ほんとうにほんとのハワイ。 |
■Vol.24 ハワイの伝説 Night Marchers ナイト・マーチャーズPart4 カレオたちは少し山の中に入ったところで、 ちょうどよく落ち着けそうな場所を見つけました。 そこは、駐車場で飲んでいるほかの人々からは 少しだけ離れていました。 駐車場には照明があるのですが、 カレオたちの場所は木々がその光をさえぎって、 やや暗くなっていました。 でも、人々の笑い声は聞こえるし、 全然怖い感じはしないとカレオは思ったそうです。 カレオたちも楽しく過ごし、 夜の空気は少し肌寒いくらいでしたが、 アルコールが彼らを充分に暖めていました。 話も弾み、カレオの頭からはお祖父さんの言葉は すっかり消えてなくなっていました。 そのとき、ふと、木々のさざめきがぴったりと止み、 空気が硬直したような感覚をおぼえました。 カレオは背筋に寒気が走るのを感じ、 同時に首筋の毛が逆立つのがわかりました。 彼は振り返って背後の闇に目を凝らしてみました。 しかし、そこには濃い闇がただ広がるばかり。 友だちはみんな話に夢中になっていて、 違和感を感じたのは彼だけです。 すると、今度はなにか変な物音が 夜の風にのって聞こえてきました。 微かではありますが、でも確かに聞こえる。 なにかを叩く音……。 でも、友だちが話している声にかき消されそうです。 彼は耳を澄ませて音を確かめようとしました。 彼以外、誰もその音に気がついていないようです。 「あの音が聞こえるか?」 カレオは思いきって聞いてみました。 みんなは一斉に耳を澄ませました。 するとカレオのすぐ隣に座っていた友人がこう言いました。 「ああ。なにか、叩いてるみたいだな。 太鼓みたいだけど……」 「お前らにはなにか聞こえるのか」 別の友人が笑い出しました。 「そりゃあ多分、自分の心臓の音だよ。 もしかして怖いんだろう?」 カレオは負けじと笑いながらこう言い返しました。 「そりゃ違うな。 おれが聞いたのはお前の心臓の音だったんだよ」 彼らはみんな、精一杯なんでもないように 振る舞おうとしていました。 恐怖に取り憑かれたくなかったのです。 しかし、不気味な音は確実に だんだん大きくなってきました。 彼ら全員がはっきりと聞き取れるほどに……。 みんなは目を見開き、 信じられない気持ちになっていました。 ハワイで育った者なら誰でも その太鼓の音がなにを意味しているか知っているのです。 「だんだん大きくなってる。 あれは、なんだと思うか……?」 「多分なんでもないんだよ。 でも、おれはもうここにいたくないし、 あれがなにか確かめに行くのも絶対に嫌だ」 ひとりはそう言って自分の荷物をまとめ始めました。 みんな一斉にそこを離れる準備をし、 散らかしたものを慌ててつかみました。 そのうしろで太鼓の音は どんどん大きく迫ってきていました。 それは、カレオのうしろの闇の奥から こちらに向かって近づいてくるのです。 カレオがいたたまれず振り返ると、 いくつものたいまつの明かりが 彼のいるほうに向かって来るのが見えました。 「来いよ、カレオ! 早くここから逃げ出すんだ」 「ああ。すぐ行くよ!」 彼は荷物をつかみましたが、 突然、彼の足がまったく動かないことに気づきました。 腰が抜けてしまったのです。 うしろから近づいてくる太鼓の音が、 カレオの苦しいほどの心臓の音と重なり、 彼はパニックになりそうでした。 しかし、どんなに焦っても 彼の足は少しも動いてくれません。 友人たちは、カレオが動けなくなってるとは知らずに みんな逃げてしまいました。 彼らもうしろを振り返ることなど 恐ろしくてできなかったのです。 鈍い太鼓の音が響き渡る中、 カレオはそれとは別の音を聞きつけました。 それは不気味なチャントの声。 全身の毛が逆立ち、彼は完全にパニックに陥りました。 「約束だぞ、カレオ」 何年も前にお祖父さんと交わした約束の言葉が、 壊れたレコードのようにカレオの頭の中に くり返しくり返し響くばかりでした……。 <To be continued> |
2000-08-10-THU
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