糸井 |
つまり、豊かになればなるほど、
人は、再現できないものを求めたくなる、と。
それは、年々、実感していることなんです。
1匹の犬が死んじゃったら、
新しく同じ種類の犬を買ってあげる、
なんて言われても困りますよね。
そこに、人間のおもしろさと悲しみがあって。 |
田中 |
はい。 |
糸井 |
いちばん新しいビルの
最上階のペントハウスに住むよりも、
なぜジョン・レノンは
昔からあるダコタハウスに住んでたか?
みたいなことを、2004年はもっと、
みんなが気づくようになるでしょうね。当然。 |
田中 |
うん。 |
糸井 |
低いけれど登りたい山がだいじになるし、
高いけれども価値のない山だって明らかになる。
ゴツゴツした、その、価値の地形図が、
そのうち、できてくると思っているんですね。
思いとか丁寧さとか時間とか、
買えないものが作っていった
世界観みたいなものが、
もうすでに、みんなの欲しいものになりつつある。
それなら、京都はどれぐらい高い値打ちがあるか。
青山を中心にあちこち散歩していて
ほんとによく感じるんですけど、もう、東京中が、
安くてちょうどいいもので、いっぱいなんですよ。
すこし趣味がよくて、イナカから来た人が、
「都会!」って言いそうな、
ちょっと抑えた色調で、ちょっと愛想の悪い店員が、
千円でヘルシーなランチを、みたいな……。 |
田中 |
(笑) |
糸井 |
それはもう、選びようがないですもん。
散歩でお店を眺めていると、みんなそうなってる。
それに比べると、
墓地の中に入っていって墓を見ると、
スゴイんです。
それぞれの家をかけた欲望が、
悲しみや見栄と共に
ドッカンドッカン、伝わってくるから。
|
田中 |
(笑)なるほど。 |