時間と空間と中枢神経の映画。
鈴木敏夫さんと

無邪気に語る。

第6回 セル画で作る
アニメーションの頂点

糸井 たとえば、
『もののけ姫』『千と千尋』
『イノセンス』『ハウル』と並べて、
いちばん不安にさせるのは、どの映画ですか?
 
鈴木 それは、『イノセンス』です。
ほんとにわからないものですから、
もし『イノセンス』にお客さんが来てくれちゃったら
『ハウル』はダメかなぁ? とか、
そんなことも考えたりするぐらいなんです。
『イノセンス』がヒットするということは、
ぼくが、予想外のことを掴めていない証拠ですから。

でも、ほんとは、
『イノセンス』も『ハウル』も、
ぜひ、観に来ていただきたい。

やっている側としては、
いざとなると何の根拠もないわけで。

だから、今の
公開直前の時期に、何を考えてるかっていったら、
「初日に舞台挨拶をするときに、
 制作した側がズラリと並んでいるのに、
 お客さん3人だったらどうしよう?」

っていう、もういつも、ほんとはそれなんですよ。
 
糸井 本気で思ってるんですか?
 
鈴木 本気でそうです。
来てもらえるかどうかっていうのは、
やっぱり、確率としては半々ですから。

いいことが起こることを祈るんです。
ほんとに祈ったら、何か出てきたりして。
そういう感じで。
糸井 ただ、この映画、
「つまんなくない」
ってことは、ハッキリしてるんですよね?
 
鈴木 映画っていうのは好き嫌いがありますけど、
1,800円分の価値は、あります。
ここだけ、ちょっと謙虚に言うんですけど(笑)。
 
糸井 確かに、あの絵の作り方っていうのは、
また、とんでもない進化の仕方ですよね。
 
鈴木 さっき、映画は、流れている時間を
どうやってホンモノに感じさせるか、
というものとして進化してきた、と言いました。
『イノセンス』にも、そういうところがあります。

ただ、『イノセンス』から先は、
もしかしたら、ホンモノを抜くことによって、
ホンモノの人間の動きとは違うものを作って、
しかし、それが新鮮に見えるというものを、
目指すのかもしれないです。


おそらく、『イノセンス』は、
セル画で作るアニメーションの
頂点をいった作品ではないかなと思うんです。
技術的には、そんなことを思っていますので、
これができた後、『ハウル』までいったとして、
そこから先は、ぜんぜん違う
アニメーション映画っていうのが
日本でも誕生するんじゃないかなぁ。


そういう気が、ちょっとしているんです。
 
糸井 『ハウル』の後のことを、もう考えてるんですか?
 
鈴木 なんとなくそういう気がするんですよ。
今年はアニメーションの当たり年と言われて、
押井守、大友克洋、宮崎駿の作品が公開される。
その後、映画っていうのは
どうなっていくのかな?
 っていうのには、
とても、興味があるんです。
 
糸井 リアルな役者を使って撮る映画も、
ぜんぶ、アニメーションそのものに
なっているじゃないですか。

だから、アニメーションっていうジャンルが
映画の中に吸収されちゃっていて、
「アニメーションは次はどうなる?」
っていうのは、
「映画全体がどうなる?」
の中に答えが入ってるんじゃないでしょうか。
 
鈴木 そうですね。
 
  (明日に、つづきます!)


『イノセンス』についてはこちら。

2004-03-04-THU


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