── | 「合羽橋珈琲」に着きました。 重松さん、飯島さん、お疲れさまでした、 ありがとうございました。 |
一同 | お疲れさまでしたー。 |
重松 | のれんとか、看板とかってさ、 「なんちゃってもの」はよくあると思うわけ。 本物っぽいけども玩具だよっていう。 でもかっぱ橋で売ってるのって、 普通に焼き鳥屋さんにかかってる、 本物ののれんでしょ。 |
飯島 | はい。 |
重松 | (しみじみ)本物なんだよね。 何かね、そこがすごく新鮮だった。 |
── | パーティグッズとは違うんですよね。 |
重松 | そうなんだよ。ほんとに仕事で プロの人が使ってんだなあと思うとさ、 1つひとつが、重いんだよね。 |
飯島 | ああ、そうですね。 |
重松 | じっさいに重量もあるし、 わりとさ、無骨で。 |
飯島 | 専門の道具の だじゃれっぽいネーミングも おかしかったですね。 |
重松 | うん、だじゃれが多い。 ミジン。 |
飯島 | ネギー。 |
── | キンピラー。 |
重松 | こういう町っていうのは 日本には、かっぱ橋しかないの? |
飯島 | そうですね、大阪にちょこっとだけ、 こじんまりした道具街があるんですけど、 こういうとこは、ほんとに かっぱ橋だけですね。 |
重松 | すごいねえ。 |
── | 世界でもないんじゃないですか? |
飯島 | ないでしょうね。 業務用の大きなスーパーはあっても、 こういう個人商店が集まってる街は ほかに、聞かないですね。 |
重松 | あとね、わりとさ、職人さんというか、 板前さんみたいな人も買い物、いっぱい来てたね。 小さな子ども連れて来てる人、結構いたね。 |
飯島 | いましたね。 |
重松 | お父さんと同じように 角刈りにしてる子どもが。 |
飯島 | おっきいカートに子ども乗せて、 割り箸買いに来ていましたね。 |
重松 | 半日、つぶせるよね。 |
飯島 | つぶせますね。ほんとに。 |
重松 | それこそお父さんが包丁を研ぎに出してる間に ぐるっと回るとかって楽しいだろうなと思うし。 今、うちの上の娘がね、 日曜大工センターみたいなとこで アルバイトやってるんです。 そこもいろんなものがいっぱいあるんだけれど、 その延長線上というか、それのすごくさ、 プロ仕様なのがかっぱ橋だと思うんだ。 |
飯島 | プロ用の商品が目の前にあって 自分でも手に入るんだと思うと嬉しいですよね。 |
重松 | 直接役に立つかどうかっていうのを越えてね、 楽しいよね。で、どんどんね、 「あ、確かにお店始めるなら 伝票って要るよねー」とか 「玄関マットも要るよなあ」とか。 それを思うと、たとえばこの灰皿1つさ、 どこで買ったんだろうってなるよね。 |
飯島 | そうですね、絶対探したらありますよね。 何を選ぶかなんですよね、お店のセンスって。 |
重松 | だよね。 |
── | 今日は買わなかったけど 気になったものってありました? |
重松 | うん、俺はね、ミル。 ワンタッチミル。 ペッパーとかの、 |
── | 片手で挽けるミルですね。 |
重松 | そうそうそう。 またちょっと見てみたいな。 電動まで大袈裟にしたくないんだけど。 あと、南部鉄器。 鉄の重みっていうのを久しぶりに感じたな。 「なんちゃって」で騙せるものってさ、 軽いんだよね、物が。 |
飯島 | はい、そうですね、軽いですね。 |
重松 | やっぱ重かったもの。 いい鍋とか、ストウブの鍋にしても。 |
飯島 | そうですよね、あの重さ、出せないもんですね。 |
重松 | ヘンケルの人が言ってたけれど、 やっぱり包丁も重さが要るんだと。 重さが作るものってあるんだよね。 |
── | 包丁って、切れ味だけだと思っていました。 重さが大事なんですね。 |
飯島 | 使っていると、ほんとに楽なんですよ、 重さがある方が。 |
── | 釜浅商店のおじさんには 片刃のよさも教えてもらいましたね。 和食のきれいな煮物が煮崩れずにきれいにできるのは やっぱり片刃で切っているからだって。 お刺身も片刃の柳刃じゃないと、 あの面の美しさは出ないんだよって。 |
重松 | そう、だから絶対にさ、 残ってきたものの形とか重さとか大きさって 絶対必然性があると思うんだよね。 |
