楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
第10回 ぼくはおにぎりが握れる。
糸井 「楽しく食べなさい」って言われるじゃないですか。
だとしたら、黙って食うわけにいかないじゃないか、
っていうのが、俺、言い訳なんだけど(笑)。
うん。
でも、食べながら演技するって、
実はものすごい品が悪いことなんですよね。
糸井 勿論そうですよ。
それを両方言われるわけですよね。
「もっと和気あいあいとにぎやかに食べながら、
 笑ったりしてないで食べよう」って。
どっち取ればいいんだって思うんですよ。
そうなんです。品よく交われって
言われてるようなもんで。
糸井 実際には、本当に黙って食べてるのは辛いよね。
どんよりしますよね。
あ、そうですか。
でも、ラーメンかなんか出てきて、
無口になって、無心な瞬間っていうのは
ありますよね。
糸井 ある、ある。
ラーメンは黙ってます、ぼく。
ラーメンは無理です。
(みんなに)ラーメン、無理だよな。
── 無理ですねえ。
『南極料理人』の中でも、
ラーメンがあって。
糸井 あるあるある。
結局黙っちゃったんですよね。
しゃべれなくて。
「伸びちゃうよ」しか言えなかった。
糸井さんでもラーメンは黙るんだ。
糸井 無理。
黙るっていうか、無理。
(笑)吸う作業ですからね。
吐きながら吸えないですもんね。
糸井 鼻でしゃべるしかないよね(笑)。
あ、でも、やればできるね。
つまり、落語で『時そば』ってあるじゃない。
そうですね。今ぼくも思いました。
「そば」ですね。
糸井 だから、やればできるね。
タコは相当きついよ、やっぱり。
タコ、なんだろう。
なんでこのしゃべりにくさは。
糸井 本当に噛む必要があるんだろうね。
(笑)本気でね。
糸井 (むしゃむしゃ食べながら)
この納豆コールスローはすごいね。
イギリスパンの薄いトーストかなんかをこう、
カリッとやって、
で、またこれやって、みたいな。
ガーリックトーストにしてもいいし。
でんぷんは少なめだけど、
ご馳走にしちゃえば、これ、
いくらでも食えますね。
ちっきしょう。
なあ、ずっと食ってたいよな。
コールスローって元々俺、好きなんだよね、実は。
すごい量のキャベツでしょ、これ?
一同 (やっぱり食べながら喋ってる‥‥)
飯島 この後は、焼きそばに合うメニューとして
唐揚げも。
一同 おぉ~!
(うれしそうに)
焼きそばに唐揚げ?!
飯島 あとですね、
玉ねぎを焼いた‥‥
糸井 (うれしそうに)
玉ねぎを焼いた?!
飯島 玉ねぎにホタテの水煮缶を汁ごと入れて、
混ぜて、それをチヂミみたいに
ちょっと焼いたもの。
練りからしと塩で。
糸井 (目をつぶって天を仰いで)
あぁー!
飯島 あと、レモンパイを作りました。
糸井 (ちょっとくねくねと)
んもう、余計なことを~。
糸井さん、糸井さん(笑)。
飯島 ちょっとずつですけれど。
糸井 まずいなぁ。
踏み込まれたら捕まっちゃうよ!
『南極料理人』の撮影のおわりに
飯島さんたちと記念撮影をして
それを糸井さんに送ったんですよ。
そのメールの返事が、
悔しそうでしたもんね。
糸井 悔しかった!
文面から本当に、
ただただ悔しがってるんだ、この人は、
っていう気持ちが伝わってきました。
糸井 だって、ぼくは、何度、
用がないのにここに来たことだろう。
(笑)。
── 用、ありますよ。
糸井 いや、用があるフリをしてね。
食い物は人を引き付けるよね。
そうですね。
ぼくもここで食べたいろんなものの味、
結構覚えてます。
── 堺さん、ここで練習したんですか。
ここで練習しました。
糸井 それは幸せな。
羽生善治の家で将棋を習った、みたいなね。
(笑)ここ、ぼくの初アオリが
成功した現場です。
糸井 ふーん!
あおったんですね。
あおったんです。
あれ、人んちのキッチンだとあおれるね。
一同 (笑)。
こぼしてもいいんだと思うと
あおれるんですね。
糸井 なるほど、なるほど。
糸井 肉野菜炒め食べた?
肉野菜炒め?
糸井 飯島さんの肉野菜炒め。
食べてないですね。
糸井 それはね、ふふふふふ‥‥。
── 焼きそばもそうなんですが、
『LIFE』の2巻に掲載するレシピなんです。
糸井 それが何でもないように見えるんだけど、
旨いんですよ。
なんて言っていいかわからない旨さなんだよね。
それこそ太文字がないのよ。
ほぉー。
糸井 だから、『LIFE』で
「お父さんの」とかっていう言葉は、
太文字じゃない分を足してるんだよ。
飯島さん、きょうの焼きそばは‥‥、
飯島 まだ研究途中なんですが、
今日は2種類あって、
塩味のアサリ焼きそばと、
ウスターソースと両方。
書籍版はウスターソースです。
糸井 へぇ~!
すでに食べたい。
そちらのテーブルにはおにぎりが。
ちなみに、具はなんですか。鮭ですか。
── 鮭です。
これ、こちらは焼きそばが
少ないかもしれないのでと
作ってくださったんです。
おめしあがりになりますか。
いや、ぼくはもう焼きそばまで、
がまんします!
糸井 危険です。
飯島さんのおにぎりは、
なんだろうっていう旨さでしたね。
糸井 あの映画の中におにぎり出てきたよね。
── 飯島さんっぽいおにぎりでしたよ。
これです、これです、本当に。
『かもめ食堂』もこれですもんね。
糸井 熱いご飯を握ったんだよね。
握りました。
飯島 熱いですよね、本当に。
ここで、最初におにぎりをつくったとき
本当に「ひやーっ」って言いましたね。
「うわっ」って。熱くて。
糸井 根性要るよね。
飯島 『かもめ食堂』でおにぎりをつくるシーンを
ワンカットで撮りたいと、
監督がとんでもないことを言い出して。
しかも「炊き立ての、
鍋を開けた瞬間の湯気が欲しい」って。
で、そのままクレーンで引いて、
そのままボウルに出して
すぐ握って、みたいな。
糸井 うわ~!
もう本当に。火傷しそうなくらい熱いです。
飯島 でも、見てたら結構、もたいさんとか、
楽しそうになさってるんで、
意外に大丈夫なんだと思ってたら、
「カット」の声がかかったとたん、
みんな投げて(笑)。
一同 (笑)。
飯島 やっぱり熱いんだ。
演技で、騙されました。
ぼく、自分の隠れた才能を見つけましたね。
ぼくはおにぎりが握れる。
糸井 全体に、なんか上手そうだった。
よかった。もうここで特訓ですよ、本当に。
榑谷 すごいんですよ。すごいきれいで、
すごいスピードでおにぎり握って。
あれはメンズおにぎりでしたね。
このぼくの手の形。
糸井 いや、見事でしたよ。
よかったです。


(つづきます)

2009-08-28-FRI


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN