ほぼ日
先生はそれから一気に
中学時代から北斎に…。
永田
もう、北斎だけ。
ほぼ日
(笑)そうなんですか。
ずーっと北斎一筋。
永田
少しは浮気はしてますけども(笑)
基本はやっぱり北斎ですよ。
私、北斎大好きですから。
この人の作品も好きだし、
この人の生き方も好きだから。
普通の人が北斎をイメージすると、
どうしても富士山のシリーズの、
『赤富士』だとか、『浪裏』だとか、
ああいうものを想像されますよね。
現実に今でも、中学高校の教科書見ると、
せいぜい『赤富士』、『浪裏』以外は、
北斎漫画程度しか出てないんですよね。
『赤富士』
冨嶽三十六景 凱風快晴 ギメ美術館蔵
(c) Photo RMN / Thierry Ollivier / distributed by Sekai Bunka
Photo
(画像下部のナビゲーションボタンで、
図版を拡大して、細部をご覧ください。)
『浪裏』
冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏 メトロポリタン美術館蔵
The Metropolitan Museum of Art, The Howard Mansfield Collection,Purchase,Rogers
Fund,
1936 (JP2569) Photograph (c)1994 The Metropolitan Museum of
Art
(画像下部のナビゲーションボタンで、
図版を拡大して、細部をご覧ください。)
有名な『赤富士』にしても
いつから誰が赤富士って言ったのか
実はわからないんですよ。
少なくとも江戸時代に
『赤富士』という言葉は一回も出てこない。
ほぼ日
はい。
永田
ところが北斎ってのは、
今で言うと19歳の時に画壇へ出て、
89歳、数えで言うと
90歳で亡くなるんですけども、
その70年間ずーっと絵を描き続けてるんですよ。
我々が教えてもらう北斎像っていうのは、
ほとんど70歳から74歳の北斎像なんですね。
つまりその、ほんの数年間の北斎のやった仕事が、
北斎の評価になっちゃってるわけです。
今回の展覧会ではできるだけ、
北斎の業績っていうのを
まんべんなく見せるっていうことが、
非常に重要だと思ったので
敢えて今回は
『冨嶽三十六景』全部飾ってもいいわけですが、
それも全部止めたんですよ。
ほぼ日
ほう。
永田
デビューしてから
亡くなるまでの間のものを
まんべんなく見せるということが、
大きな私の主旨ではあるんですね。
その中からまた新しい北斎評価っていうものが
出てくるんじゃないかっていうことが
一番期待してる部分です。
普通の人は、今言ったものしか見てないわけですから、
北斎の他の部分の評価はできないわけですけども、
北斎はどの時代をとっても
素晴らしいことをやってますから
「ああ、もっと若い時期が素敵」だとか、
「富士山を出した後が素敵」だとか、
その中から何かを汲み取ってくれる人が
1人でも2人でも出れば、
それはもうほんとに展覧会の意義は
あると思ってます。
本で見るのも感激をするでしょうけども、
やっぱり実際の作品の持つ重みの中で、
感激をしてもらうっていうことが、
展覧会をやる、少なくとも私の気持ちなんですよね。
ほぼ日
まんべんなく北斎を見ることが重要だと?
永田
ええ。
まんべんなく飾るものを見ていただくと、
北斎の作品のすごさとか、
その時代時代で北斎が何を追及してるのかってことも
よくわかるのかって思うんです。
もう一つ大事なことは、
欧米の人って北斎好きなんですよ。
欧米の人が北斎のどこが好きかって言うと、
作品だけが好きじゃないんですよ。
北斎の生き方が好きなんですよね。
ほぼ日
はあ!
永田
どういうことかっていうと、
この人は70歳代の時に
百何十歳まで生きて、
絵の道を改革するってことを公言してるんですね。
そのために日々はとにかく努力を重ねた人です。
決して、天才じゃないんですよ。
この若いデビュー作なんか見ると、
これが、そんなに上手くないんですよ。
デビューしたての頃の絵
正宗娘おれん 瀬川菊之丞
東京国立博物館 蔵
(画像下部のナビゲーションボタンで、
図版を拡大して、細部をご覧ください。)
ほぼ日
上手くないんですか?
永田
上手くないですよ。
この春章の連中と比べても上手くない。
やっぱり努力の人なんですよ。
北斎が春章の勝川派を
破門になったっていうのも、
他の流派の絵を学んでいたから
という説があるくらいです。
*勝川春章:
役者似顔絵を得意とする江戸時代の絵師。
没個性の様式から脱して、
役者ひとりひとりの個性を表現した。
多くの弟子を抱え、勝川派という画派となる。
常にひとつのところに甘んじないで、
自分が吸収できるものは
すべて吸収したいっていう
そのことだけで生きてる人ですから。
例えば吸収してしまえば、
どこかにそういうものは残しながら、
また次のステップへ行くわけです。
現実に北斎っていうのは、
名前を30も変えてるわけですから。
ほぼ日
そんなに変えてるんですか(笑)。
永田
有名になっちゃった名前を捨てるってことは
大変なことですよ。
糸井さんだって、
明日から社会の人が認めてくれるかは
わからないわけですよ、それは。
ほぼ日
そうですよね。
永田
まして、今みたいに
映像ってものがない時代に
それを平気でやっちゃうんですから。
やっぱり、それはものすごい強い人ですよ。
ほぼ日
とんでもないですね。
永田
とんでもない爺さんですよ、これは。
ほぼ日
(笑)。