HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その45 凛と咲く

奄美にいる生き物に関する質問です。
セイシカという生物、漢字でどう書くかわかりますか?
この質問を友人にしたところ「背猪鹿!」という回答。
背中にイノシシのような毛があるシカなんだとか。
シカは屋久島や慶良間諸島にはいますが奄美にはいません。
「されば瀬石蚊か?」という返答。
瀬音さわやかなせせらぎに住む吸血昆虫ということらしい。
あいにくそんな清楚なカなどいまだ発見されていません。
読者の皆様はわかりますか?

実は質問自体、ひっかけ問題のような訊き方でした。
セイシカは動物ではなく植物なのですから。
正解は「聖紫花」、すごく詩的な語感を持つ植物です。
別名を「西施花」、中国の伝説の美女名を借用しています。
いずれにしろ美しい花であることは名前がすでに保証済み。
アマミセイシカという不思議な響きを耳にして以来、
わたしの「実物を観たくて仕方がない花ランキング」では
不動のトップの地位に居座り続けた花だったのです。
その希望がかなうときがやってきました。

アマミセイシカの旬は3月中旬から4月にかけて。
渓流沿いを好むというので、とある沢沿いの林道に入り、
目を凝らして探し回りました。
林床にはギンリョウソウ。
蝋細工のキセルのような摩訶不思議な繊細な花です。
対岸にはケラマツツジ。
ひと目でツツジと知れる朱色の花が目に鮮やかです。
アマミセイシカはまだ咲いていないのかと諦めかけた時、
ふと上空を仰ぎ見ると、あったあった!
憧れの花は予想外に高い場所に咲いていました。



まだ満開ではないのかつぼみも散見される花は、
らっぱ状の花冠が五裂し、先端がつんと尖っています。
ドレスの裾のようにドレープのきいた輪郭が主流の
ツツジ科にあって、この花の直線的なシルエットは貴重。
胸のすくいさぎよさ。
名前に反して紫というよりも淡く淡いピンクの花は、
ソメイヨシノの桜色をさらに薄めたような微妙な色合い。
朱や紅など赤系統の派手な色が幅をきかせる
ツツジ科にあって、この花の媚のないたたずまいは偉大。
気品を感じる美しさ。
憧れの花は予想以上に美しく咲いていました。

とまれ憧れのアマミセイシカに無事対面できたおかげで、
「実物を観たくて仕方がない花ランキング」トップの座は
アマミスミレに譲られることになりました。

2001-04-03-TUE
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