へなちょこ雑貨店。
一寸の虫の五分のたましい物語。

第33回 敷金は返してもらえるんですよね?

毎度ご来店ありがとうございます。

  ♪梅ぇはぁ〜咲いぃぃたぁかぁ
   さくぅらぁは まだかいな

待ちに待った春です。
春は出会いと別れ、そして引っ越しの季節ですね。
初めての一人暮らしにこころを躍らせている方、
あるいは、今より広い部屋に引っ越そうとお考えの方など
たくさんいらっしゃることでしょう。
さて後者のバヤイ、あの問題が頭をよぎりませんか?

そう、今まで借りていた部屋の敷金の返還問題です。
当店も先日、姑息な手にひっかかってしまいました。
恥を覚悟でお話ししましょう。
少々カタイお話になりますが、
いつかアナタさまの
お役に立てる日が来るかもしれませんので
どうぞおつきあいくださいまし。

2月の末日をもって、
わたしたちは原宿のジャンクヤードを
撤退することにしていました。
前回お話しました通り、
当日までの準備は順調過ぎるほどに進んでいました。
あとは管理会社にシャッターの鍵を返して、
預けておいた敷金を返してもらうだけです。
なんの問題もないハズでした。

敷金の返還には「原状回復義務」というものが発生します。
これは借りた物件を、
契約時の状態に完全に戻すことをいうのではなく、
故意・過失により汚損、破損した場合に負う
責任をいいます。
つまり、通常の使用にともなう消耗についてまで
負担する義務はないのです。
わたしたちは、事前にインターネットで
どの状態ならば敷金をまるごと返還してもらえるか
調べをつけていました。
だからこそ、最後の掃除では、原状回復どころか、
むしろ元の状態よりも綺麗に掃除したのです。

さぁ、いざ明け渡しの日が来ました。
わたしは当日、別件があったのと、
当店の代表者はオオタケであり、
彼女は物件の管理会社の人とも
1年を通してうまくやっていたので、
ここは彼女に一任することにして同席しませんでした。
また、事前の片づけを
完璧に済ませていることに自信があり、
とくに問題が起こるなどと思いもよらなかったというのも
もちろん同席しなかった大きな理由のひとつです。
しかし、世の中っていうのは、
それほど甘いモノではありませんでした。

当日、そいつ、いや、その人は、
ろくに原状を回復しているかどうか調べもせず
やおら「解約書」なる書類を差し出し、
オオタケにサインを迫ったというのです。
オオタケがおずおずと、

「敷金は返してもらえるんですよね?」

と切り出すと、そいつ、いや、その人は
小さい子どもに諭すような口調で

「そういうのは常識として
 返さないことになっているんだよ」

と言い放ったというのです。

驚いたオオタケは
「ええ〜っ」
と抗議の姿勢を示しました。当然です。
意味が分かりません。
すると、そいつ(ああ、もう直すまい)は、
いけしゃあしゃあと

「最初の書類にもそう書いてあるから。
 そういうもんだから」

と繰り返します。
なおオオタケが不満のオーラを出すと
そいつは作戦変更したのか
一変、親切なオヤジを装うことにしたらしく、

「じゃぁ、オオタケちゃんたちは、
 そんなに長い間ここにいたわけじゃないから、
 特別に半分だけ返してあげよう」

と猫撫で声で言い始めたというのです。

言い値かい!
しかもアンタ“オオタケちゃん”って…。

不満に思いつつも、
その日、最初の契約書を持参していなかったオオタケは
これ以上そいつの機嫌を損ねて
まるまる返還されなくなる可能性を心配しはじめ、
仕方なく差し出された書類に目を通しました。
そこには、

「敷金は放棄します
 返還額     0円」
などと書いてあります。

「これー、大丈夫なんでしょうね?」

サインをする前に確認をするオオタケ。

「大丈夫だから、ちゃんと返すから」とオヤジ。

結局その日は、オヤジがこちらの振込口座を
じぶんの手帳にメモするところを見届けるに終わりました。

そして、オオタケから以上の報告を受けたわたしは、
じぶんがそこにいなかったことを棚に上げて、
オヤジの態度に激怒し、今すぐ契約書類を検めるよう、
代表・オオタケに命じました。
こういうときだけ、大いばり。
そしてほどなく、店舗を借りる際の契約書には、
「敷金は明け渡し完了後、1ヶ月以内に無利息で返還する」
と明記してあることが判明しました。

さて、ここに全額返還するという明確な書類がある、
でも、今日新たな書類にサインをしてしまった。
これは、どうなるのか、ダメでもともとで
専門家に結論を出してもらわなくては
気持ちに収まりがつかないというのが
人情というものでさぁね。

今までも限られた人脈で
すべて乗り越えてきた26 two-six。
「弁護士事務所勤務」という
素晴らしいカードを切る事にしました。
年下でありながら、たいへんに頼もしいその友人が、
早速弁護士さんにつないでくれたので、
すぐさますべての書類を持って相談に行きました。

弁護士さんの結論はこうです。
確かに最初に交わした契約書では
敷金は全額返さなくてはならないものであった。
しかし、「敷金は放棄します」と書いてある解約書に
サインしてしまった時点で、
最初の書類は一切の効力を無くしてしまうんだそうです。

