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ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その54 ぼっとどりに翻弄された夜

環境省の希少野生動植物種保護増殖事業の一環で、
アマミヤマシギの捕獲を行いました。
レッドリストで絶滅危惧TB類に指定されているこの鳥は、
世界中で奄美の森だけで繁殖が確認されている
絶滅の危機に瀕した夜行性の臆病な生き物です。
人を恐れず、ぼーっと夜の林道にたたずんでいるので、
野鳥仲間から「ぼっとどり」の愛称で親しまれています。
この野鳥、いまだ詳しい生態が知られていないので、
その調査のために、まずは捕まえることになったのです。

最初はどのようにして捕まえるかが議論になりました。
けがさせないように、トラップをしかけよう!
やっぱり、かすみ網がいいんじゃないか?
ぼっとしてるから、たも網で捕まえられるんじゃないか…
結局みっつとも試してみることになりました。
中でも苦労したのはトラップ作りです。
米国製の野鳥捕獲用トラップを取り寄せて研究したり、
手作りの試作品にニワトリを入れて起動するか試したり、
餌のミミズ集めのために慣れない畑仕事に励んだり。
約半年の試行錯誤の末になんとか10個の罠ができました。

そしてついに捕獲作戦の決行となりました。
捕獲の実施は5日間。
夜行性の鳥なので、日没後から夜明けまでが勝負です。
奄美野鳥の会の有志が交替で5夜、捕獲に臨みました。
第1夜は天気はいいもののヤマシギは姿さえ観られず、
第2夜は姿こそ確認できてもまるで捕まる気配がなく、
第3夜も同様で一晩中美しい夜空を眺めるはめになり、
第4夜は場所を変えたけれども結局は成果があがらず、
あっという間に最終夜を迎えることになったのです。

こうしてトライしてみると、
いくらぼっとどりとはいえ、野生の鳥だと感心します。
半年がかりの罠も鳥をおびき寄せることはできず、
時折かすみ網にかかるのは夜目の利かない人間ばかり。
ぼっとした人間を鳥にあざ笑われているみたいです。
魚をすくうたも網こそ一番可能性があるのではないかと、
最終夜はたも網作戦に切り替えました。

当日は生憎の雨。
しかも夜がふけるにつれて雨の勢いは激しくなります。
丑三つ時を越えたころからは風も出てきました。
テント代わりのビニールシートも風であおられ、
雨がじゃんじゃん吹き込んできます。
いくら奄美とはいえ、冬の深夜、
しかも雨ですから体が芯から冷えてきます。
「一刻も早く終了させて、ゆっくり休みたい」
あきらめにも似た本音が顔をのぞかせます。
時刻は朝の6時。
捕獲部隊が車で最終の見回りに出かけました。
残ったメンバーが片付けを始めたとき、
出たばかりの車が戻ってきました。
「やった、捕まえた!」
ついにアマミヤマシギが捕獲できたのでした。
しかも、たも網で!
9回裏2アウトからの代打サヨナラホームランという感じ。

捕まえたアマミヤマシギはその場で計測し、
足環をはめたうえで、発信器を装着しました。
これを放し、受信機で信号をキャッチすることで、
鳥の行動を調べるのです。
生態調査は緒についたばかり。
これから一年間、
ぼっとどりとぼっと人間の知恵比べが始まります。


足環と発信器をつけられたアマミヤマシギ

2002-01-23-WED

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