時間と空間と中枢神経の映画。
鈴木敏夫さんと

無邪気に語る。

第2回 この一族のやりクチは

糸井 ぼくも、さっき、みなさんと一緒に
『イノセンス』を観たんですが、
わかりました、この一族のやりクチが。
 
鈴木 一族?
糸井 ええ。
押井さんだけの話じゃないと思うんです。
たとえば、『マトリックス』っていう映画に
影響を与えているというか、そういう映画に
ずばり、マネされまくっているんですけれども、
それは「一族」なんだと、
前々から思ってたんです。


他にも、そういう映画って、いっぱいある。
たとえば、『ランボー』って映画でも、
ある時、バーンと撃ち殺されるシーンを
スローモーションで眺めてみたら、
撃たれて死ぬまでの間に、コマの「欠け」がある。
「どうせ人間、追いかけられっこないから、
 このコマを抜いてもだいじょうぶだ」
とでもいうような、コマの抜けが、あるんですよ。
 
鈴木 ふーん。
 
糸井 あれ、今、どうやって死んだんだろう?
と思ってよく眺めてみたら、
「時間を追っていない死にかたを観てたのか」と。
逆に言うと、だから、新鮮だったんです。
 
鈴木 なるほど。
 
糸井 その後、どんどんどんどん、
連続してない映画ばっかりに
なっちゃったんですよ。
コマ送りするとつながらない動きをする映画。
 
鈴木 要するに、ウソがあるっていうことですよね。
ウソがあることによって、
おもしろくなっているもので。
 
糸井 ええ。そこにあるのは、
「リアルな時間を
 画像で追っかけなくってもいいじゃないか」
っていう発想ですね。
 
鈴木 今それを言われて気がついたのは、
まったく逆のかたちで、
黒澤明監督がやっていたことなんです。

この中に、ご覧になったかたが
いらっしゃるかどうかわかりませんが、
『椿三十郎』の中には、
十秒間で九人を斬るっていう
有名なシーンがあるんです。

あれは、三船敏郎という俳優が、
リアルタイムでやってみたわけですね。
だけど、実際に撮って、あとで監督が観たら、
早すぎて観ているほうはわかんなかった、と。

だから黒澤さんが何をやったかっていうと、
時間を遅らせた。
ゆっくり見せることで、
「ほんとうに斬っている感じ」を出したんですね。


だから、黒澤明って人も、
時間の詐術については、よくわかっている人で。
糸井さんがおっしゃった操作と、
逆のパターンだなぁ、という気がしたんです。
コマを削ったり、増やしたり、
どちらにしてもそういう操作の手法がある、
と。
 
糸井 たとえば
『巨人の星』みたいなアニメーションだと、
お金をかけないで作るから、
足を上げてるシーンの次は、
もうボールを投げているじゃないですか。

そんなこと、ありっこないんですけど、
あのときにアニメが発明した、
「窮すれば通ずる!」みたいな発想で、
リアルにぜんぶ追いかけなくてもいいや、
という流れができた……。
 
鈴木 そして、『巨人の星』は、
ボールを1球投げるのにね、30分かけたりする。

ボールを投げている間に、
いろんなシーンを挿入していくんですね。
投げ終わったところで、「つづく」なんですよ。
 
糸井 死ぬ前に、一生のすべてのことが
映像になって見えるっていうのと
おんなじ仕掛け、ですよね?
 
  (明日に、つづきます!)


『イノセンス』についてはこちら。

2004-02-29-SUN


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