いいですか、最初の書類は「一切の」効力を無くすんです。
ええ、ええ、そうではないかな、とは思っていましたとも。

しかし、今回の件では管理のオヤジ自ら
「半額返す」と口頭で明言しており、
後日送ってきた写し(ファックス)にも、
金額の欄に手書きの訂正と訂正印が押されていたので、
(0円 → 敷金の半分の金額)
この額の請求は、必ず出来るということでした。
契約書に明記してある
規定の1ヶ月を過ぎても支払いがない場合、
弁護士さんから「内容証明郵便」というものを
発行してくれるとのこと。
『規定の期日を過ぎてるのに、
 いったいぜんたい何してくれちゃってんのよ?
 ええ? いいんだよ、出るとこ出てもさ。
 でもアンタだって面倒なことにはなりたくないでしょ?
 さっさと払っちまいなさいな』
てな内容の書類(文面はほんの冗談ですよ。
弁護士さんはもう少し品がいいものです)を作成し、
この書類の写しを郵便局に預かってもらう方法で、
受取人が
「そんな書類受け取ってないもんねー!」と、
オトナのくせにアッカンベーをしたとしても
郵便局が届けたことを証明してくれるというものです。
つまり現時点では、1ヶ月以内に敷金が振り込まれるのを
待つしかないとのこと。

今回わたしたちが引っかかってしまった手口は
相当にあくどい方法らしく、弁護士さんも驚いていました。
でも法治国家において、書類の効力は絶対であり、
一度サインしてしまったものは
受け入れるしかないのだそうです。
こう聞くと
「そりゃ、そうだろーよ! サインする方が悪い」と
お思いの方も多いことでしょう。
でもね、実際に1年間
親切そうな顔して関わってきたオヤジに、
最後の最後にそんなインチキな書類を差し出されることを
想像してみてくださいましよ。
真っ先にやってくる驚きという感情が
とたんにこちらの思考を止めてしまうもんです。
その時オオタケが受けたショックは
思いの外大きかったのでしょう。
そして時間が経って初めて、怒りとともに、
ある種の悲しみすら抱くっつぅもんですぜ。



と、ご心配されては困るので申し上げておきますが、
今回、わたしたちが返還しそこねた額というのは、
幸いにもたいした金額ではありませんでした。
ありきたりな言い方ですが「授業料」として
あきらめのつく額です。
ちょいとバイトに精を出せばなんてことはないのです。

あえて人脈を生かして弁護士さんへ相談に行ったのは、
もちろん全額返して欲しかったからに他なりませんが、
イチバン知りたかったことは
今回の件で業者側のとった行動というのが
世間一般的に悪いことなのか、という判断が
シロウトには出来かねたからです。
つまり、インチキな書類を差し出し、
サインを迫ったという行為、
それは「悪いことである」ということを
法律の専門家に言い切ってもらいたかった。
言ってること分かります?
業者(プロ)に「そういうもんだから」の
一言で済まされていたら、
いずれもしまた同じような局面に遭遇したとしても
再びなんとなく
泣き寝入りしてしまうものではないでしょうか。
今回は半分を授業料としてあきらめることにするとしても、
この失敗により、「次」には間違わなくて済むのです。

わたし個人の感想を感情だけで言ってしまえば、
そういう小汚い方法で
「たいしたことのない額」をだましとって、
何が嬉しいのか、という思いが強いです。
そのオヤジにとっても後味が悪かろうと思うのですが、
そういった考えこそ「甘ちゃん」と
言われてしまう感覚なのでしょう。
世間はわたしたちが考えているよりずっとしたたかですね。
とれるカネは少しでも多くとる。
そういう価値観の人が多いという証拠でしょう。
そんなにカネが嬉しいか?

あたしは、そういうの、ものすごく情けないと思うけども。

でも、こんな社会は
イヤだイヤだ言っていても始まりません。
そんなことは言われなくても分かっています。
それならば、そんな社会と折り合いをつけるために
じぶんたちが世間的に
賢くならなくてはならないと思うのです。
そしてそれと同じくらい強く、
人間として小賢しくなってまで
生きていきたくはないとも思う。

まぁ、このオヤジには小さな誤算がありましたね。
アタクシたちを軽〜くナメてもらっちゃったんで、
こうして、ここ、インターネット界の裏番長、
「ほぼ日」で暴かれちゃってるわけです。
どっちが莫迦なんでしょうね? ふふん。
あとは、3月中に振り込みがなかったバヤイ、
がつんと一気にやらせていただきます。
アタクシ、莫迦にナメられるのが一番嫌いなんですの。
ほほほ。

最後に僭越ながら皆さまにご忠告。
弁護士さんのお話によると、
こちらの無知や、無邪気な信頼感に
つけこんでくる業者は後を絶たないそうです。
返すべきものを返さないだけでなく
理不尽な請求をしてくるケースさえあるらしい。
引っ越しのシーズン、おかしいな、と思ったら
ちょいと面倒でも、弁護士の無料相談に出向いたり、
場合によっては
「小額訴訟制度」というものを利用するなどして
無駄銭を使わないのはもちろん、
賢く敷金を取り戻しましょう!!
エイ・エイ・オー!

(つづく)

「PhotoMailers」

写真を発送するために、
わざわざ厚紙で
封筒をつくりました。
そんな細やかな
心遣いをするのは、
例のアヒルマークの
メーカーです。
この写真は、
メーカー名が
見えるかなあ?

2001-03-15-THU

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