その67 新緑の赤
奄美の森は3月に新緑を迎えます。
山が一番輝いて見える美しい季節の到来です。
常緑広葉樹の森は基本的には重たい緑に包まれています。
ツバキの葉を思い出してもらえればわかるでしょうか、
肉厚の硬い葉っぱは太陽を透かしてみることができず、
そのために森の中はいつでも薄暗いのです。
散策にもってこいの武蔵野の雑木林や
ハイキングに最適の東北のブナ林とは違って、
常緑広葉樹の森は人間の侵入を断固として拒んでいます。
慣れた人でない限り踏み入ることがためらわれる暗い森は
古来から神の住まう場所として畏れられ、
現在でもほとんどの島民は山へ入ろうとはしないほど。
そんな山が唯一穏やかな表情を見せるのがいまなのです。
黄緑、緑、深緑。
若竹色、萌黄色、鶯色。
モスグリーン、ペールグリーン、ビリジアン。
あらゆる緑が森を彩っています。
さながら緑の見本市のよう。
よく見ると緑ばかりではありません。
シロダモの若葉は白っぽく、
タブノキの新芽は赤いのです。
赤い新緑。ちょっとした発見です。
![](IMAGES/030401.jpg)
タブノキの新芽は真っ赤で一見花を思わせる。
新緑の季節は、実は落葉の季節でもあります。
紅葉しない常緑広葉樹は、
若葉が芽生えるこの時期ひっそりと老いた葉を落とします。
森では無言の新旧交代劇が繰り広げられているのです。
静かに散った落ち葉を踏みしめ若返った森へ入っていくと、
生き物の姿がやけに目に付きます。
ルリカケス、オオトラツグミ、オーストンオオアカゲラ。
奄美の固有の鳥たちが誇らしげに自己主張をしています。
夏鳥が来る前に一足先に繁殖を始めたのです。
アカヒゲ、アマミヤマガラ、リュウキュウメジロ。
小鳥たちもさかんにさえずっているではないですか。
島の鳥にとって恋の季節がまっさかりなのです。
アマシバ、クロバイ、シマウリカエデ。
咲き始めた花に小さな虫たちが集まっています。
花も虫も活動開始です。
カラスアゲハ、モンキアゲハ、アオスジアゲハ。
見栄えのよいチョウたちも心地よげに飛んでいます。
ひらりひらーりと、ゆったりと。
奄美の森はいままさに新緑を迎えています。
生命が躍動して見える最高の季節の到来です。
遠くイラクの砲火を思いつつ、
青空の下、何時間も何時間も森にひたっていました。
鳥飼さんの新作が出ました!
本格推理 書下ろし
『桃源郷の惨劇』
三転、四転する推理
そして作中作に隠された<暗号>が明かす真相とは!?
そこはヒマラヤの奥地、
桃色の花々に煙る文字通りの桃源郷だった。
針金倫明(はりがねみちあき)ら日本人スタッフの目的は、
新種の鳥を世界に先駆けて撮影すること。
古老が出した条件は一つ
「神の領域を侵してはならない」だ。
通訳はさらに、神とはイエティ(雪男)だと訳した。
本当に実在する?
半信半疑のまま撮影を開始した直後、
カメラマンが惨殺され、遠ざかる巨人の影と足跡が!
![](IMAGES/book_sangeki.gif)
『桃源郷の惨劇』
トウゲンキョウノサンゲキ
著者名:鳥飼否宇
祥伝社文庫
文庫判/144頁
定価:本体381円+税
ISBNコード:4-396-33094-4
2003年2月10日発売 |
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