糸井 |
映画の中で言ってることって、
それこそ論文にしたら、すぐ済むことだけど、
映画にする理由って、
今、話しているような
神経の往復運動にあるんですよね。
|
鈴木 |
はい。
文章に書けるんだったら、
書いちゃえばいいわけですから。
|
糸井 |
お城みたいな建物に、
なんでヘリコプターみたいなもので
出かけていかなきゃなんないのかというと、
単純に言うと、「見せたいから」ですか?
|
鈴木 |
はい、監督が自分で見たいっていうだけで。
|
糸井 |
そうですよねぇ?
下からはあの建物が見えなくて、
上から行くわけじゃないですか。
そうやって見せていくっていうことで、
絶えず人をクラクラさせたい、みたいな?
|
鈴木 |
うん。
映画監督がものを作る動機っていうのを、
ぼくはプロデューサーという立場で、
数人、観てきたんですけど、
それはたいがい、不純なものなんです。
|
糸井 |
(笑)あんまりイノセントじゃないんですね。 |
|
鈴木 |
押井守の場合は、おそらく、学生時代に、
ハンス・ベルメールという人の球体人形を
写真集かなにかで見たんですよ。
「いつかそのホンモノを見たい」
「映画を作るってことになれば、
ロケハンでニューヨークにも見にいけるかも」
これが、スタートなんですよ、
それでホンモノを見に行ったわけでしょう?
彼は、興奮しちゃうわけです。
今、52歳ですからね、
学生時代から見ると、アメリカで30年ぶりの対面。
ついでに、ヨーロッパには、
そのお人形の有名なのがいっぱい置いてあるわけで。
「この際、ぜんぶ見ちゃおう!」
と、彼は、ドイツだフランスだイタリアだと、
人形を見まくるわけですよ。
|
糸井 |
ロケハンしてたんだ?
|
鈴木 |
そうです。
「見てよかったなぁ!」
と感動して成田へ帰ってくるわけです。
で、成田の直前あたりで、
「しかしこれ、映画にしなきゃいけないんだよなぁ」
たぶん、そう考えたと思うんです。
この映画で、主人公がいろんな人形に出会うのは、
自分のそのロケハンをそのまま映画にしたんですね。
「それだけで持つのか?
ちょっと事件も入れたほうがいいか?
恋愛も、あったほうがいいかな?」
そうやって、考えたわけですよ、きっと。
|
糸井 |
なるほど。
|
鈴木 |
彼がシナリオを書いたときに、今みたいに、
それを解きあかすのが、ぼくの商売なんです。
|
糸井 |
『イノセンス』は、3月6日から公開ですよね?
その日からは、試写会に来た人だけじゃなくて、
みんなが、この映画で苦しむようになるわけです。
そうしたら、それぞれの人は
「おまえも観ろよ」って誘うのか、
「いや、観なくていいよ」ってつぶやくのか。
そこには、鈴木プロデューサーとしての
次の賭けが、あるわけですよね?
ぼくは、その映画公開に向けた、
鈴木さんの予想と願望を、聞いてみたいんです。
|
鈴木 |
……よく、わかんないんですよね。
ほんとに、わかんないです。
|
糸井 |
今までも、
わかんないとか言いながら、
鈴木さん、ごまかしごまかし、
「おっとどっこい!」みたいにして、
やってきたじゃないですか。
|
鈴木 |
(笑)はい。
|
糸井 |
たとえば、鈴木さんの発想の中では、
映画公開初日っていうのは重要なんですか?
|
鈴木 |
やっぱり、初日ですね。
初日にどのくらいのお客さんが来てくれるかで、
だいたい、わかっちゃうんですね、映画って。
何でかは、知らないですけれど(笑)。
|
糸井 |
じゃあ、鈴木さんは
「わかんない」って口では言ってますけど、
ほんとはその初日に、判断しているんですね?
|
鈴木 |
だいたい初日を見て、
「あー、この映画はなんとかいくんだなぁ」とか。
それだけなんですけどね。
|
糸井 |
とくに『もののけ姫』から後の鈴木さんって、
寸前まで「わかんない」って言い続けてますよね?
|
鈴木 |
わかんないんですよ、ほんとに。
|
糸井 |
ほんとなんですか?
|
鈴木 |
ほんとにわかんないですよ、ほんとに。
|
|
(明日に、つづきます!) |