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年末年始スペシャル!
『糸井重里500分』
糸井darling重里が
自ら語ります
第4回 生きることがむずかしい

(※今日はロングインタビュー冒頭部分を掲載します。
  一人ずつのインタビュアーが登場する前に、まず、
  「今年」というものをふりかえった部分なんです。
  ちょっとマジメな話になりますが、この後に
  広告についてや、仕事や生いたちなどを語る上で、
  避けて通れない会話なので、ぜひ、読んでみてね!)


ほぼ日 今回の500分のロングインタビューでは、
今年をふりかえる話を、
少しずつたずねてゆきます。
糸井 うん、いつでもどうぞ。

今年のことについては、
ぼくも、昨晩、このインタビューの前に、
ちょっと、考えてみたんです。

自分が、今年のことで、
ひとつだけ何か言うとしたら……。

「生きることが、ものすごく
 むずかしくなってきている」


これが、2003年を通した
ぼくにとってのいちばん大きい発見というか、
世の中のことを大づかみする上で、
いちばん重要なことだと思うんです。

秋ぐらいの「ほぼ日」にも、それを書きました。
チーマーをやってた連中が、結局のところ、
オレオレ詐欺に行ったニュースを見て、書いた。
糸井  「そうだよなぁ。
 みんなが受験勉強をやったりしている間に
 遊んだりカツアゲしていたりしたやつらって、
 昔なら、そこでマジメになると
 思いたってもまにあったんけど、
 今は、そこからじゃ、もう遅いんだ」

そう実感したんです。
ついこのあいだまで、22歳ぐらいのときに
「今からマジメになる!」と思いたったとしても、
遅くはなかったと思うんですよ。だけど、
遅い人用に残されている場所は、
今は犯罪ですから。

「やり直すんだったら、ウチへ来ないか?」
「この会社で、イチから叩きあげたらどうだ?」

もう、そういう言葉をかけられなくなった……。
そんな時代って、ぼくが経験した中では、
これまでなかったと思うんですね。
何かしらの仕事はあったし、
みんな、もっと、のんびりしてた。

今の不景気だとかいった社会現象の源に、
生きることのむずかしさがあると気づいたとき、
「イヤな世の中になったよなぁ」
と感じたんだけど、それからしばらく経って、
違う考え方もあると思い直したんです。
寒波襲来のときにこそ、
急に発達する知恵があるかもしれない
から。
糸井  今までは、あたたかくて、
緑も青々として小動物が走りまわっていた。
花が咲き、実がなり、
栽培したものがたわわに実り、
野イチゴをつんだら食べられた。
秋には秋で、栗を拾えば食べられた。

だけど、その後に来たのは、
寒さでいろんなものが枯れて、
小さな動物は死に絶え、
大きな動物は冬眠する時代。

池に行っても氷を割る技術が要るし、
変温動物のサカナが、
じっと動かないでいる状態を、
脅して獲るみたいなことをしなきゃなんない。

春の間には、
「獲れたサカナは、オレにちょうだい」
「いいよ」
そうやってもらってたヤツらも、
冬になったら、もらえなくなっちゃう。

獲物を得る方法がむずかしくなったときにこそ、
ワナを考える人も、
保存食を考える人も出るわけで。
新しい食物の獲り方や
苦しいときのたのしみかたを
生む必要があるからね。
糸井  そういうことが、要求されている時代かなぁと。
木の年輪で言えば、寒くて年輪が狭い時期にこそ、
じょうぶな木が育つこともあるわけでしょう。

何をしたらいいかやることが見つからないときは、
冗談じゃないと思うのも事実だし、
ほとんどの人間にとってつらいわけだけど、
ただ、そのあいだにできる仕事はいくらでもある。

1銭にもならなくていいと思ったら、
あらゆる場所に仕事があって、
仕事をする間に工夫したり訓練したりすれば、
少なくとも、知的体力がつくんですよ。
トレーニングした結果、
あとでモノを運んだりできるようになる。
冬が終わって、春が来たときに使える、
って言うか。

例えば、学生時代って、
学問を通しては、1銭も稼がない。
むしろ金を払ってやっているのに、
どうしてあんなに一生懸命やるかっていうと、
生産性ゼロのように見えて、
「自分という工場」を
建設しているまっ最中だからなんです。

今の寒波をそういう時期にすればいいというか。

ほんとうにタダみたいなことのためでも、
骨折り損のくたびれもうけってことはなくて、
とにかく、することが何もないのに比べたら、
何でもしておけばいいんじゃないでしょうか。

不況時代で寒いからこそ、
「何でもいいからやりたいんです」って言って
自分から温まるように立ち仕事をはじめるとか、
そういうことに興味を持って
「ほぼ日」を毎日読んでくれている人も
きっと、いるんじゃないかなぁと思うんです。

そういう人が集まったところからは、
仕事が生まれるかもしれない。
そんなことを、今年はよく考えました。

ま、敢えてことわざの中で見つけるとすると、
「若いときの苦労は買ってでもしろ」とか、
「マメでじょうぶに生きなさい」とか、
だいたいは、そういう時代なんじゃないかなぁ。

まぁ、単純に言って、
例えば、モテるヤツって、マメじゃないですか。
そういうことなんですけど。

……ちょっと、マジメになっちゃいましたが、
そんなところから、話をはじめましょうか。

じゃ、何でも聞いてみてください。

(つづきます)

2003-12-25-THU
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