あのひとの本棚。
     
第18回 きたろうさんの本棚。
   
  テーマ 「難しいけど、読む楽しさと心地よさを感じられる5冊」  
ゲストの近況はこちら
 
読みづらい文章って、読みづらいんですけど、
それは最初のうちだけで、
数ページ読んでいくと心地よくなってくるんです。
そういう体験をぜひしてほしいと思っています。
わからない言葉なんかは
飛ばして読んじゃえばいいですしね。
そんな、難しいけど、読む楽しさと心地よさを
感じられる5冊を紹介します。
   
 
 

『恩讐の彼方に』
菊池寛

 

『カラマーゾフの兄弟』
ドストエフスキー

 

『海鳴り』
藤沢周平

 

『腦病院へ
まゐります。』
若合春侑

 

『ガダラの豚』
中島らも

 
           
 
   
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  『ガダラの豚』  中島らも 集英社/510円(税込)
 

最近の作品だし、読みにくくはないんですが、
上中下の3巻構成だからなにしろ長い(笑)。
そういった意味で読みにくいと言えます。
さすがに「カラマーゾフ」ほどじゃないですけど‥‥。
宗教とかお祓いとか、そういう話。
ほんと、(中島)らもさんが持っている
独特の世界観で描かれてます。
じつは、らもさんとは何回か飲んだことがあるんですよ。
あるとき大阪を歩いてたら偶然出会ったんです。
2級酒しか飲まない、ほんとの酒飲みでしたね。



この本は、物事っていうのは情報の有無次第で
受け止めかたが大きく変わるってことを
教えてくれた本なんですね。
たとえば、主人公たちが目指す
アフリカのクミナタトゥという場所で
木のてっぺんに牛が刺さっているんですよ。
案の定、現地の人々が「呪いだ!」って恐れおののく。
でも、タネを明かしてしまうとヘリコプターで
吊るして突き刺しただけ(笑)。
「なぁんだ」って思ったでしょ?
ヘリコプターの存在を知っている、
進んだ文明の人は考えつくんだろうけど、
進んでいない文明の人にとっては
呪術師の仕業としか言いようがない。
文明の進み具合で不思議なこと不思議じゃないことが
ハッキリとわかれちゃうんですね。
だから、この世の中にはそんなに不思議なことはない
って思えるようになりましたよ。
ぼくの知らない何かが作用しているだけなんですから。

   
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  『腦病院へまゐります』  若合春侑 文藝春秋/480円(税込)
 

谷崎潤一郎の「春琴抄」に心酔する主人公が、
つき合っている男にひどい目に遭うんです。
このひどい目っていうのがサドマゾ行為なんですね。
ようはSM。
それも、ムチでピシピシやってロウソク垂らすような
生っちょろいものじゃなくて、
もっとすごい、こう男が女にうんぬん、と。
だって、○ん○食わせるからね。
すごいでしょ?

しかも、そのサドマゾ行為を行うための道具を
女に買いに行かせるんです。
本当にしょうもない男なんです。
でも、女は男のことが好きで好きでたまらないわけで、
逢いたい逢いたいと懇願してしまう。
だからズルズルとつき合っちゃう。
人間の性の欲望というのは限りないんです。
だって、男にやられすぎたためにおかしくなって
「脳病院」に行っちゃうくらいなんですから。



前回紹介した『海鳴り』しかり『腦病院』しかり、
僕はこういう情愛の話が大好きなんです。
でも、この作品は旧字なうえに
旧かなづかいで書かれているんですよ。
「まいります」が「まゐります」ですからね。
これは途中で挫折しそうになる読みづらさですよ。
でもね、そこを我慢して読み続けてほしいんです。
読み終えたあとで、
「本当に人を好きになるということは
 こういうことか」ということがわかると思います。

   
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  『海鳴り』  藤沢周平 文藝春秋/540円(税込)
 

これは読み物として純粋におもしろいです。
最高って言ってもいいんじゃないかな。
これは今回紹介する5冊のなかで
一番読みやすいですしね。



内容は江戸時代の不倫のお話なんです。
現代で考えればよくある話ですが、
江戸時代の不倫というのは、
見つかったら男も女もさらし首の刑になるほどの重罪。
そんな状況なので見つからないように
逢い引きするときの描写なんてまさにドキドキものです。
いろいろな手段を駆使したり、
他人の裏を読んだりといった
あの手この手でなんとか女に会おうとする。
その話のおもしろさや楽しさはもちろんなんですが、
なにより不倫を題材にした小説ながらも、
最後ふたりとも幸せになって終わるんですね。
これまでの生活は捨ててしまうんですが、
愛する人とともに明るい希望を持てるっていうのは、
「これは不倫してもいいんじゃない?」
って思えちゃうわけです‥‥。
あ、いま、マズいこと言っちゃいましたね(笑)。

