その52 魚捕りにはまった大人
奄美大島にはいろんな種類の自然愛好家が来島します。
ダイビングやシュノーケリングで水中の自然を楽しむ人、
奄美固有の鳥や動物を観に来るベテランウォッチャー、
大物狙いの釣り師や希少種狙いの昆虫採集家などなど。
素人から研究者まで実に多くの人たちが
奄美の自然に惹かれてやってくるのです。
先般も知り合いの自然愛好家がふたりやってきました。
荒俣幸男さんとさとう俊さん。
ふたりの趣味はちょっと変わっていて、魚捕りなのです。
魚捕り―なんと郷愁の響きに満ちた言葉でしょう。
小学校の放課後、小川に素足で入っていって、
フナやメダカ、タナゴを網ですくった思い出。
生け捕りにした魚たちを家に持ち帰って、
水槽越しの宝物を飽きずに眺めた記憶。
捕まえて飼う楽しみが魚捕りの真骨頂ですから、
釣りともただの観察とも違う愛玩的な喜びがあります。
博物学の大家として著名な荒俣宏さんの実弟で
魚捕り歴40年を数える荒俣幸男さんと、
その友人で魚捕りの魅力にはまったさとう俊さんに
わたしも同行してみることにしました。
左手前がさとうさん、右奥が荒俣さん
ふたりが魚を捕まえるのは川ではありません。
大人の魚捕りは淡水魚では飽き足らず、
亜熱帯の暖流に泳ぐ海水魚が目当て。
とはいえサンゴの海で美しい魚を追い求めるのではなく、
港の防波堤付近をうろうろしている変な魚や
湾の浅瀬にたむろしている小魚たちを網ですくうのです。
「え、こんなところに?」という場所でも、
探せばさまざまな魚たちがいるものです。
現にその日の名瀬港桟橋ではツノダシやチョウチョウウオ、
ミノカサゴにオコゼ、タコまで観ることができました。
普段気づかないだけで、海はとても豊かなことを再発見。
しかしふたりはこれらの魚にはあまり感心がないようです。
彼らが捕まえているのはこんな魚です。
ふたりが捕まえた魚たち
写真で輪になっているしましまの生物は何だと思いますか?
わたしは思わず、ウミヘビと答えてしまいました。
コブラにも匹敵する猛毒を持つ海棲爬虫類のウミヘビだと。
ところが実際にはアナゴの仲間の魚なのだそうです。
ウミヘビに擬態してわが身を守っている臆病な魚だとか。
で、名前がシマウミヘビ。
れっきとした魚なのに名前まで擬態したのでしょうか!
画面の中央にいる茶色の物体は何だと思いますか?
わたしははじめ、葉っぱだと思いました。
枯れた葉っぱが2枚浮かんでいるんだと。
ところが実際はこれも2匹の魚なのだそうです。
木の葉に擬態して体を横倒しにしたまま漂っているとか。
こいつらの名前はツバメウオ。
カレハウオのほうがそれらしいと思うのですが…。
こんな魚、普通の観賞魚屋さんでは扱っていないでしょう。
小さくてへんてこりんで、ときには可愛らしい小魚たちを
彼らは嬉々として捕まえては自宅で飼育しているのでした。
これぞ大人の魚捕りの面目躍如というところでしょう。
(魚捕りの本当の魅力は、さとうさんのホームページ
http://www.syuns.com/で楽しいイラストとともに紹介中)
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