その57 のどかな黒糖製法
さたやどりを見学に行きました。
沖縄や奄美では黒砂糖のことを「さた」と呼びます。
NHKの朝の連ドラ「ちゅらさん」で沖縄風ドーナツ、
さーたーあんだぎーが登場していましたが、
あの「サーター」こそさた、つまり黒糖のことです。
ちなみに「アンダー」は油、「アギー」は揚げ。
漢字で直訳すれば砂糖油揚げです。
この伝でいくと、さたやどりは砂糖宿でしょうか。
昔ながらの製糖小屋のことを指します。
日本の黒糖の歴史は、
大和村の直川智なる人物が中国からサトウキビの苗を
持ち帰ってきた1610年にさかのぼるそうです。
したがって奄美大島はわが国での黒糖生産の発祥の地。
薩摩藩への献上品として黒糖は重宝された特産物でした。
400年にもおよぶキビ栽培の歴史の中で品種改良が進み、
製糖技術も日進月歩で向上し、
現在では大規模工場での生産が一般的になっていますが、
昭和30年代頃まではさたやどりで行う
家族単位での製糖に頼っていたわけです。
その伝統的な製糖方法とはどんなものかというと…
これが実にのどかでいい感じなのです。
まずはキビを一本ずつ刈り取るところから始まります。
堅くて機械化に適したサトウキビが主流の中にあって、
ここで栽培されているのは太茎種という
生でかじっても食べられる柔らかい品種です。
刈り取られたキビは集められ、次に圧搾されます。
この段階で活躍するのが馬。
昔の洗濯機についていたローラーの要領で、
歯車の間にキビを差し込み
馬にさたぐるまを回させてしぼるのです。
その日は馬―アオという名だとか―の機嫌が悪かったようで、
最初はひとしきり暴走したかと思うと、
その後はなかなか動き出そうとはしませんでした。
しかし馬主のおじさんの説得に根負けして
しぶしぶ歯車からのびた長い柄をひきはじめました。
すると、出ること出ること。
竹みたいなキビのどこにこんなにも水分が残っていたのか
と驚くほど、白濁したしぼり汁がじゃんじゃん出てきます。
汁は樋を通って地面に置かれたかめの中に溜まっていきます。
アオはときおり休みながらも、ノルマをこなしていきました。
さたぐるまを回すアオ
しぼり汁が集まったら、あくを取り除きながら煮るのみ。
小屋の中でおばちゃんたちが大鍋をのんびりかき回します。
大鍋で2時間ほど煮たあと、小鍋に移してさらに煮詰める。
水分がなくなり、ようやくあまーい黒糖のできあがりです。
イチゴの葉にのせて固めると実にうまそうに見えます。
ミネラルやビタミンが豊富で
健康食品としても注目されている手作りの黒糖。
味見をさせてもらったところ、
辛党のわたしにはいかんせん甘すぎましたが、
これぞ奄美の人々の長寿を支える元気の素なのです。
ところで少し宣伝をさせてください。
3月に新刊が2冊出ました。
1冊は角川書店から出た『非在』。
思わせぶりなタイトルですが、難しい本ではありません。
生き物がたくさん出てくる孤島物のミステリーです。
出版社名:角川書店
発売日:2002年03月08日
定価:本体1600円(税別)
ISBN:4-04-873367-2-C0093 |
もう1冊は世界文化社から刊行された『昆虫探偵』。
こちらはタイトルそのまんまの昆虫ミステリー。
昆虫界で起こる事件を昆虫の探偵が昆虫の論理で解決します。
出版社名:世界文化社
発行年月:2002年03月
定価:1,400円 (税抜)
ISBN:4-418-02503-0
|
|