HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その24 死者の使いが舞う人里で

海のかなたの永遠の神の国、
それを奄美ではネリヤカナヤと呼びます。
人は死ぬとその魂だけがネリヤカナヤに行き、
姿をチョウに変えて戻ってくると伝えられます。
奄美ではチョウは死者の生まれ変わりなのです。

10月だというのに集落では数多くのチョウが舞っています。
こちらでは年中咲いているハイビスカスやブーゲンビリア、
野草のアキノノゲシやセンダングサなどの花の周りで。
アオスジアゲハにアカタテハ、キチョウなど、
本土でもおなじみのチョウたちも見かけますが、
南国らしくきらびやかなチョウもたくさんいます。

シロチョウの仲間ではツマベニチョウが華麗です。
「つま」とは「へり、ふち」のこと。
前ばねの先端を橙に染め、シロチョウ離れした立派な体格で、
活動的に花から花へと飛び回っています。
淡い黄色のチョウを発見。
ナミエシロチョウかな、それともウスキシロチョウかな?

タテハチョウの仲間ではリュウキュウアサギマダラが綺麗。
これはそう、ステンドグラスの繊細さ。
透き通るような浅葱色を隈取る黒のラインがシャープです。
パタッ…パタッ…と間欠的に羽ばたくのはイシガケチョウ。
道路マップのような模様がなんだか面白い。
あ、アカボシゴマダラだ!
日本では奄美大島と徳之島でしか見られません。
そのくせ朝鮮半島や台湾にはいるんだから不思議です。

やっぱ、目を引くのはアゲハチョウの仲間でしょう。
黒地に黄白色の紋が目立つモンキアゲハ。
黒い体が暑いのか、地面で水を吸っています。
遊びに来た友人に「あれがモンキアゲハだよ」と教えた際、
「モンキーってどこが猿みたいなん?」と返されたのには
とっさに反応できませんでした。
悠々とやってきた黒白2色の優雅なアゲハチョウは
ナガサキアゲハの雌です。
気品にあふれた振る舞いにはいつもほれぼれします。
雌とは対照的に雄はみすぼらしい羽色です。
全身真っ黒の地味な姿で今日も女王様に求婚しています。

わが家の以前の住人もチョウが好きな方で、
庭にヤエヤマネコノチチの木を残していってくれました。
果実の形を猫の乳首に見立てる
日本人のネーミングセンスには感心しますが、
この植物は沖縄本島固有のフタオチョウの食草なのです。

前住人はフタオチョウに生まれ変わりたかったのかなあ。
でもそれだったら奄美からネリヤカナヤに行くのではなく、
沖縄からニライカナイに行くべきじゃないのかなあ。

2000-10-28-SAT

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