ほぼ日 |
今日、永田先生に
葛飾北斎のことをうかがうにあたって
先生が監修された
「もっと知りたい葛飾北斎(*)」を読んで
予習してきたんです。
|
永田 |
そうですか。
わざわざ買っていただいたんですか。
ありがとうございます。 |
ほぼ日 |
いえ、どういたしまして(笑)。
北斎について詳しく教えていただく前に
この本の前書きに書かれたいた
北斎と先生の出会いから
うかがいたいと思います。 |
永田 |
・・・今日はそんなことまでしゃべるの? |
ほぼ日 |
ええ。前書き読んで
びっくりしたので、
そのことをぜひ。 |
永田 |
そうですか。
僕が葛飾北斎に初めて出会ったのは
小学校の低学年のころなんです。
ちょうどお袋から
「それ、ひとつき分のおこづかいよ」と
100円だったかな。
そのお金を手に握って、
近所の古本屋行ったらば、
ゾッキ本っていってね、
一番安い本が前の棚に
よく置いてあるでしょう。 |
ほぼ日 |
はい。 |
永田 |
そしたら、他の本と全然体裁の違う、
糸で綴じてある和綴じ本が一冊あったから、
それ引っこ抜いて見たんです。
そしたら、これが非常に面白い本なんですよ。
いろは48文字で、
色んな絵柄が引き出せる本なんです。
これが墨一色でいろんな人物が
書き込まれているんですよ。
これはすごいもんだと思って、
値段をみると50円くらいだったから
それを買って、
それから毎日毎日、
学校から帰るとその本を眺めていたんです。
それは一つの絵が小さくてね、
あんまり小さいから
表情は木版画では
彫れなかったんでしょうねえ
顔なんか、のっぺらぼうになってんですけど、
どれもなんか、動いて見えるんですよ。
これはすごいもんだなと思って
大事にしていると
中学の歴史の授業で
その本を描いたのが北斎って人だ
そうか、この人はあの富士山描いてる人か
ということがわかったんです。
それから、どんどん調べていったんですよ。
きっとすごいものだと思うんですけど、
調べてもこの本の名前なんか出てこない。
どうやら北斎の作品の中では、
大して評価されてなかったんですよね。
だから、これだけすごい本なのに、
何故出てこないんだろうっていうのが
北斎研究の始まりでした。
まだその頃は北斎は
100円くらいで買えましたからね。
そういう時代がずーっとありました。 |
ほぼ日 |
本当に北斎が
小学生のおこづかいで買えたんですか! |
永田 |
そうです。買えましたよ。
今じゃまったく信じられないでしょうけども、
そういう時代が結構長くありましたよ。
だいたい、北斎の研究をやるっていうのは
いかがわしいって言われてた時代があるんですから。 |
ほぼ日 |
北斎がいかがわしい? |
永田 |
日本人は、花鳥風月の世界で
美しく余韻のある絵が好きなんです。
つまり狩野派(*)だとかね。
浮世絵自体卑しいものだと思われていたし、
その中でも北斎は
最も下品だって言われてたんですよ。
春信とか、広重のように情緒的でないし
だから、ぼくが研究を始めた頃は
非常に北斎評価っていうのは
低かったですよ。ええ。
*狩野派:
室町時代後期の絵師、狩野正信を祖とする
日本美術史上最大の派閥。
多数の門人を抱え、幕府や各藩の
お抱えの絵師を始め、町絵師としても隆盛を極める。 |
|
|
ほぼ日 |
それは意外なお話です。 |
永田 |
そうですよ。
今みたいになるとは思わなかったですよ。
だからずっと闘い続けてきたみたいなもんで。
ここまでの評価が出るとは思わなかったですけどね。 |
ほぼ日 |
いつくらいからこう、
風向きが変わったみたいな
感じがあったんですか。 |
永田 |
そうねえ。少なくとも
昭和40年代くらいは、
あんまりいい評価じゃなかったですよね。 |
ほぼ日 |
最近の話じゃないですか。
これまた意外なお話です。
北斎のこと嫌いって人はあまりいないでしょうし。
ぼくらは狩野派の絵が
どういう絵なのかは説明できませんが
北斎の絵なら
「こういう富士山の絵がさあ」
と説明できるくらいは知ってます。
冨嶽三十六景 凱風快晴 ギメ美術館蔵
(c) Photo RMN / Thierry Ollivier / distributed by
Sekai Bunka Photo
(画像下部のナビゲーションボタンで、
図版を拡大して、細部をご覧ください。) |
永田 |
それがアメリカとかヨーロッパ行くでしょ。
美術館行って見てくれって言われて、
作品を見るでしょう。
「これ北斎だ」
って言ったら、
みんなすごい喜ぶんですよ。 |
ほぼ日 |
へえ。 |
永田 |
やっぱり、海外の人も北斎が好きなんですよ。
アメリカの「ライフ」誌がおこなった
「この1000年で
もっとも偉大な業績を残した世界の100人」
という企画では葛飾北斎が
日本人でただ一人選ばれてますし、
おととしだったかな、
イギリスのBBCってテレビ局が来て、
北斎の番組に出演したんです。
それはね、10人の偉大なアーティストを
一人1時間半特集するという企画なんですけど
東洋からは北斎しか出てないんですよね。 |
ほぼ日 |
はあ! |
永田 |
だから、北斎がいかに重きを
置かれてるかっていうのは、
我々日本人が想像する以上ですよ。
例えばオランダだと、
レンブラント・北斎展とかね。
そのくらいのレベルでやってますからね。 |
ほぼ日 |
そ、そうなんですか!
糸井さん、北斎もってるらしいんですよ。
今までは「へえ。そうなんですか」くらいにしか
思ってなかったんですけど
すごく羨ましく思えてきました。 |
永田 |
北斎は国際商品ですからね。
糸井さんは何をお持ちなんでしょうねえ。
気になりますねえ。 |