へなちょこ雑貨店。 一寸の虫の五分のたましい物語。 |
第2回 なんで会社を辞めたのか―オオタケの場合 ご来店ありがとうございます。 へなちょこ雑貨店こと、26 two-six です。 オオタケとわたしとは、 かれこれ15年来の付き合いになります。 しかし、15年間べったりと 仲良しこよしだったわけではなく、 そのうちの実に10年間を 大阪と東京という離れた環境で過ごしました。 今みたいに、携帯電話のメール機能を使って、 思ったことをチャッチャッと打ち込み、 即送信、という時代ではなかったので、 その間の連絡手段は主に「お手紙」でした。 今思えば、わたしたち2人の関わり方としては、 これが合っていたように思います。 わざわざ机に向かって手紙を書くという行為には、 思いのほかエネルギーがいるもので、 しかも切手を貼ってポストに投函しなくちゃ 相手に届かないんだから、なおさらです。 でもそのちょっとおっくうだな、という行為をしてまで、 その時感じたことを伝えていたということになにやら、 意味があったように思うんです。 まる1日ないし、2日あけて 相手に届くということを知っているから、 書くぞ、とまず軽い決意を要する。 決意をしたからには、今どんなことが起きていて、 わたしは何に対して、どのように怒っているか、 説明したくなってきちゃって、なおかつその出来事は、 おそらくこの手紙が届く頃にも続いていると思われ、 むしろ事態は悪化しているかもしれない、っていうことも 書いちゃうわけですよ。 おーっ、自分の中で盛り上がってきたーってな感じで、 ペンは走るです。 「わたしがそう思う根拠はね」、なんて くどくなったりもするし、 『わたしなりの解決策』を披露してみたりもする。 そういうことを繰り返す中で、 わたしたちはお互いを知っていったのでした。 そのせいか、離れて生活をしていたわりには、 オオタケとわたしには当時から共通点が多いようです。 うっかり「思春期」に影響しあっちゃった結果でしょうか。 好きなものやヒト、きらいなものやヒトをはじめ、 入った会社やそれに対する思いなんかがよく似ていました。 よくも悪くも相乗効果を引き起こし、 2人の進む方向に迷いはなくなっていくのです。 というか、選択肢が増えないことこの上なく、 のちに顔まで似てる、 見分けがつかないなどと言われるようになる 暗黒時代(おたがいさま)を迎えるのでした。 さて。 彼女が最初に入った会社も、 とある編集プロダクションでした。 そこでの彼女の思い出は、 社内の「派閥」のようなものらしいです。 社長派と編集長派。 これもハタから見ていると 脱力してしまうもののひとつですね。 だって巻き込まれんの、めんどくさいじゃないっすか。 意味ないしー。 ふつうは巻き込まれてみたりするんでしょうか? オオタケはひとり、ひっそりと脱力してました。 でも、ここでは会社員としての多くを体験する前に、 あの阪神大震災が起きてしまったので 仕事も派閥あらそいも尻すぼみになってしまいました。 そして、バーテンのバイトなどをしつつ、 2年半のブランクを経て再就職。 次に入社したのは大阪に本社を構え、 東京や神奈川などに出店もしている中堅商社。 オオタケは関東に両親がいるという 分かりそうで、よく分からない理由で、 しょっちゅう「出張」してくることになります。 東京でバイト連中をまとめてこい、と言われれば 半年だろうと本社へは帰らず、 新規立ち上げのために神奈川へ行け、と言われれば 黙ってそれに従っていたもんです。 こういうことを、「負担」に思ってもいいのかどうか、 当時のわたしたちには分からなかったんですよ、単純に。 思ってもいいのか、ってミョウな話ですが。 会社員たるもの、会社の指示に従うべし!って 基本的には思うものではないかと、思いましてね。 さて、「事件」はオオタケが 大阪に戻ったときに起きました。 ある大きなイベントに向けて、社員全員での準備作業中、 オオタケと一緒に仕事をしていた女の子が やってくれちゃいました。 数日前からイベント参加をやだやだ言っていた彼女、 ついにある日、無断欠勤計画敢行。 なにゆえ、それほどまでにイベント参加がいやなのか、 今となっては知る術もありません。 と同時に、 やだから休むって会社員として、アリだったのか! ということへのオドロキ。 