HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その21 天高くタカの舞う秋

秋は鳥の渡りのシーズンです。
渡り鳥、一般的なイメージはどんな鳥でしょうか。
ツバメ。そうです、これは典型的な夏鳥。
南方から春先に飛来し、日本でヒナを育てて秋に南に戻る。
カモ類。正解、ほとんどのカモが冬鳥です。
北方から秋に渡来し、日本で寒さをしのいで来春北へ帰る。
北半球の渡り鳥は基本的にこのパターン。
夏の繁殖地は北のほうで、冬の越冬地が南のほう。
ツバメは日本を繁殖地とし、カモは日本を越冬地に選んだ。
それだけの違いです。
ここまで言えば、カンのよい人はお気づきでしょう。
日本より北の地域を繁殖地に選び、
日本より南の地域を越冬地にした鳥がいてもいいってこと。
その通り、旅鳥と呼ばれる鳥たちがちゃんといます。
春は南から北上する途中に、秋は北から南下する最中に、
彼らは疲労回復と栄養補給のために日本に立ち寄るのです。

アカハラダカというタカがいます。
ハトくらいの大きさの小型のタカです。
20年以上前、わたしがバードウォッチングを始めた頃には
とても珍しい鳥のひとつでした。
迷鳥といって、正規の渡りコースをずれてたまに出現する
めったに観ることができない幻のタカだと思われていた。
そんなときに1枚の写真が報じられたのです。
沖縄の森で疲れて休む何羽ものアカハラダカの写真。
これは当時の一大スクープとして、
何人ものバードウォッチャーの度肝を抜いたのです。
幻のタカが手づかみで捕まえられるほど近くにいるなんて!

小さいとはいってもタカ、それも大量のタカが
見つからなかったのは、ひとえに思い込みのせいでした。
日本でタカの渡りが有名なのは、
愛知県渥美半島の伊良湖岬や鹿児島県大隅半島の佐多岬。
毎年10月の上旬をピークに、多い日には数万羽ものタカが
上昇気流に乗って舞い上がり、
すーっと流れるように渡っていきます。
サシバやハチクマという日本では夏鳥にあたるタカたちが
作り上げる蚊柱ならぬ鷹柱。
数百、数千の群れが円舞するさまはそれはそれは壮観で、
これを観るのは、ウォッチャーの心が躍る年中行事です。
体育の日の連休は伊良湖岬なんてカレンダーに書き込んで。
タカの渡りというと、
みんなの頭の中にあまりにも強烈にこのイメージがあった。
だから勝手に渡りの時期は10月だと思い込んでいたのです。
ところがアカハラダカの渡りのピークは9月だったのです。
半月も早い台風シーズンの真っ最中に渡っていたとは!

一度中継地が解明されると、次々に見つかりました。
繁殖地が朝鮮半島で、越冬地がフィリピン周辺のこの鳥は、
対馬、五島、奄美、沖縄、八重山の島々を転々としながら、
毎年群れをなして渡る旅鳥だったのです。
台風14号の影響で例年より1週間ほど遅れたようですが、
今年も9月の下旬、たくさんのアカハラダカたちが
奄美の森で翼を休め、沖縄へと向けて飛んでいきました。

日が昇って2時間ほど経った頃、
つまり、気温が段々と高くなって上昇気流が生じる頃、
ふっと秋空を見上げてみませんか。
運がよければ、ビルの谷間からもタカの姿が見えます。

2000-10-09-MON

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