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年末年始スペシャル!
『糸井重里500分』
今回のインタビュアー
柳瀬博一さん
第3回 モテたい願望のゆくえ

(※ひきつづき、日経BP柳瀬さんが質問をしています)

柳瀬 男子の「モテたい願望」って、
いやらしい意味じゃなくても、
ずいぶん根深いように思うんです。

ある種の正義感と同時に、
人の行動の背中を押すものの一つには、
「女の子にほめられるとうれしい」
というものが、あるんじゃないでしょうか。
それはすごく素直なもので、
「中学生の男の子がホームランを打ったときに
 クラスの子にキャーッと言われると気持ちがいい」
みたいな感覚と、ほとんど一緒で。

例えば、すばらしい作家で、
もう奥さんとも死別されて久しい方が、
ファンクラブの女性に囲まれている姿って、
ほとんど、女の子にモテてうれしい中学生の顔と、
同じに見えるんですよ。
かならずしもスケベな話ではないんですけど。
糸井 俺がおじいさんでも、ダミ声に囲まれてるよりは、
キャピキャピってほうが
うれしいんじゃないですか。
柳瀬 大勢の相撲部員みたいな輩たちに、
すごい尊敬されて
「最高ッス!糸井さん!」みたいだと?
糸井 一見うれしいふりはしますけど、
できれば、そうじゃないものがいい……と。
柳瀬 相撲部じゃないほうが、いいですよねぇ。
糸井 確かに、硬派で鳴らしたみたいな人がさ、
「何々先生を囲む会」みたいなときに、
むくつけき人が
いっぱい集まったりするじゃないですか。
柳瀬 よく見かけます。
糸井 あれ、本人、イヤだろうね。
柳瀬 (笑)そう思うんですよ。
そういうときは、なんか、
話が500分の1ぐらいしかわかんなくても、
「先生、お久しぶりでーす!」っていうほうが。
糸井 話がわかるなんて、どうでもいいんだよ。
柳瀬 (笑)
糸井 ただ、モテようとしてるのが
顔に出るじゃないですか。
あれ、なんでなんだろう?

なんか、そういう
ミエミエの姿って、学生のときに
ちゃんとモテていなかったような
感じがあるんですよね。
柳瀬 50歳や60歳でモテたい光線が強い人って、
結局、若いときに
デコボコやってないからなんでしょうか。
糸井 きっと、モテやすいところで
モテるクセをつけ過ぎたんですよ。
通用しない世界を、持ち過ぎてるんです。
柳瀬 (笑)
糸井 銀座のクラブでモテる人が、
麹町のOLと知り合ったときにどうするかは、
もう、マニュアルがぜんぜん違っちゃうんですよ。
それなのに、
「ぜんぶ、イケるんじゃないか?」
という欲望を持ちはじめるのが男子で。

でも、クラスで成績がいちばんとか
学年でいちばんって、
小学校の数だけあるんだから、
どこかでいちばんになったって
仕方がないですよね。
モテにしても、同じようなもんですよ。

ほんとうは、雨戸を閉めてね、
カアちゃんに手招きをする百姓の暮らし、
みたいなものが、理想の男女だと思うんですよ。
おもしろくもないような顔をしてね。
で、ウッ、と言って。
柳瀬 (笑)
糸井 電気をもう1回つけて、
「明日は雨だなぁ」って寝るんですよ。
柳瀬 なるほど。
糸井 それをよろこべなかったら、
人間として生きてる価値はないと思うんですよ。

でも、それに対して、その、
やれ巨乳だの、やれカノウだの、みたいな……。
文化的なしかけって言うの?
柳瀬 (笑)しかけ。
糸井 そのしかけが、列をなしているわけですよ。
誰でも、それに長い間、まどわされるもんで。
ぼくも、かつてはその中を
クロールするように生きていました。
柳瀬 へぇー。
糸井 でも、クロールするような生活の中でも、
そんなにおもしろいもんじゃないんですよ。
相手が変わろうが何をしようが、ほんとうは。

……前から薄々わかってたんだけど、
南の島とかにロケに行くと、明らかに、
ものすごく気持ちのいい
好青年のオレがいるんです。

晴れた空、青い海。
ゴーギャンに出てくるような女性が、
上半身裸で、そこを歩いてても
「おはよう!」って言えるんです。
ところが、東京でそういう人がいると、
「おはよう」とは言えないですね。
柳瀬 まぁ、「おはよう」じゃないですね。
糸井 でも、何が違うんだろう?と思って。
ぼくは「おはよう」と言いたいんですよ。
ねぇ?
「おはよう」が人類ですよ。
柳瀬 (笑)人類。
糸井 人類に対して、
「おはよう」じゃなくて
「いいんですか?」って言っちゃう
のは、
スラムの子どもたちに
お金を投げたら、海の中にでも
拾いに行くみたいなもんじゃないですか。

「いいわよ」って言われたら、
男子は、絶対に飛びこみますよね。
言われていなくても、
「飛び込んでいいかどうか?」
について考えて生きていくと、
けっこう忙しいんですよ、頭の中が。
柳瀬 (笑)
糸井 でも、その解決は簡単なんですよ。
答えはひとつです。
女になりゃあいいんです。
柳瀬 え?
糸井 女になったときにイヤだなってことは、
だいたいの女の人がイヤだと感じますよ。

両親にかわいがられて育てられた女の子が、
ふつうにそれは気持ち悪いって思うこととか、
向こう側の目から照らしかえしたら、
自分のやってることはだいたいヘンなことで。
柳瀬 ところで、
誰かと一緒に暮らして家族を作るとか、
そういう決断を、
糸井さんはどういう風にしたんですか?
糸井 俺は、ものすごく早く結婚したかった人なんです。
好きだ嫌いだのでジタバタしてるのが、
めんどくさいと思っていて。
だから、スッと家庭に入れた。
ぼくって、常に保守になりたいタイプなんですよ。
だけど、なれないんだけどね……。
(つづきます)

2003-12-24-WED
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