HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その33 ゴキブリ論

年の瀬も押し迫った12月のある日、
家の中でゴキブリの成虫を見つけました。
こんな真冬にゴキブリがいるのもいかにも南国ですが、
ちょっと嬉しかったのはサツマゴキブリだったのです。

進化の諸説の中にこんな話があります。
バナナがあんなふうにおいしいうえに食べやすく、
また手を使えばいとも簡単にむけるのは、
バナナがヒトを利用して増えてきたからというのです。
マレーシアあたりの野生種のバナナには種がありますが、
生食用、料理用を問わず、現在世界で利用されている
多種の栽培種のバナナには種がありません。
もとは突然変異で染色体の三倍体が生まれたところ、
種がないのでヒトにとってはむしろ好都合で、
こちらのほうをせっせと栽培するようになった。
味をしめたバナナは自ら繁殖拡大の努力を放棄し、
もっぱらヒトに愛される方向に進化していった。
それにより現在、結果的に繁栄をとげている。
くだいていうとこんな理屈です。
確かにある種の植物と昆虫(または鳥)の間には、
蜜を与える代わりに受粉を助けてもらう関係が特化した、
この植物にはこの特定の昆虫(ないしは鳥)という
1対1の依存関係が見られることがあります。
共進化という現象ですが、
果たしてバナナとヒトが共進化の関係にあるかどうか。
少なくともヒトはバナナのみに依存してきた訳ではないが、
バナナにとってはヒトに好かれることが死活問題だった?
この問題の正誤はともあれ、面白い仮説ではあります。

ならばゴキブリはもっと可愛くてもいいと思いませんか?
だって、ゴキブリはヒトの住居に侵入したおかげで、
この世の春とも言うべき大繁栄をとげているんですから。
にもかかわらず大多数のヒトがゴキブリを嫌悪している!
もっと愛らしい昆虫だったら、あんなに目の敵にされず、
ゴキブリホイホイをしかけられることも、
コックローチを噴射されることもなかったろうに!
標準のヒトの美的範疇内に収まっていさえすれば、
殺虫剤製造会社以外のすべてのヒトにとっても、
あまつさえゴキブリにとってもハッピーだったろうに!

昆虫好きなわたしでさえ、ゴキブリにはひいてしまいます。
本土の代表的なゴキブリ、クロゴキブリより一回り大きい
ワモンゴキブリを家で最初に見たときは卒倒しそうでした。
体が大きいうえに、胸部なんか白くぎらぎらと輝いていて、
さらに長い触角をぞわぞわうごめかしているんですから。
何が嬉しくて、あそこまでヒトに嫌われる姿形になるの?
そんな昆虫なのです。

ところが今回、サツマゴキブリを見て考えが変わりました。
だって、動きものろいし、そんなに気持ち悪くないんです。
このゴキブリは原始的な形を残しており、
ヒトの住居よりも屋外の落ち葉の下や朽木の中を好みます。
そう、ゴキブリはもともと森の中に住んでいたのであり、
現在も住家性のゴキブリよりも
森林性のゴキブリのほうがはるかに多いのです。
ヒトが森林を切り開いたために、
住みかを追われた一部のゴキブリが仕方なく
ヒトの住居に進入したのではないか。
すると思いのほかそこが快適で、住み着くヤツが出てきた。
しかし強敵のヒトに殺されないよう、
敏感に空気を読む触角と素早く逃げる脚を発達させた。
そんな気がしてきたのです。

だって、ヒトのほうが新参者なんだもんな…。



どこか古代昆虫を思わせるサツマゴキブリ

2001-01-04-WED

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