その61 時間よとまれ
東京や大阪などの大都会から沖縄に遊びに行ったら、
やけにのんびりしたところだなあと感じるでしょう。
これが南の島の時間の流れかたなのか、と感動したりして。
ところが沖縄の人が奄美大島を訪れたら、
昔の沖縄みたいにのどかだと感じるそうです。
それだけ人口が少なく
自然が残っているということでしょう。
で、奄美大島から船で加計呂麻(かけろま)島に渡ると、
一段と時間の流れが遅くなったような気がします。
それくらいとことん田舎なのです。
さらに加計呂麻の向こうの
与路(よろ)島まで足を伸ばすと、
ここではもはや時間はとまってしまっています。
いつか見た南の島の原風景が広がっているのです。
与路島は奄美の有人8島のうちで一番小さく、
人口も200人に満たないちっぽけな島です。
集落がひとつに大手化粧品メーカーの研修施設があるだけ。
島の大部分は森林に覆われ、海岸線のほとんどは断崖です。
奄美地方の方言(島口)には本土では使われなくなった
みやびな古代日本語の響きがたくさん残っていますが、
なかでもこの島にはそれが色濃く残っているそうです。
いかにも時代に取り残された島っぽい。
ある暑い昼、与路島に上陸しのんびり散策してみました。
集落で最初に目に付くのはサンゴの石垣です。
古くから奄美では民家をサンゴの石垣で囲っていました。
ところがサンゴの間にハブが巣を作ることが多く、
危険という理由からこの風習はなくなりつつあります。
しかし与路島にはたっぷりとサンゴの石垣が残っています。
聞くところによるとちょっと前までは
地面にもサンゴの破片を敷き詰めていたとのこと。
道のほうはコンクリートで固められてしまいましたが、
民家を囲う石垣は風通しがよさそうで涼しげに感じます。
石垣のあちこちにハブ棒が立てかけてあります。
その棒が落とす影は濃く、陽射しの強さがわかります。
石垣の中は涼しそうなのに、外は灼熱の暑さ。
サンゴの石垣とハブ棒
集落を抜けると畑に出ました。
ところどころにヤギがつながれています。
けだるげに草を食べては、時折震える声でメーと鳴く。
こころなしかヤギの声も古代語っぽく聞こえます。
道路には車がとめられています。
普通車なのに軽の黄色いナンバープレートがついていたり、
そもそもナンバープレートがなかったり。
ここは日本国から治外法権を得ているのかもしれない。
ここは現代ではなく、昔の日本なんじゃないだろうか。
この既視感はタイムスリップによるものではないか。
あらぬ想像が次々とわいてきます。
それにしても暑い。
アダンの赤橙の実がなった海岸線を歩き、
青く澄んだ海を眺めながら船着場に戻りました。
ゆっくり歩いて約一時間の散策でしたが、
集落にも畑にも海にも住民の姿は見えません。
きっとみんな家の中でお昼寝なのでしょう。
サンゴの石垣を渡ってくる風を感じながら、
セミの声をBGMに、お昼寝なのでしょう。
忘れかけていませんか?
これが正しい日本の夏なのです。
30年前の夏休みから時間がとまったような午後でした。
ところで少し宣伝をさせてください。
3月に新刊が2冊出ました。
1冊は角川書店から出た『非在』。
思わせぶりなタイトルですが、難しい本ではありません。
生き物がたくさん出てくる孤島物のミステリーです。
出版社名:角川書店
発売日:2002年03月08日
定価:本体1600円(税別)
ISBN:4-04-873367-2-C0093 |
もう1冊は世界文化社から刊行された『昆虫探偵』。
こちらはタイトルそのまんまの昆虫ミステリー。
昆虫界で起こる事件を昆虫の探偵が昆虫の論理で解決します。
出版社名:世界文化社
発行年月:2002年03月
定価:1,400円 (税抜)
ISBN:4-418-02503-0
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