   
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  『カラマーゾフの兄弟』  ドストエフスキー 光文社/760円(税込)
 

僕がこれを読んだのは、大学1年の
5月病にかかったときでした。
「大学つまんない、大学おもしろくない」なんて
思ってるときに出会ったわけです。
時間は余るほどあったので、腰を据えて読んだら、
三男(アリョーシャ)の純粋な気持ちに
大きなショックを受けまして、
半年くらい人と話すのがイヤになってしまいました。



僕自身は無宗教なんだけど、三男が崇拝する
宗教というもののすごさをまざまざと感じました。
三男の純粋な気持ち、俗物を嫌う姿勢に
ショックを受けたわけです。
「精神的に生きるのってすごいなぁ」って。
そうこう考えているうちに、自分のまわりの人間が
ものすごく俗物に思えてきて、
純粋に「もっと精神的に生きられるか」って
半年くらい悩んだりしました。
でも、そのときもう演劇は始めてたんですね。
そんなもんだから、当然のごとく
演劇のほうにも支障が出てるわけです。
で、いろいろと考えに考えて、
ついに答えが出たんです。

「いちばんの俗物は僕だ」。

たどり着いた結論が、
「人間、そんなに精神的には生きられない」って
ことだったんです。
そのおかげでコントとか演劇に
精力的に取り組むことができましたね。
ホント肩の荷が下りる感じでした。
この本から教わったことは大きいと感じてます。



これも『恩讐の彼方に』と同じように、
若い人には是非読んでほしいですね。
精神的に生きることってすごいなぁって、
少しでも思ってもらえればうれしいな。
でも、まぁ、恐ろしいほど長くて、難解だから、
時間はたっぷり用意しておいたほうがいいですよ。

じつは僕の息子にも「読めっ!」って勧めたんです。
そうしたら、僕とおなじくらいの時期に、
ちゃんと読んでましたよ、半年かかりましたが(笑)。

   
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  『恩讐の彼方に』  菊池寛 岩波文庫/525円(税込)
 

これは短編集で、タイトルにもなってる
『恩讐の彼方に』以外にも
おもしろい作品がたくさん入ってます。
初めて読んだのが高校生のころで、
寝床に入って寝ながら読んでたんです。
で、読み終えたら涙がボロボロと止まらなかった。
本を読んで感動して涙が出るなんて、
生まれて初めてのことですごく驚きました。
疲れてたんでしょうね(笑)。
そう思いたいなぁ‥‥でも違うよなぁ(笑)。



この『恩讐の彼方に』は、罪を犯した男が出家して、
その罪を償うために、20数年かけて岩盤を掘り進めて
巨大なトンネルを作るっていう話なんですけど、
ほとんどをひとりで掘り続けるんです。
そんな信じられないことを、
この男はやり遂げるんです。
ほんと、とことん突き詰めていくと人間ってのは
すごいことができるんだなと気づかされました。
言うなれば「人間の力強さ」とでも言いましょうか。
人はひとりででもやらなきゃいけないことは、
やり遂げることができるんだ、というような
希望に満ちた力強さですね。
当時僕は純粋な高校生だったから、
なおさらそう感じました。
罪人は死刑にしちゃいけない、
悔いを改めさせたほうがいい、と僕は思います。

ちょっと読みづらい文章なんだけど、
短編だから我慢して読めば、
僕のときと同じような感動を味わえるはずです。
とくに若い人に読んでほしいな。

 
きたろうさんの近況

大竹まことさん、斉木しげるさんたちとともに結成した
コントユニット、シティボーイズとしての活動はもとより
映画やテレビドラマ、バラエティ番組でも
ご活躍中のきたろうさん。

そんなきたろうさんがご出演し、
2008年のお正月に公開された映画『全然大丈夫』
ゆるゆるとした時間が流れるなか、
荒川さん演じる主人公と、
個性あふれる不器用な登場人物たちが描く
恋愛作品です。
その『全然大丈夫』がこの夏、
DVDとしてリリースされます!


