へなちょこ雑貨店。
一寸の虫の五分のたましい物語。

第13回 こりゃ、店をやっちまえってこった

毎度ご来店ありがとうございます。

もう使いましたか?
華々しくデビューした弐千円札と、
気の毒なくらい地味に発行された500円玉を。
スカシやらギザギザやら、おお、ハイテク〜。
わたしはわざわざ銀行に両替に行ったりする
タチじゃないので、お客さまから受け取りました。
26でじゃなくて、
お金の出入りの激しいバイトのコンビニの方ですけども。

さて。
今から9ヶ月ほど時間を戻しまして、お話を続けます。
「大手不動産会社」「人気雑誌」
「新進気鋭のアーティスト」などのことばを、
どこまでも真顔でのたまう「夢優先」なN氏と、
「できることしかやらないぜ」という
「現実味優先」なわたしたちとの間には
大きな食い違いがあり、
わたしたちは彼の「新規事業計画」を断りました。
あっさり。

それではまた「ふりだし」に戻ったのかというと、
そうではありません。
オオタケがN氏に呼ばれて原宿に出かけたときのことです。
たまたまオオタケがひとりで街なかを歩いていた時に
「ジャンクヤード」を発見しました。
大きな声じゃ言えませんが、
わたしたちは原宿の街をまったく知りませんでした。
その場所が若者の間で
「裏原宿」なんて呼ばれていたことすら、
「ああ、言われてみればー」という程度の認識でした。
店をやっている今でも
ちょっと細い道に入ってしまうと余裕で迷います。

ですから9ヶ月前にオオタケがこの場所を見つけたのは
えらい偶然だったのです。
さすがに竹下通りや表参道が若者であふれていることは
知っていましたが、ジャンクヤードがある場所というのは、
それらの通りから一歩入り込んだところにあるのです。
しかも原宿駅から徒歩5分というのは
ちょっとウソ、という距離感。
そんなところにあるジャンクヤードには、
古着屋さんやインディアンジュエリー、
オリジナルアクセサリーのお店などが
こじんまりと入っていました。

その狭い空間を若者がひっきりなしに出入りしていることに
オオタケは驚いたそうです。
「ひっきりなし」というのがポイントで、
これが「ごったがえす」感じだったら、
さほど惹かれなかったと思うのです。
なぜって、そういう性格だから。
商い目指そうが目指すまいが、
人が「やたら」に多い場所は苦手なんです、わたしたち。


ジャンクヤード近影。


裏原宿遊歩道。左がジャンクヤードです。

さっそくテナントの方に不動産屋さんを教えてもらい、
そこへ直行すると、意外なことに
「お客さんラッキー。今いい物件出てるよー!」
と言うじゃないですか。

話を聞いてみると、「ラッキー」と言うのは本当のようで、
人気の高い場所であるにも関わらず、
今ちょうど空きが出たところである上、
たしかにわたしたちにも手が届く金額の物件なのです。
どういうことかと言いますと、わたしが「第7回」で
「今回はタメになってしまうカモしれません」と
お話したことを自ら否定することになってしまうのですが
(ああ、唯一のマトモな回だったのに)、
ジャンクヤードにはいわゆる店舗物件につきものの
「保証金」がないのです。

これは急展開!!

なんでも3ヶ月ごとに更新があるのですが、
その更新料も格安!
月々の家賃は場所柄ゆえちょっと高いのですが、
それでも保証金がないというのは魅力的でした。

ここでのわたしたちの「理論」をご披露しましょう。
たとえば保証金が800万円の物件を見つけたとします。
店を出すまでに月々20万円ずつ貯金していったとして
実際に店を開けるのは

8,000,000(円)÷200,000(円)=40(ヶ月)
40ヶ月を年に直すと
40(ヶ月)÷12(ヶ月)=3.3333‥(年)

3年後ということになります。
3年間、バイト暮らしで月々20万ずつ貯めたとしても、
その時その物件があいている可能性は低いですし、
場合によっては
保証金が値上がりしている可能性もあります。
運良くその物件を押さえたとしても、
さらに月々の家賃はかかっていきます。

これならば、多少月々の家賃が高いジャンクヤードを
「今、借りてしまって、店を開いてしまっても」
いいんじゃないの?
つまり3年間は
「じつは店を開くことができなかった期間」として考えて、
バイトでもしながらやっていこうぜ、という
じつに建設的かつ、現実的な発想でございました。

