ハブの棒使い。 やればできるか、晴耕雨読。 |
その19 見えない境界線 敬老の日と秋分の日があるので長期休暇も可能な9月。 山好きの後輩が遊びに来ました。 南の島で山といえば、洋上アルプスの異名を持つ屋久島。 後輩は奄美に寄って屋久島に行こうと思ったようです。 でもねえ、遠いんですよ、奄美大島と屋久島。 直行便がないから鹿児島経由で行くしかない。 見かけ以上に時間がかかる。お金だってかかる。 違う違う。 わたしが言いたいのはそんなことじゃないんです。 TVの気象情報で天気図に注目してください。 いまさらいうまでもなく、日本は弓状に長ーい国。 だから1枚の画面には収まらない。 種子島と屋久島を九州の南に置きざりにしたまま、 奄美大島を引き連れた沖縄は画面の空白部分にお引越し。 おなじみの構図の登場です。 この図が奄美と屋久島の断絶を雄弁に語っています。 たぶんたまたまでしょうけれどね。 国土地理院の地図には載っていませんが、 生物学者はときに特別な境界線を引くものなのです。 渡瀬庄三郎博士がトカラ列島の間に引いたのが渡瀬線。 奇しくもこれが天気図と同じで奄美と屋久島の間、 旧北区と東洋区を画然と分ける生物境界線です。 大雑把に言えば温帯の生物と亜熱帯の生物の境界です。 屋久島でいちばん有名な植物は何でしょう? そりゃスギでしょうね、樹齢1000年を超える屋久杉。 スギは屋久島が南限で、奄美地方には分布していません。 杉花粉症の人には奄美は天国かもしれません。 本土からきたニホンザル、アカネズミ、タゴガエル たちも渡瀬線の北で南下が食い止められています。 一方、奄美大島で有名な爬虫類といえば、やっぱりハブ。 何てったって連載タイトルになっているほどですから。 この毒蛇は奄美地方が北限で、種屋久地方にはいません。 屋久島の森に入るのに用心棒は必要ないのです。 南のアマミノクロウサギ、トゲネズミ、ヒメアマガエル たちは渡瀬線の南で北上をやめてしまいました。 哺乳類、爬虫類、両生類、植物などの生息地域を制限する 渡瀬線ですが、当然人間はいつでも越えられます。 にも拘らず奄美の人はあまり屋久島では遊ばないようです。 亜熱帯のぬくぬく気候からよほど離れたくないらしい。 きつい山歩きよりもだらだらと海遊びを選ぶのでしょう。 例の後輩も結局奄美でごろごろしてました。 なんだあいつも、東洋区の人間だったんじゃん! |
2000-09-21-THU
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