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ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その30 大島紬――かくも念入りな仕事ぶり

少し前のことですが、勤労感謝の日の休みを利用して、
元の会社の同期の友人が8人で遊びに来たのです。
何かと口実をつけては飲み騒ぐ“素晴らしい”仲間ですが、
放っておくと単に飲んでるだけということにもなりかねず、
いくらなんでもそれでは奄美にまで来た意味がないので、
最終日に「大島紬村」という場所に案内したのです。
「え、大島紬って伊豆じゃなくて、奄美の大島なんだ」
なんてボケをかましている人間たちを引き連れて。

大島紬は実に複雑な製作工程で出来上がります。
「大島紬村」ではその工程を説明してくれるのですが、
今回4回目の訪問でようやくなんとなく理解できました。
わたしなりに解釈するならば、
大島紬は点描方式の先染めで異常に手間がかかるのです。
説明しましょう。

大島紬の渋い黒色は、古代からの泥染めに由来しています。
純白の絹糸を、まずシャリンバイの煮出し液で染色します。
シャリンバイという木はタンニンを多く含んでいて、
染めると純白の絹糸が褐色に色づきます。
20回ほどシャリンバイで染めた後、いよいよ泥染めです。
男の人が泥田に入って、泥水の中でジャブジャブジャブと。
奄美の泥は粒子が細かく、鉄分を含んでいるため、
シャリンバイで染めた褐色が定着し、黒色になるのです。
シャリンバイで染めては、泥で定着させる…
これを延々と繰り返し、シャリンバイ100回、泥染め5回!
ようやく黒髪のように黒く柔らかい絹糸のできあがりです。


奄美ならではの泥染めは男仕事

黒い絹糸はこれでよいのですが、
絵柄を描く絹糸はひと工夫が必要です。
できあがりの絵柄を1ミリ方眼紙の交点に点で描いた後で、
方眼の罫線を一本ずつほどくことを想像してください。
その罫線一本一本に細かい色の帯ができるはずです。
これを絹糸と考え、着色部分を木綿糸でしっかり絞って、
先ほどの染色(シャリンバイ&泥)を施します。
そして木綿糸をほどくと、着色部分のみ白く染め残った
まだら模様の絹糸ができます。
この絹糸の白い部分に完成時の絵柄の色を着けていく。
縦糸も横糸も同様にして、一本ずつ染色していく。
驚くほど根気の必要な先染めなのです。

材料は揃いました。あとは織り上げるのみ。
40センチ幅に縦糸が1240本。
この一本ずつにすでに色が着いているのです。
ここに着色済みの横糸と黒糸を交互に織り込んでいく。
1240本のうち一本ずれただけで絵柄が乱れます。
ましてや途中で糸が切れようものなら、もとの木阿弥。
着色部分と黒色部分の縦横の点を合わせていくのです。
慎重に、丁寧に。一本ずつ、一点ずつ。
気の遠くなるようなこの作業のスピードは、
女性の織り子が一日かかって、ようやく数10センチです。


緻密に一本ずつ織り上げるのは女仕事

一反織り上げるのに数ヶ月かかるというのもごもっとも。
ここまで説明されれば、大島紬は高いけれど、
少々値が張るのも仕方ないという気になるわけです。
……大概の人の場合は。
恐ろしいのはわたしの同期の面々。
「どうして後染めにしないのかな」とたったひと言。

2000-12-09-SAT

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