血族で現在生きている人の名前をもらう場合は
本人の承諾がもちろん必要ですし、
もうこの世を去った人の名の場合は、
その人の魂に祈りを捧げるのがしきたりです。
ハワイでは、気に入ったからといって
血族でない人の名前をもらうことはできません。
とくに力のあった人、有名だった人の名を
血族でない人が使うと、その人と家族に
よくないことが起こるとされています。

19世紀、ハワイ人にとって
名前が特別なものだということに
気がついた伝道師たちは、
すべてのハワイ人にクリスチャン・ネームを
強制する法律を作りました。
1860年、カメハメハ4世は、
その法律の承認書にむりやりサインさせられたといいます。
また、ハワイには不幸なことが続くと
名前を変えるという習慣もあったのですが、
1872年には、それも禁止されました。
そしてこれらの法律は、なんと1967年まで
施行されていたのです。

ところで、私の名前は、
わずか6歳で亡くなった父の姉の名前を
そのままもらってつけられたものです。
5歳の頃、親族のお墓に行ったとき、
私とまったく同じ名の墓石を見つけた私は
心臓が止まるほど驚き、父にこう聞きました。
「お父さん、私はもう死んじゃってるの?」
「まさか。これは、タマラの伯母さんのお墓なんだよ。
 伯母さんは6歳の時に死んじゃったんだ」

それを聞いた私はさらに悩んでしまいました。
なぜか、自分は伯母さんと同じ6歳になったら
きっと死んでしまうんだと思い込んだのです。
「お父さん、私の顔をちゃんと覚えていてね。
 私は6歳で死んじゃうから。
 伯母さんと同じ歳で死んじゃうから」
私がそんなことを言い出したものですから
今度は父がパニックになってしまいました。

実は、昔のハワイでは“不幸があった名前をもらうと、
その人にも同じ不幸が起こる”と信じられていました。
父はいまでこそハワイの文化や歴史に造詣が深いのですが
当時は若くて、そんな言い伝えについて
深く考えなかったらしいのです。
ところが、小さな私の口からそんな言葉が出たもので
父はもう真っ青です。
慌ててハワイの古代宗教の僧侶を訪ねた父は、
不幸を払うためのお祈りをしてもらったそうです。
そのお陰か、私は6歳のときも何事もなく過ぎ、
いまも無事に生きています。

父にとって、“親族の名を受け継ぐ”というのは
とくに大切なことだったようです。
その考えは妹たちにも伝わりました。
すぐ下の妹などは、二人の子供たちに
父方と母方の両方から名前をもらい、
そのせいで、子供たちはとても長い名前を
もつことになりました
(私にはちょっと張り切り過ぎのようにも見えますが)。

妹の上の男の子は、
“Tevarua”
(テヴァルア。これはタヒチの名前。
 私たちの家族が古くはタヒチからやって来たことを
 意味してます)、
“Kaohukaleponi”
(カオフカレポニ。これは父の名前で、
 「カリフォルニアの霧」を意味し、
 父がアメリカ人との混血であることを表しています)、
さらに
“Apia”
(アピア。サモアの名前。
 私たちはサモアの血も引いているから)、
そして
“Paki”
(パキ。母の先祖の名前です)という、
なんと四つもの名前をもっています。
下の女の子の場合も、
“Tenania”
(テナニア。タヒチの名前)、
“Kalawela
(カラヴェラ。父方の先祖の名前です。
 意味は「とても熱い太陽」。
おそらく、この名を最初にもった人は、
とても暑い日に生まれたのだと思います)、
“Kaho'ilina”
(カホイリナ。母方の曾曾お祖母さんの名前)、
というふうに
三つの名前をつけられました。

さて今回は、みなさんには耳慣れない
ハワイアン・ネームについてお話ししましたが、
実は、みなさんも知っているハリウッド・スターで、
素敵なハワイアン・ネームをもっている人がいます。
“涼やかな風”という意味の
ハワイ語のファースト・ネームをもつその人とは、
いったい誰でしょう?
知ってる人はもちろん、知らない人も想像して、
その答えを私にメールで送ってください。
その際、私の連載の感想なども
ひとこと添えていただけたら、とっても嬉しいです。

2000-07-26-WED
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