へなちょこ雑貨店。 一寸の虫の五分のたましい物語。 |
第6回 どう売るよ? 毎度ご来店ありがとうございます。 せ、先日ですね、ダ、ダーリンが雨のなか、 へなちょこくんだりまで、いらっしゃったですよ。 ふと顔を上げたらですね、 にこにこと笑っていらっしゃるですよ。 わたしが悲鳴を上げたっきり絶句してたらですね、 「わー、驚いてくれた。来てよかったー」と おっしゃるですよ。 いや、そりゃ、驚きますとも。 サインをしていただいたらですね、 ナゼか「来日記念」とお書きになったです。 鼠穴って、じつは海外なんでしょうか? 写真をお願いしたらですね、 これまたどういうわけか「手をブラす」とおっしゃって、 顔の皮膚が揺れるほどに 腕をぶんぶん振ってらっしゃったです。 極めつけがですね、 「わーい。(ほぼ日に)載せてねー!」のひとことですよ。 さすが。 計り知れん。 へなちょこグッズも (無理矢理?)お買い上げいただいて感無量。 以上、 「わたしが店をはじめてイチバン嬉しかったこと」でした。 さて。 「なにするよ?」から、 流れるように「なに売るよ?」とテーマを変え、 次にわたしたちが考えるべきことは 「どう売るよ?」ということ。 これだけを並べてしまうと、 われながら「単純な発想だなあ」と思います。 いや、べつに反省してるわけではありません。 当時を振り返ってみて気づいたことがあります。 それは、わたしたちは精神的不安や、 経済的リスクをしょってまで やっていくつもりはなかったんだということです。 というのも、わたしたちには 「当面」のメシを食っていく方法なら、 ほかにいくらでもありました。 人材派遣会社に登録したり、居酒屋などで夜中に働けば、 余裕で生活できます。 現に今も、「26 two-six」のほかで稼いでいて、 生活費にあてていますし。 だから、ほかに収入を得る方法があるのに、 わざわざリスクをしょいたくなかったのです。 しょせんは「仕事」。 働くのが前提なら気持ちをらくに持ちたかったダケ。 メインテーマは「脱・脱力」。 裏テーマが「ローリスク」。 この2つのテーマを追い求めて、以降も話は進みます。 あしからず。 今までの「なにする?」と「なに売る?」という 話し合いは、「あれとこれは却下。じゃあ、こっちで」 という感じにわたしたちの間では、 スパッと決まっていましたが、 この「どう売るよ?」は、じつに開店の2ヶ月前くらいまで 決定しませんでした。 いや、「どう売るかが決まったから、とにかく開店した」と 言った方が正しいかも知れません。 なにごとも「できそうなこと」にしか手を出したくない わたしたちが、最初に考えたのは「移動店舗」でした。 「店舗を借りる費用(保証金)は莫大だ」ということだけは 知っていましたので、車を店舗にしようと考えたのです。 いずれ店舗を持つことを目標に掲げておいての、 移動店舗案。 動く雑貨屋。 アメリカの文房具やおもちゃを ワゴンに乗っけて売るんです。 ガレージを借りて倉庫にすれば一石二鳥。 これ、けっこう真剣に考えていました。 この時点では、前述しました飲食業との複合型案も 生きていたので、中古ワゴンの相場を調べたり、 知り合いに棚や水まわりなどの改造費を 見積もってもらったりしました。 たしか、中古ワゴンはピンキリで 20万くらいが最低ライン、改造費の方は 800万円くらいと言われたような気がします。 800万円って、わたしたちにとっては莫大ですが、 こちらは店舗の保証金と違って ローンを組むことが可能です。 いけるかも、と思いました。 じゃあ、たとえばどこで売ろうか? そのへんで勝手にお店を広げたらきっと怒られるはずです。 そんな時頼りになるのは『アントレ』(いわゆる 「店舗経営者になるには」ブックは、もっと後で読んでも 間に合うのであります)。 「移動店舗は警察に届け出をすること」とある。 明解だ。 でも、きっともっと怒るのは べつのひとたちじゃないかしら? 場所代のことを、わざわざショバ代という「業界」のひと。 さすがの『アントレ』も、 この場合についての説明はありません。 これは、ひと味違う「精神的不安」なのではなかろうか。 それはちょっと困る。 と、ここまで考えて気がついた。 800万かけて改造した(まだしてないが)ワゴンを だれが運転するのか? って、オオタケさん、免許持ってるのはあなたでしょう? オガワは持っておりませんとも! これから取るつもりもありませんわ。 オオタケに、わたしもペーパー・ドライバーだから、いや。 と宣言されたので、盛り上がったにも関わらず却下。 ある時、オオタケが三軒茶屋のはずれで、 明らかにちょっと前まで 「魚屋」だったことが分かる建物に、 若者向けの古着屋が入っているのを見つけました。 どうやら、そのお店は 「ワンウイーク・ショップ」というもので、その名の通り、 1週間ごとに契約を交わす物件らしいのです。 調べてみると、1週間で家賃が7万円強。 1ヶ月で約30万になってしまうではないか。 これは、安いのか? 高いよなあ? ひとまず保留。 また、渋谷にも古いアパートを改装したと思われる ショップの集合体がありました。 こちらはこの時点では、 だれにお話を聞いたらいいのかさえ分かりません。 頭の隅にひっかけておいて、こちらも保留。 次の案。 昼間営業しているお店の「閉店後」に、 店舗前のスペースを借りるのはどうか。 閉店後に貸してくれ、というのだから貸す方としても、 その家賃収入は完全なる「臨時収入」になる。 これは、うまく交渉すれば 安く貸してもらえるのではないか、と考えました。 飲食業を除いては、たいていのお店は 夜の7時半から8時くらいに閉まります。 わたしたちがその後に営業を始めても、 学校や会社帰りの若者のニーズがあるのではないかと 踏んだのです。 実際に2人でまちなかを歩いて 候補になるような場所を探し始めました。 それと同時に、不動産屋さんを訪ねてみよう、という 気持ちがわいてきました。 今は無理かもしれないけど、いずれ店舗を持つには いくら必要なのかを知っておいた方がいいだろう、 そして、気になっている渋谷の 「元・アパート群」のことも聞いてみようと思ったのです。 でも社会的に見たら、 わたしたちなんてしょせんは「小娘」。 店を借りたい、と言っても門前払いを食うかもしれません。 これは、みょうに緊張するが、 だめもとで行ってみることにしたのです。 (つづく) ※文中、太字部分は、編集部へなちょこ番によって、 施されたものです。
|
2000-06-24-SAT
戻る |