全然大丈夫(通常版)


全然大丈夫(特別版)

ポニーキャニオン
通常版:3,990円(税込)/特別版:6,090円(税込、2枚組)
8月29日発売

なんでも、きたろうさんと荒川さんは
飲み友だちなんだそうです。
そんなふたりが出演されている『全然大丈夫』について
語っていただきました。

「ぼくは、良々くんの父親が経営する古本屋に
 ちょくちょく顔を出す栗田っていう金物屋の役なんです。
 本なんてそれほど好きでもないのに、
 その古本屋がかもしだす雰囲気が好きで
 ついそこに来てしまう。
 本なんかには見向きもせず、店のなかで
 ビール飲んで憩んじゃったりしてね。
 ちなみに金物屋然としているシーンはまったくないから、
 映画見ても金物屋だってことは
 絶対にわからないと思いますよ(笑)。



 持っている雰囲気はのんびりしている映画なんだけど、
 撮影しているあいだは
 とにかく藤田監督の要求がすごく難しかった。
 演技指導をしてもらうんですけど、
 指示が漠然としていることが多かったんです。
 あるシーンなんかでは、
 「水の底にいるような演技をしてくれ」って
 要求されまして(笑)。
 ぼくなりに考えてようやく考え出せた
 「水の底にいるような演技」をするんです。
 でも、監督の思惑と違うらしく、
 そのたびに「こうかな?」って考え直して
 何度も撮り直しました。
 で、本編を見てみたら見事にカット(笑)。
 あれだけ考えて演技したから僕も納得がいかなくて、
 「どうしてカットしたんですか!?」って
 監督に問いただしたら、
 「映画の全体図を考えるとバランス的にちょっと‥‥」
 という理由からでした。
 けっこうよく「水の底にいるような演技」が
 できたと思ったんだけどなぁ、って思ってます。
 是非見てもらいたかったですよ、
 「水の底にいるような演技」。
 でもね、その厳しさのおかげで
 独特の雰囲気を持ついい作品になったとは思います。

 良々くんの初主演作品なんですけど、
 その厳しい監督がね、
 いいところをちゃんとわかってるんです。
 こういう演技をさせればいいってことが。
 それが引き出せてたから彼自身も
 伸び伸び演じられたんじゃないでしょうか」

なるほど。
いいですねぇ、伸び伸び演技する荒川さん。
それにしてもきたろうさんの「水の底にいるような演技」、
ぜひ見てみたかったですよね。残念!
さらにこの『全然大丈夫』の公開にあわせて
きたろうさん、荒川良々さんのコンビによる
深夜ドラマ『さば』も放送されました。
こちらも今回、DVDとなって発売されます。
「全然大丈夫」同様、藤田容介さんが監督です。
きたろうさん、「さば」はどうでした? 
なんでも「さば」が物語の大きな鍵だとか?

「これはね、とてもテーマのはっきりした作品なんです。
 それこそ「精神的に生きることのすてきさ」みたいな
 メッセージが劇中の笑いの中にあふれてますよ。
 奥が深い作品ですが、話の根源は、
 おばあさんがまちがって
 「さば」にソースをかけちゃう、
 ただそれだけのことですからね。
 それをここまで広げるんだからスゴイですよ(笑)。
 僕のまわりには辛口の評価しか
 言わないヤツが多いんですけど、
 この『さば』は、その辛口のみんなが
 口を揃えて「よかった」って言ってくれました。



 ぼくは、終始おばあさん役で出てます。
 監督もスタッフも役者もみんな自由にやってましたね。
 テレビドラマと映画の違いはあると思いますが、
 明らかに『全然大丈夫』よりも自由でした。
 「水の底にいるような演技」を
 求められることもなかったし(笑)。

 良々くんも『全然大丈夫』以上に
 伸び伸びやってましたよ。
 いっしょにおばあさんの役もやりましたしね。
 あ、そうそう、出会ったときから、彼をずっと
 「お釈迦様みたいな顔してるなぁ」って思ってたんです。
 で、今回、僕が彼と初めて会うシーンで、
 「よく見るとお釈迦様に似ていらっしゃる」って
 セリフがあるんですよ。
 「やっぱり誰が見てもお釈迦様なんだな」と
 再確認しましたね。」

荒川さんのお釈迦様フェイスを堪能できる
『さば』のDVDは8月29日、
『全然大丈夫』と同時発売です。


ポニーキャニオン/2,940円(税込)
8月29日発売

 

2008-08-29-FRI

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