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ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。
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その47 親鳥奮闘記

春という季節は人の心も浮かれがち。
鳥も同じなのか、多くの種類がさえずり始め、
順次繁殖活動に入っていきます。
そんな中から、今回は2種の繁殖の様子をご紹介。

まずはオーストンオオアカゲラ。
この鳥は日本全国に分布する中型のキツツキ、
オオアカゲラの亜種のひとつで、色が黒く体が大きい。
奄美大島にだけ生息し、天然記念物指定を受けています。
ある日、一心に木の幹をつついているオスを見つけました。
直径30cmほどのイタジイの木の高さ2mほどのところ。
脳震盪を起こしはしないかと心配になるくらいの勢いで
頭を大きく振りかぶっては、嘴を幹に打ちつける。
自らつるはしと化して、とりつかれたように掘っていく。
餌探しではありません、そんな悠長さは微塵もない。
それもそのはず、献身的で懸命な巣づくりなのです。

翌週行ってみると、まだ健気に掘りつづけています。
もう体が隠れるくらいの奥行きになっています。
奥に行けば行くほど作業しづらいと思うのですが、
こまめに頭を動かして、嘴をのみがわりに掘り進みます。
その翌週、穴の近くに例のオスの姿は見えません。
ひょっとして途中放棄したのかと心配して近づいてみると
穴の中からコツコツと音が聞こえてくるではないですか。
どうやら巣づくりの大仕事は完了しつつあるようです。
そして翌週、幹を掘る音はもはや聞こえてきません。
息をこらえてじっと巣穴を見つめること数分、
近くの枝でヒヨドリがピーヨピーヨと鳴き始めました。
そのうるさい声に抗議するかのように、
巣穴からオーストンオオアカゲラが顔を出しました。
メスです!
どうやら巣穴の中には卵があるらしい。
繁殖行動は営巣が終わり、抱卵段階。
ヒナがかえるまでしばらくは、そっと見守りましょう。


巣穴から顔をのぞかせたオーストンオオアカゲラのメス

もうひとつはルリカケス。
鹿児島県の県鳥で、やはり天然記念物のこの鳥は、
奄美大島と近くの加計呂麻島、請島にだけ分布しています。
一応カラスの仲間なのですが、頭部・翼・尾の紺色と、
背中・腹部の赤茶色のコントラストが眼に鮮やかで、
嘴の基部の淡青色と尾の先端の白色も妙におしゃれです。
本来は樹木の洞や草に覆われた斜面に巣をつくるのですが、
最近は人工建造物にも営巣する例が増えています。
巣づくりに適した環境が減ってきているのでしょうが、
そのたくましさとふてぶてしさはさすがカラスの一族。
今年もとある民家の2階のベランダに巣をつくりました。
すでにヒナがかえっていて、両親とも餌さがしで忙しい。
育ち盛りのヒナを養うのはなみなみならぬ苦労なのです。

車の中に隠れて、親鳥の帰りを待つことにしました。
ヒナのいるベランダが望める枝に親鳥が止まっています。
近くに外敵がいないか、異常がないか警戒しているのです。
するとハシブトカラスの姿が!
ギャーともミャーともつかない雄叫びをあげたかと思うと、
親鳥はカラスに猛然と立ち向かっていきます。
この剣幕に気おされて、カラスはすごすごと退散です。
親鳥は再び森に帰り、今度は餌をとらえて戻ってきました。
それでも直接ヒナの待つ巣に帰っていくのではなく、
一旦近くの枝や電柱にとまって、再度周囲を見渡します。
そして何も危険がないことを確認し、ようやくベランダへ。
単にふてぶてしいだけではなく、
それと同居した慎重さこそ野性の本能なのでしょう。


巣の近くの電柱で周囲をうかがうルリカケス

これからの時期、日本中の各地で
さまざまな鳥たちのさまざまな子育てが繰り広げられます。
生命の力強さを実感できる瞬間です。

2001-04-22-SUN
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