飯島 | そうですね。 |
重松 | ほんと生き残ってきた重さなんだよ。 で、もしかしたら重いことっていうのが、 ある時代からね、 マイナスになってきたわけじゃない。 価値観として。もっと軽い方がいいとか。 |
飯島 | はい。 |
重松 | でも最終的には 重いものが残ってんだなあと思うと、 ああ、何か重さが作るものってあるんだろうと。 |
飯島 | 子どもが飲むコップも、 軽いものは、こぼしちゃうんですって。 |
重松 | そうなんだよね。 |
飯島 | だからやっぱり しっかりしたコップの方がいいと。 |
重松 | そうなんです。たとえば圧力鍋もそう。 圧力だって重さだもんね、要は。 |
── | 重さの代わりにこう、 圧力を使っているわけですね。 |
重松 | 今、ほんとにネットで大概のもの買ってるから、 実物持って選ぶこと、あんまりなくなっちゃった。 ストウブの蓋がさ、あんなに重いって、 初めて知ったよ。 |
飯島 | 重かったですね。 |
── | 重いんです。 鉄のかたまりですから。 |
飯島 | だから美味しくできるんですかね。 |
重松 | 美味しいんだろうね。 『クロワッサン』にストウブの特集があって、 へえ、いいなあと思ってね、 どっちがいいんだろう、 ル・クルーゼと、と思いながら見ていたんだ。 男としては、ストウブ、 いいじゃんと思ったけど、 その持ったときの重さって、 かみさんじゃ無理かもしんないなと 思ったりもしたからね。 |
── | 両手でも、よいしょ、って持ち上げるくらい 重かったですね。 |
重松 | だよね。 そうなると毎日使おうというのは、 無理かもしんないなと思って。 しかも棚の上に乗っけたりってね。 そういう身体性みたいなものもさ、 こうして実物を見ることで “込み”で分かるよね。 サイズにしても、 直径18センチと16センチの差は どこよっていったら、 きっと、あるんだよね。 |
飯島 | はい。あとはお店で見ると すごく小さく見えるというか、 28センチのフライパンも これぐらいあったら便利だなあって思うんですけど、 家に持って帰るとすごく大きいんですよ。 |
重松 | デカいよね。 |
飯島 | そこは注意しなきゃいけないんですよ。 何か錯覚を起こしちゃいますから。 |
重松 | 旦那や彼氏に 料理やらせようと思ってる人はさ、 かっぱ橋に来たらいいよ。 「俺、やる」って言いそうな気がするんだよ。 「え、何かやってみてぇ!」って 言うような気がするんだよなあ。 重いものに対する、 男の子の征服欲っていうのが あるのかもしんない。 「俺が使いこなしてやるぜ」みたいなね、 |
飯島 | はい(笑)。 |
重松 | 男で料理が好きになると 燻製に行くか、包丁に行くかなんだよ(笑)。 ほんとに男の料理ってどこかさ、 贅沢な発想だからね。 「やったぜ感」って大事でね。 で、ここに来るとやっぱり 本物に触れたって感じがあるんだ。 やっぱ重かったもん、全部。 あの重さって本物だよ。 |
飯島 | 本物ですね。 |
重松 | うん。で、今、ほんとマジにね、 たとえば宅急便の送料が いちばん象徴してると思うけど、 重いものっていうのは損なんだよね、 いろんな意味で。 だから、じゃ何で重いのが 残るのかなって考えたら、 重さが「いい」からなんだ。 |
── | 南部鉄の揚げ鍋もよかったですね。 |
飯島 | はい。 あれはデザインもすごい素敵で、 わたし、10秒ぐらいで買いました。 |
── | 10秒(笑)。 |
重松 | そうそう、ほんとにそれこそ南部鉄だから和、 ストウブやダッチオーブンなんかは洋、 ってあんまり、区別、ないよね。 |
── | ないですね。 だってヘンケルの包丁屋さんは 実は和の刃金を使った方を 奨めたりしましたよね。 |
重松 | ああ、そうだったね。 |
飯島 | そうでしたね。 |
── | やっぱ日本に暮らして日本で台所に立つって そういうことなんだなぁと思いました。 (喫茶店でのお話、まだまだつづきまーす!) |
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