へなちょこ雑貨店。 一寸の虫の五分のたましい物語。 |
第14回 ついに契約、そしてじぶんたちで内装 毎度「へなちょこ雑貨店」へご来店ありがとうございます。 そしてこの連載をご覧いただいて、 原宿の「26 two-six」まで 足を運んでくださるみなさま、ありがとうございます。 いよいよ「のれん会」でございます。 びみょうなサービスをさせていただきますので、 ますますのご来店をこころよりお待ち申し上げております。 さてさて先日、「初・訪鼠」させていただいちゃいました。 鼠穴におじゃましたのです、水曜日の夕飯どきを狙って。 おお、これが金魚水槽! おお、「鼠穴」掛け軸! おお、謎の階段! おお、檜のお風呂! おお、おお、おおおお。 そしてお前の存在なんて小さなものさ、と言わんばかりの どでかいソファ。 鼠穴を拝見できるだけでもシヤワセでしたのに、 お仕事のジャマをしにきたダケのわたしたちに 次々と編集部のみなさまがお話をしてくださいました。 ああ、感激。 みなさま、楽しいお時間をありがとうございました。 そしてお会いできるか分からないと思っておりました darlingが登場。 その瞬間からもう「糸井重里」でございまして、 当たり前ですが。 わたし、舞い上がっちゃったのなんのって、 「具体的に」どのくらい舞い上がってしまったかというと、 毛穴がおっぴろがる思いでございました。 「鳥肌が立つ」よりも具体的表現。 darlingの次のお約束までの数分間ではございましたが、 とてもきちょうな、凝縮された数分間でございました。 うへえ。 darling、そしてみなさま、 ほんとうにありがとうございました。 前回は急に物件が決まったために、 いきなりお金が必要になってしまったお話をしました。 不足額「26」万円はギャンブルでゲット! それも夢に出てきた知らせを信じて。 これはもう店をやっちまえってこった、てなことで 現金と実印を持って不動産屋さんに向かったのでした。 ジャンクヤードを発見したのが昨年の11月中旬で、 すぐさま物件を押さえてもらい、 実際に契約に向かったのは同月末日のことでした。 銀行に預けておいた分を 竹下通りのコンビニの中にあるATM預払機で下ろし、 その場で10万円の束をつくっていきます。 あんまりきょろきょろ周りをうかがっていては、 かえってキケン。 2人の背中で砦をつくってお札をまとめていきます。 ああ、のどが渇く。 この程度の金額で、この緊張感。 われながら小物であることを実感した瞬間でした。 いざ不動産屋さんに到着すると 「見た目ふつうのおじさん、でもどこか都会的」な 社長さん自ら対応してくださいました。 「はい、じゃあ、こことここにサインをして 実印を押してください。代表者はオオタケさんですね」 「ここには連帯保証人さん(オオタケの父上)の サインが必要です。 後日でけっこうですのでよろしくお願いします」 こんな調子で、たんたんと契約は進みます。 そしていよいよ敷金と前家賃の支払いです。 オオタケはサインを続け、 とりあえずついて行ったという感じのわたしは 社長さんが一万円札を数えるのを じっと見守っておりました。 なにがどう、ということもない風景なんですけども、 いやいや、なかなかどうしてドラマチックでした。 わたしはこの時さすがにクチには出しませんでしたけども 「あー、ほんとうに店をやっちまうんだわ、こりゃ」などと 思っておりました。 この期に及んでとはこのことであります。 社長さんがお札を無事かぞえ終え――足りた!――、 オオタケがサイン、捺印を終えると契約は完了しました。 「で、いつ開店?」と社長。 なんてシンプルな質問をしてくる人でしょう。 それなのに、とたんにモタつくわたしたち。 「こ、今年中はむずかしいかと思うので、 ら、来年に入ってからを予定しています」 とオオタケ。 およそ1ヶ月半のあいだ、店を始めようと始めまいと 家賃はかかります。 ちょっともったいない気もしますが、 それは仕方のないことで、この物件を押さえられただけでも 幸運だったのだと思うことにしました。 さっそく「ジャンクヤード・9番」と書かれた 鍵を受け取り、その足でそこへ向かいました。 これからじぶんたちの店となる場所の シャッターを開ける瞬間です。 こみ上げる感動を押さえきれず‥ となれば良かったんですけれども、 ここのシャッターはたてつけが悪いらしく、 血相変えてこじ開けるという展開になりました。 