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糸井 |
あえて言えばさ、
堺くんが髪が伸びていったのが
すごくおもしろかった。 |
堺 |
ふふふ(笑)。 |
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糸井 |
(笑)それは笑うところじゃないんだけど。
ああいう辺りの、台詞に描けない芝居?
ボディそのものの芝居? |
堺 |
そうですね。
料理も、最初すごく丁寧に作ってるんだけど、
後半もうガチャガチャのグチャグチャにするっていう、
あれは、随分最初から言ってましたね。 |
糸井 |
で、気が付かない人はわからないと思うよ。 |
堺 |
ああ、かもしれないですね。
もっとワイルドにしようかなと思ったけど、
やっぱりね。 |
糸井 |
それはしちゃだめだよ。
あのくらいじゃないと。 |
堺 |
だめなんですね。 |
糸井 |
堺くんが、「ここは芝居していいんだね」
っていう感じになるシーンが
ひとつだけあるでしょう。
涙を流すシーンがある。 |
堺 |
はい(笑)。 |
糸井 |
具体的になぜ涙を流すのかは
描かれていないんだけれど、
そこはお客さんが自分で作ればいいんだよね。 |
飯島 |
最初の台本にはもっとわかりやすく
そのシーンの背景が描かれていたんですよ。
それを、外したんです。 |
糸井 |
それは監督に勇気があるね。
あんなに泣くとは思わなかったもんね。 |
堺 |
そうですね(笑)。
あそこは、唯一、芝居ができる、
主張のできる場所だったんですよ。 |
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糸井 |
あそこは、芝居していいんだよね。
監督はそれを許したんですよね、つまりね。 |
堺 |
ですよね。そうですね。 |
糸井 |
監督は、本人はすごく照れ屋なのに、
他人には「照れないでやってください」
っていう注文をしてるんですよね。 |
堺 |
で、本人は照れてるんでしょうね。 |
糸井 |
ね。試写会の舞台挨拶も、
ぜんぜんしゃべれないんだ。
それでひとりでクスクス笑っちゃうの。 |
堺 |
現場でもひとりでクスクス笑ってる
タイプの監督でした、沖田さんは。 |
糸井 |
お〜お(笑)。 |
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堺 |
ずっとそうでした。 |
糸井 |
で、その言葉にできなさが、
言葉にならないギャグの使い方っていうか、
映画のなかのおもしろいところを
いっぱい作ってるんで。
あえて言えば、フィンランド映画の、
アキ・カウリスマキとか。 |
堺 |
そう、アキ・カウリスマキはそうですね。 |
糸井 |
ねえ。 |
堺 |
似てる感じがしましたね。 |
糸井 |
それから、アメリカだと、コーエン兄弟の
『ビッグ・リボウスキ』だって、
俺は言ったんですよね。
ボーリング場で、ただ、ボーリングしてるシーンとか、
会話そのものじゃないところに話があって。
で、そういう影響を受けてる人かはどうか知らないけど、
ぼく、それはそれで育つといいなと思って。 |
堺 |
演劇の世界のほうがちょっと先に
その流れは来てるのかもしれないですね。 |
糸井 |
あ、そうか。 |
堺 |
うん。200人ぐらいの小さな小屋(劇場)で、
この南極の食堂のセットだけ作って、
そこに出入りする一幕ものって考えると、
すごくこう、“読めた”んですね。
その演出と作品の関係とか。 |
糸井 |
あぁー、なるほどね。 |
堺 |
結構そういう時って
演技しやすかったりするので。 |
糸井 |
みんなまた慣れてる人同士だしね。 |
堺 |
芝居しすぎると、やっぱりだめなんですよね、
きっとそういう時ってね。
どこかで抑制していかなきゃいけなくて。 |
糸井 |
解決しないっていう自信みたいな。
エピソード1個ずつ、
「あれ、どうなるんだろう」
とお客はいつも思ってて、
解決を求めちゃうんですよね。
でも『南極料理人』にはそういう答えはない。
喧嘩のシーンのあと、
仲直りのシーンはないわけです。
だから「それ、どうなったんだよ」って言われると
困るんですよね。
でもその辺りの放り出し方は、
知的だな、というか。 |
堺 |
そうですね。
わかりやすいストーリーを繰り返すっていう
前提があるから、
エピソードを所々摘むことが
可能だったんでしょうね。 |
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糸井 |
ぼく、南極じゃないけど、
北極に近い零下35度みたいな所は行ったことあって。
外に出るっていうことは、
そのまま「死」だっていうことを知ってるんですよね。 |
堺 |
うんうんうん。 |
糸井 |
だから、そのリアリティーはすごくありました。
で、こいつら(観測隊員)慣れちゃってるから、
すぐ外に出るじゃないですか。
ふざけてたら死ぬんですよね、本当はね。 |
堺 |
そうでしょうね。だけどね、
この南極の人の話を聞きに
極地研(国立極地研究所)に行ったりとか、
資料を見るんですけど、
裸の写真ばっかりなんですよ。
なぜ人は裸になりたがるんでしょうね、
こういう所で。
記者の方が実際南極に行かれて、
本も出してるんですけど、
なんのかんの言って脱いでるんですね、男は。 |
糸井 |
よくわかる! |
堺 |
あれ、なんでしょうね? |
糸井 |
なんでしょうね。 |
堺 |
(笑)試したいんでしょうかね。 |
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糸井 |
ダイナミックレンジみたいなものを
確かめたいんですかね、人間の。 |
堺 |
生きてるっていうことを? |
糸井 |
すごい乱暴な人は頭を剃るじゃないですか。
ツルツルにして脅かすっていう
意味もあるんだろうけど、
あれって、攻撃に対して弱くなる、
っていうことじゃないですか。
だから剃った分だけ俺は強いんだ、
っていうことじゃないですかね。 |
堺 |
両手ブラリの、ノーガードができるという? |
糸井 |
ブラリですよ。裸になるの、よくわかりますよ。
俺も、なんかそういうふざけ方したくて
しょうがなかったもん、北極圏にいる時に。
二重窓を無理に開けて、
茹であずきを外に出すんですよ。
で、慌てて閉めて、
外回って行って取りに行くと、
氷小豆になってるの。
(つづきます) |