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年末年始スペシャル!
『糸井重里500分』
今回のインタビュアー
田中宏和さん
第12回 個性は悲しみの傷跡だから

(※ひきつづき田中宏和さんがインタビュアーです!)


田中 大量消費型の産業構造に乗らないものを、
糸井さんは、これから、作りたいと?
糸井 はい。
大量生産の裏側にあるのは「個性」ですよね。
「管理」ではなくて。

例えば、ピカソが、青の時代だとか経て、
あんだけ技術がありながら、
『アビニョンの娘たち』を描いたけど……。

あれ描いたときに、ピカソはたぶん、
ほんとに困っていたと思うんですよ。
理論はあったはずですけど。
田中 はい。
糸井 つまり、いろんな角度から見たもので
組み立てるってところで、理論ですから。
田中 そうでしょうね。
糸井 影のつけ方とかは、
やってみないとわかんなかっただろうけど、
やりたくてしょうがないし、
今までのものはもう嫌だよ、と。
「やる!」って描いたんだだろうねぇ。
でも、誰もわかってくれなかった(笑)。

誰もわからないっていう悲しみを、
ピカソは背負ったんだけど、もしもあれ、
描いてる最中に、みんなが見てて、
「あの人は、こんなブスじゃない」とか。
「一庶民として聞きたいのですが、
 この絵は何のためにあるんでしょう?」
というメール
が、もし来ていたら……。
田中 (笑)
糸井 そしたら、ピカソ、つらいよね。
田中 ピカソが平気だったのは、
アイデアが大きかったからですね。
糸井 そうですね。
田中 大きすぎるアイデアには、いやがらせも来ないと。
いやがらせの、出しようがないですから。
糸井 会社は、特に大量消費型だったら、
そうなってないと思うんです。
宣伝部だとか広報部だとかに、
5通ぐらい苦情が行ったら、会議になっちゃう。
それはいま、どこでもそうだと思うけど。

でも、怪文書で人が動いちゃうような仕組みは、
とても脆弱ですよね。
産業としての完成度が高すぎるがゆえに、
アラの目立つ仕組みになってるわけで。
田中 ええ。臆病になりますよね。
糸井 だから、特に自分の関わる仕事は、
完成度を高めちゃダメだと思っているんです。
田中 完成度に固執すると、
何もできなくなりますよね。
糸井 会社が、管理を中心にして
動くような会社になったら、
その会社の寿命は終わってると思うんです。

管理っていうのはあくまでも補助輪で。
田中 はい。
糸井 だけど、ほとんどのちゃんとした会社って、
管理が中心ですよね。
でも、それでは、生む力がないわけです。
生む力がないってことは、
もうなにも熱を持ってないことになる……。
そうならないようにする、
っていうことが大事なんだと思っています。
田中 程良いカオスの入れ方みたいなのは、
仕事をしていて、意識されてるんですか?
糸井 「ほぼ日」の事務所で言うと、
アイデアの発電機が、個人なんですよ。
それぞれ、ちょっと理解しあいながら、
ぜんぜん理解できない部分も含めて、
仕事で組まなきゃいけなくなったりする。

そうすると、企画が
ねじれたり止まってみたりするんですよ。
それは、大事なんだと思っています。
田中 できるだけ人が散らばる採用が
大事ということですね、まとめると。
糸井 まぁ、そうですよねぇ。
真冬にね、餌を探しに行くような時代ですし。
田中 (笑)
糸井 最初、お昼にそういう挨拶から
このインタビューは、はじまったんですよ。

今は、仕事をするということは、
真冬に餌を探しに行くようなもんなんだから、
難しくて当たり前で、だから鍛えられるんだし。

これは奈良県に住んでる人に聞いたんだけど、
奈良に、春日山があるじゃないですか。
あそこのそばのホテルに泊まると、
「チャピチャピチャピチャピッ」
って音がして、朝に目覚めるんだって。
何かっていうと、生えたばっかりの短い草を、
鹿が、無理矢理食う音なんだと……。
柳瀬 (笑)飢えていたから?
糸井 それ、いい話だよねぇ。
鹿せんべいと草で命を必死につなぐんです。

天然のエサをおっかけたカワハギがうまかったり、
頭をぶつけて泳ぎつづけたマグロがうまかったり、
だから「ほぼ日」だって、放っておいて、
飢えさせて、ま、エサは自分で取れ、という……。
田中 (笑)永田農法のトマトみたいですね。
糸井 人間もたぶん、そうなんですよ。
個性的じゃないものって、要らないですよね。
個性は、悲しみの傷跡じゃないですか。
田中 (笑)
糸井 やっぱり、ひどい目に遭わないと。
田中 なるほど(笑)。
糸井 じゃないと、個性は出ない。
なんかですごくツラい目に遭ったから、
そこは譲らないとか、あるじゃないですか。

「豊かに育てよ」
「うん、いいよ」
こう、一生言ってると、
個性にはならないですからねぇ。

物語の中で生きようと思ったら、傷が要る。
ブラック・ジャックを見なさいよ。
田中 (笑)現実に会ったら気持ち悪いですよね。
糸井 「だから医者やってる、クゥ!」ですよ。
……ちょっとよくわからないたとえですけど。
ブラックジャック、髪形とかも個性的だもんなぁ。

(つづきます)

2004-01-04-SUN
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