たてつけ? いや、その名も「ジャンクヤード」ですから それどころのさわぎではないことは、 今後いろいろと判明していきます。 不動産屋さんからもらった書面によると、 この物件のサイズは260×273(cm)の「長方形」。 印象としては「ほぼ正方形」です。 この時持参したものは、 縮尺した長方形を紙に描いたものと、 黒いビニールテープ、メジャー。 これは店舗の広さのイメージをつかむためです。 ふつうは、だいたいのイメージが決まったら 専門の内装業者に発注するのだと思います。 いろいろな壁材とか床材などの 「見積り」なんてものを出してもらったり、 施主と業者で「交渉」をして初めて工事に突入する。 しかしわたしたちの場合は違います。 「イメージする → とりかかる(じぶんたちで)」 だっておカネがないもんで。 それから、わたしたちがつくりたかったお店の 「イメージ」というのが 「ガレージふう」というものだったので、 そんなザツなイメージで発注された業者も さすがに困ってしまったことと思うのです。 というわけでじぶんたちで内装をしていくことに決め、 持参した黒いビニールテープを「棚」に見立てて、 床や壁に貼り込んでいきます。 単純な方法ではありますが、 店内の広さを把握するには十分でした。 およそ2坪という狭い店内ですので、 つくりたいだけ棚をつくったところで お客さまが歩けなければ意味がありません。 高さと奥行きを想像しながら進めます。 ビニールテープの「仮想・棚」をセットし終えたところで、 メジャーでサイズを測り、 紙に描いてきた「長方形」に記入していきます。 これが立派な「図面」であります。 じぶんたちが分かればいいんです。 ん? しかし。 合わない。 合わないっていうのは「辺と辺の足し算」が。 こーれーはー、ひょっとして‥。 与えられた書面にあった「長方形」というのを すっかり信じていたわたしたちは、 改めて実際の店舗の一辺の長さを測るということを 思いつきもしませんでした。 そこでメジャーを伸ばして 4辺をそれぞれ測ってみたところ、なんとぜんぶ違う! この結果にわたしたちはどんな反応をしたかといえば。 笑いました。 大いにウケてしまったのです。 「やるなあ、ジャンクヤード!」と。 べつに店の中に必ず「直角」が2つ以上ないといけない、 とか、2辺が必ず平行でなければならない、 などということはありませんから、 それもまたよし、と思って 「図面」のサイズを書き直しました。 「床材 例のやつ」ってなんなんだよー(笑) そしてその夜、事務処理担当のわたしが、 昼間にじぶんたちで描いた「精巧な図面」から 必要な材木のサイズを割り出しました。 これがわたしにとってはたいへんに混乱する作業で、 えらい時間がかかってしまいました。 壁に貼り付ける棚は支柱を立てて棚受けをセットするので 「奥行き」と「長さ」が分かればオッケーなんですけども、 箱状のものをつくる材木のサイズを考えていると、 わけが分からなくなってくるのです。 だって「3次元」を「2次元」で考えてるんだもん。 仕方がないので「図面」から 棚ごとの「設計図」を起こすことにしました。 これまた精巧な。 やっとの思いで必要な材木を割り出し、いよいよ発注です。 前回、亡くなったお父さんの夢を見て競馬を的中させ、 不足額をぽんと融資してくれた オオタケのお友だちの実家がなんと「材木問屋」なのです。 今考えてみても「材木問屋という人脈」はすばらしいなあ。 限られた人脈で進む「26計画」。 とにかくそこへ頼めば かなり安く材木が手に入るというのです。 さっそくわたしが書き出した 材木のサイズ表を彼女に渡すと、 あれだけわたしが時間をかけて割り出したものを、 いともあっさりとまとめてくれたのです。 そしてそれをご実家にファックスしてもらうと、 すぐさま「見積り」が返ってきました。 これが安い。 材木の相場なんて分からないけれど、 内装業者にすべてを頼むことを思えば 相当のコストダウンです。 ケタひとつというのは大げさかもしれませんが、 気持ちとしてはそのくらいでした。 さて、いよいよ実質的な、そしてあらゆる意味で 結果オーライな「店づくり」が始まります。 (つづく)
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2000-08-24-THU
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