ふつうじゃ、ない?
でも実際かつかつではありますが、
開店してから7ヶ月なんとか店は持っております。



とにかくけつの穴のでかいオオタケのことばを信じて
契約することにしました。
この不動産屋の社長さんは「小娘2人」であることは
たいした問題ではないようでした。
オオタケがわたしたちの「やろうと思っている店」を
簡単に説明したところ、いともあっさり、
「じゃあ、物件押さえとこうね」
とおっしゃったというのです。
長いこと原宿の街で不動産屋をやってきたのだから
当たり前と言えば、当たり前なのでしょうけれども、
この社長さんというのがじつに好印象の方で、
見た目は普通のおじさんという感じなのに、
その「ものごし」がどこか都会的というか
洗練された印象だった、とオオタケは言っていました。
わたしも後日お会いしたとき、
オオタケと同様の感想を抱いたのを覚えています。

また、不動産屋さんとはべつに管理会社の方もいまして、
その方もひじょうに豪快というか、自信に満ちたというか、
それでいて押しつけがましくないという男性で、
オオタケの話を聞いて
「ほーう。アメリカン日用雑貨というのはいいね、
 面白いんじゃないかな。
 雑誌に広告を載せたい時は
 ぼくの姪ってことで紹介してあげる。
 そしたら広告費を安くしてくれるから」
とまでおっしゃったそうです。

「広告代を“安く”」という言い方が、今は去りしN氏の
「人気雑誌にコネクション」ということばよりも
現実味があるように思いました。
この管理会社の社長さんはとてもフットワークの軽い方で、
自ら更新料を受け取りにやってきたり、
「お知らせ」を配りにやってきたり
(ファックスあるのに)します。
そのたんびに「どう、調子は? 売れてる?」と
聞かれるのがちょっとダケこころくるしいんですけども。

さて、いくら保証金がないとはいえ、
ふつうのアパートなどの賃貸契約と同様の
敷金と前家賃は支払わないといけません。

店をやろう、と思っていたわりに
手持ちのお金は微々たるもので、
「手は届く」範囲ではあったものの、
こんなに急にまとまったお金が必要になるとは
思っていなかったのではっきり言ってあわてました。

なんとかかき集めたのですが、びみょうに足りない。
この時足りなかったお金については
「そんなうまいこと、いくかい!」と
じぶんたちでも思ってしまうような
いくつかの出来事がありました。

ウソみたいなホントの話・その1。

不足額=「26」万円。
これは、ゲンがいいのか、悪いのか? どういうわけか、
店名にちなんだかのように、
きっちり26万円足りませんでした。
さて、その時どうしたか。

そこで、
ウソみたいなホントの話・その2。

まさかの競馬的中!
それもただの的中ではありません。
オオタケがその時よく遊びに行っていたお友だちに
「占い師」をなりわいにしている女性がいて、
その彼女がオオタケの横で朝、目覚めるやいなや、
「よんろく」
とつぶやいたというのです。
「はあ?」
なんのことか分からないオオタケ。
お友だちのお話はこうでした。

なんでも夢枕に11年前に亡くなった
彼女のお父さんが立って
「よんろく! 4・6!!」
と、にこにこしながら繰り返し言ったというのです。
そしてことばとはべつに両手に紙を持っており、
その紙には「2」と「8」と書いてあったらしい。

もともと「霊感」の強い彼女、お父さんのことばを信じて、
さっそく4―6と2―8の馬券を購入したところ‥‥!

2―8連番がみごと的中!

そしてそのお友だちはポンと不足額の26万円を
融資してくれたのです。
ぎゃ、ギャンブラー。
みなさんのけつの穴のでっかいこと、でっかいこと。

わたしはこの話を
興奮しきっていたオオタケからの電話で知ったのですが、
あまりに急な話って、良い話も悪い話も同じで、
あんまり一気に感激できるもんじゃないです。
だってこの時のわたし、
「あ、そう」
としか言わなかったです。
しかし、電話を切ってからしばらくしてやっと、
「えええええっっ???? 今なんつった〜?」
と叫んでいました。

世のギャンブラーの皆さんからしたら、
26万円くらいたいしたことないさ、って
思うかもしれませんが、こちとら頭にドがつくシロウト。
しかも「足りなかったお金」が手に入ってしまったのです。
あれまあ。

こりゃ、やっぱり、店をやっちまえってこった、と
「判断」して、ありがたく頂戴し、
いそいそとお金と「実印」持って
不動産屋さんに向かったのでした。
綿密な市場調査なんて必要ないのさ(わたしたちには)。

(つづく)

※文中、太字部分は、編集部へなちょこ番によって、
 施されたものです。



「Book Match」
「○×フードセンター」
などと、
店名入りのブックマッチ。
おそらく、
つぶれたお店の販促品が、
ディスカウントショップに
大量に流れ込んできたと
思われる。
米国のマッチは
パチンと良い音が
しますよね?

2000-08-17-THU

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