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年末年始スペシャル!
『糸井重里500分』
今回のインタビュアー
田中宏和さん
第11回 しょうがないものを大切に

(※今回から、「感心力がビジネスを変える!」でおなじみ、
  田中宏和さんがインタビュアーです!)


田中 糸井さん、こんばんは。
糸井 こんばんは、よろしくおねがいします。
田中 今回のロングインタビューでは、ぼくは、
仕事や広告のことを、お聞きしようと思いまして。

糸井さんは最近、広告をどうごらんになってるか、
ってところからうかがおうかと考えたんです。
糸井 それ、過激な質問だなぁ(笑)。
……今、広告に対して何を思うかっていうと、
「今の時代に、よく、
 どの会社も広告なんてやっているよなぁ」
と思って見てますね。
田中 広告づくりがむずかしくなっている?
糸井 おそろしいですよね。
田中 ……そのへんを、糸井さんご本人の節目と一緒に、
うかがいたいと思っているんです。

あと、質問したいのは、年始の企画でもあるので、
やっぱり、「糸井さんの2004年の抱負」ですね。
そちらから、行きましょうか?
糸井 うん。
抱負は、ひとことで言うと「がんばる」です。
田中 (笑)ざっくりしてるなぁ。
糸井 まぁ、強いて挙げると……。
「時間をかけずに、速度をもってやる」
っていうことが、前からのテーマとしてあります。
ただ、それだけじゃいけない
思っているんです。

時間をかけちゃったら、やらないも同然なんだ、
という失敗は、これまでいっぱいしてきてます。
ただ、現実って、デジタルじゃないから、
何でも決めたらすぐできるわけはないですよね。

現実は、名づけようがなかったり
管理しようがないものに満ち満ちているわけで。
現実は、「しょうがないもの」ばかりですよ。
それを大切にすることが、
敢えて言うなら、抱負になるかなぁ。
田中 なるほど。
糸井 たとえば、仮に親の面倒を見なきゃならない、
ということについても、面倒を見る理由とかを
話しあっているわけにはいかないですよね。

そういう、
「しょうがないからこうやった」みたいなことが
人類の歴史のいちばん大きな部分だと思うんです。

だから、速度でひとくくりできない
「しょうがないもの」
に対する敬意っていうのは、
忘れてはいけないと言いますか。


ぼくが最近好きな京都だって、
しょうがなく生き残った都市なんだと思います。
「お父さん、こんなゴミゴミしたところに
 住んでないでも、私がビルにしてあげるよ」
って言う人がいても、おかしくなかったのに。

「京都なんだから、これがないとあきまへん。
 人が何と言おうが、あきまへん」

そう言ってきたおかげで、京都があるんですよね。
東京は、そこのところを
「もっといいものがある」と
譲りすぎちゃったんですよ、きっと。

新しさの価値に負けつづけてきたのが東京で、
だから、都市に時間が感じられないものになった。

ところが、京都がぜんぶなくなっちゃったら……。
そう考えると、「買えないもの」の価値が、
ますますあがってくると言いますか。
愛情も、買えないものでしょう?
田中 かけがえのないものですね。
糸井 つまり、豊かになればなるほど、
人は、再現できないものを求めたくなる、と。
それは、年々、実感していることなんです。

1匹の犬が死んじゃったら、
新しく同じ種類の犬を買ってあげる、
なんて言われても困りますよね。
そこに、人間のおもしろさと悲しみがあって。
田中 はい。
糸井 いちばん新しいビルの
最上階のペントハウスに住むよりも、
なぜジョン・レノンは
昔からあるダコタハウスに住んでたか?
みたいなことを、2004年はもっと、
みんなが気づくようになるでしょうね。当然。
田中 うん。
糸井 低いけれど登りたい山がだいじになるし、
高いけれども価値のない山だって明らかになる。
ゴツゴツした、その、価値の地形図が、
そのうち、できてくると思っているんですね。

思いとか丁寧さとか時間とか、
買えないものが作っていった
世界観みたいなものが、
もうすでに、みんなの欲しいものになりつつある。
それなら、京都はどれぐらい高い値打ちがあるか。

青山を中心にあちこち散歩していて
ほんとによく感じるんですけど、もう、東京中が、
安くてちょうどいいもので、いっぱいなんですよ。

すこし趣味がよくて、イナカから来た人が、
「都会!」って言いそうな、
ちょっと抑えた色調で、ちょっと愛想の悪い店員が、
千円でヘルシーなランチを、みたいな……。
田中 (笑)
糸井 それはもう、選びようがないですもん。
散歩でお店を眺めていると、みんなそうなってる。

それに比べると、
墓地の中に入っていって墓を見ると、
スゴイんです。
それぞれの家をかけた欲望が、
悲しみや見栄と共に
ドッカンドッカン、伝わってくるから。

田中 (笑)なるほど。
糸井 敷地の奪いあいとかも含めて、
墓地はスゴイ(笑)。
「俺を立派だと思ってくれ」
っていう正直な墓も、いっぱいあるわけですよ。
田中 例えば、高野山なんかすごいですからね。
糸井 うん、あそこもスゴイ。
田中 ロケットの墓とか、ありますからねぇ。
糸井 あるある、グリコの墓とか、地球儀も。
欲望の集積地として、墓はスゴイもんですよ。
田中 (笑)ええ。
糸井 高野山って、あそこに行くまでも、
ヘンな列車みたいで、おもしろいし。
剃り込み入れたヤツらも、
高野山高校かなんかに入っていて、
「こっち側です」とか道を教えたり。スゴイ!

ああいう、墓みたいなものほうがいいんです。
大量消費型の産業構造に乗せようがない商品?

大量生産大量消費の産業構造っていうのは、
今、いちばんあぶないじゃないですか。
1商品の在庫ミスをするだけで、
利益がぶっ飛んじゃうんだもんねぇ。

(つづきます)

2004-01-03-SAT
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