あー、やられた、と思いつつも、 やっつけなくてはいけない仕事は山積み。 それらに追われて文字通り奮闘していたオオタケの体力は 限界を超え、発熱、とうとう日曜日にダウン。 それでも彼女、もうろうとする意識の中で 「遅れて会社に行きます」と電話してしまったらしい。 でも結局起きることができず、 はからずも「日曜日の無断欠勤」となってしまった。 それに対して出てきた社長のひとことが、 オオタケを『脱力感』の世界へといざなったのでした。 よく通るエエ声で、 「お前、丸くならなアカン」。 えっ……。 どうも、社長の頭の中では、 無断欠勤、やられたから、やり返したオオタケ、 という図が完成していたようです。 あのう、前後関係をもうちっと考慮してくれまいか? いやしかし、その前に「丸く」なって、 どうにかなる問題なのかしら? そういうのが今振り返っても、よく分からないです。 そんなこんなで、一足先に再度プーになったオオタケは、 わたしにささやいたんですね。 「もう、いいよ。辞めちゃえよ」と。 このほかにも、2人とも今思い出しても しんどくなってしまうような出来事はたくさんありました。 頭の上に『?』がぴこぴこっと 一気に4こくらい出てしまうような、 わたしたちにとっては、 不条理にしかとれないことがてんこもり。 ただそういう不条理って、程度の差こそあれ、 サラリーマンを続けていく上では 誰もが感じているのだろうと思いますし、 こんなわたしたちですら、 会社に対して、やってらんねーよう!と、毒をはきつつ、 そうは言っても、ひょっとして、 ほんとうに悪いのはわたしたちの方なのかなー? なんて 反省してみたこともあります。 だからここで、そういったモロモロの出来事を これ以上羅列するつもりはありません。 わたしたちに言えることがあるとすれば、 いやな場所(会社とか組織)から逃げるってことは、 新しい居場所をみつけるためのきっかけになるかもよ、 ということです。 オトナたちから、いやなものから逃げるのかー!って 叱られたけど平気です。 逃げるって、ネガティブに聞こえますか? でもやってみるとべつにそんなことなかったですよ。 ポイントは、飛ぶ鳥あとをにごさず。 これさえ守れば大丈夫。 最近のニュースでは、自分をいやな気持ちにさせた上司を ナイフや毒を使って傷つける(消す)人が多くて、 うんざりします。 かなしみだけ残って、なんも解決しとらんじゃないか、 そんなことしなくても 自分が「その場所から」消えちゃえばいいのに、って 思います。 また、会社に対して、いやだいやだ言ったとしても、 そこにとどまることを選ぶ人が大多数だと思います。 そういう、とどまれる人たちにとっては、 わたしたちの発想は短絡的に映ることでしょう。 お前ら、思慮が足りねえんだよ、 社会ってのは、そんな甘いもんじゃねえ、と 腹立たしく思われたり、あるいは、 お前らが入った会社がつまんねえことになってただけだ、 というご意見もありましょう。 たしかに、それも一理ありますとも! ただ、なにしろ、そろいもそろって、2人とも 2度も会社を辞めるという結果を出してしまったので、 そうすると会社だけじゃなくて、 「会社員」であることを やめたくなっちゃうもんなんですよう。 しかも辞める時に、上司への不満が限界に達し、とか、 あるいは、もっと能力を発揮できる場所に移るんだ! とかいう、たぎるような思いを秘めていたわけでは、 ぜんぜんないもんで。 わたしたちの場合、2人とも「脱力」してしまったので、 なおさら、再々チャレンジする気は起きませんでした。 そういうことを鑑みるだにですね、 結局のところ、だれが悪いとか、 そういうことが問題なのではなくて、 われわれには、 どうも「会社員」が向いてないんじゃないか、と そう思ったんです。 おお、連綿と続く思考の流れがかいま見えますねえ。 見えますよねえっ。 でも、これから先も、食っていかなくちゃならない、 じゃあ、店でもやるか、なんですけど。 じゃあ!? (つづく) ※文中、太字部分は、編集部へなちょこ番によって、 施されたものです。
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2000-06-11-SUN
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