ハリさんがTシャツ作ってるうっ!
読者にプレゼントするためなんだってよー。

Tシャツづくりの実際 その2

はあ、はあ、ごぶさたしております。ジャコメッティです。
いやもうホント、息切れしとります。
こんなに大変なことになると思わなかった。
うまくいかなくて、絶望のあまり
蒸発したくなったりもしました。いやホント。

今回は、その苦悩を含めてのレポートです。

◆「Tシャツくん」のしくみ

いよいよプリントに入ります。
前回その姿をあらわした
「Tシャツくん」を駆使するわけですが、
どういうしくみになってるか、説明しましょう。

えー、「スクリーン」っていうものがありまして、
すげえ目の細かい網戸、くらいに
思っといていただきましょうか。
これには感光剤というものが塗ってあります。
で、グラフィック部分を黒く塗った「版下」を
スクリーンに貼りつけ、下からライトで紫外線をあてます。
すると、紫外線のあたる部分、
つまり版下の白い部分は感光剤が固まります。
そのあと、スクリーンを水に濡らすと、
紫外線があたらない部分(版下の黒い部分)の感光剤が、
水にとけていきます。
そうやってできたスクリーン版をTシャツの上に置いて、
その上からインクをこすりつけると、
感光剤が取れたところにだけインクがのって、
グラフィックを刷ることができるわけです。



えーと、シルクスクリーンをやったことがある方は、
おわかりかと思いますが、
そう、これ、シルクと一緒ですよね。
それをもっと手軽に、Tシャツ専用に使いやすくしたのが、
「Tシャツくん」なわけです。

さてさて、では実際の作業を見ていきましょうか。

◆版下をつくる

まずはこれ、グラフィックの版下を用意します。


パソコンから、
カラーレーザープリンタで
出力したものです。


ここでの注意点は、
とにかくグラフィックの部分を黒くすることです。
パソコンのプリンタを使っても、もちろんいいんですけど、
よーく見ると、けっこうムラがあったりします。
その場合は、マジックなどでうすい部分を塗ります。
ぼくの場合は、ちょっともったいないけど、
カラーレーザープリンタで出力します。
これだと、黒がムラなく、べっとり乗って、
あとでマジックとか使う必要がないんですよ。
もちろん、コスト高になるけど、
版下の出来で、仕上がりのクオリティが決まると言っても
過言ではないので、ここではケチらないようにしてます。

もちろん、版下は手書きでもいいですよ。
その場合も、とにかくはっきり黒く塗るのがポイントね。

それから、紙なんだけど、普通のコピー紙だと
ちょっと厚いんですよ。
グラフィック以外の部分は、
できるだけ光を遮らないほうがいいので、
紙はうすいほうがいいんですね。
なので、55kg(64g/m2)のコピー用紙を使います。

さて、今回つくるTシャツというのは、
何色か色を使ってますよね。
たとえば胸の「1101.com」。
この場合は白と黄色で2色使ってます。
しくみ上当然のことながら、
これを1回で刷ることはできません。
白用と、黄色用、2つの版が必要になります。
でも、2つの位置をちゃんと合わせられるのか?
そうですね。これ、問題です。
そのため、こういうときは、
位置合わせ用のマークを版下に描いておきます。
で、マークを合わせて、2回刷るわけです。



左が黄色に塗る部分、右が白く塗る部分です。
先に右の版で刷っておいてから、
周りのマークで位置合わせして
右の版で刷るわけです。


え?誰ですか?
面倒くさそう、なんて言ってるのは。
いや確かに面倒くさい。
けど、それを乗り越えて、 うまくできたときなんて、
そりゃあ快感なんだから。

今回は、いまの「1101.com」と、
背面の裾の、「ONLY IS NOT LONELY」が、
2版を必要とするものになっています。

◆スクリーン版をつくる

今度は、スクリーンを、フレームに張ります。
これがスクリーンね。


シルクでできている、
なんかカーテンみたいな感じのものと
思えば近いかな。


スクリーンは、紫外線に感光するので、
日光が入らないように、作業する部屋は、
カーテンとかブラインドをおろしておきます。
蛍光灯でも感光するので、
フレームに張るのは、手早くやらなければいけません。


フレームにスクリーンを
張ったところ。


それができたら、さっきの版下にスプレーのりを吹きつけ、
これをスクリーンに、シワとかできないように、
ぴったりと貼りつけます。

これを、「ランプボックス」というもののなかに入れて、
フタをしめ、スイッチオン。
ランプが点灯します。
ランプボックスには蛍光灯がセットされていて、
この中でスクリーンを感光させるわけです。


ランプボックスにスクリーンを
セットしたところ。


しばらく(1〜2分くらいかなあ)待つと、
ランプが消えて、感光完了。
ランプボックスからとりだし、洗面所へ直行します。
感光すると慣行としてトイレ行きを敢行したくなる、
とかいうことではもちろんなくて、
スクリーンをブラッシングするためなのです。

やわらかい刷毛で、スクリーンをブラッシングします。


Tシャツくん付属の刷毛もあるんだけど、
毛がカタイので、別に用意した、
毛先がやわらかいものを使っています。
ほんとにデリケートなんですよ。


するとじょじょにグラフィックが浮かびあがってきます。
さらにブラッシングをつづけると、
グラフィック部分の感光剤が抜けて、透きとおります。
このときあまり力を入れてブラッシングすると、
他のところの感光剤までとれて、
グラフィックがくずれてしまうことがある
ので、
気をつけないといけません。
あくまでソフトタッチで、やさしく、ですね。うふん。

うまくグラフィック部分が透けたら、
ティッシュで、出しちゃったもの、いや水分をふき、
ドライヤーで乾かします。


見えにくいかもしれないけど、
透けてるのが分かるでしょう?


そのあと、光に照らして、抜け具合をチェックします。
抜けてない部分があったら、もっかいブラッシングです。
うふん。あはん。バカかおれ。

ちゃんとグラフィックが抜けたら、
スクリーン版が完成です。

◆プリントする

さて、今回ぼくは、プリント用に新兵器を導入しました。
それがこれ、「T-Beans」です。


T-Beansくん全身

え?誰ですか?「iMacみたいィ」なんて言ってるのは。
うーん、確かに似ている、というよりそのまんま…。
いやまあそんなことはいいです。

しかし、このT-Beansくん、
なかなかのスグレモノなんですよ。
言ってみれば、Tシャツ製版台、ってことになるのかな。

まず、下の写真の、プリントハンガーパネルというのに
スプレーのりを吹きつけ、
Tシャツを、シワにならないように着せます。


プリントハンガーパネル


Tシャツを着せています。

で、T-Beansにセット。
その上に、スクリーン版を、セットします。


スクリーン版の部分は、
把手で持ち上げられるようになってます。
同じ版で次々に刷れるように
なってるわけですね。


こうやって、Tシャツ、スクリーン版ともに
ガッチリ固定できるので、版ズレなどの心配がないんです。
…のハズだったんだけどなあ。
いやその話はあとでしましょう。

セット完了したら、インクをスクリーンにのせます。
インクの種類はいろいろあるけど、
今回は水性インクを使います。
水性といっても、洗ったら落ちる、
なんてことはありません。


インクは、グラフィックの範囲より、
やや広めにのせます。
ケチらないでどーんとのせる、
というのがポイント。


インクをのせたら、スキージという、ヘラみたいなもので、
下へ押しつけながら、ゆっくりと引いていきます。


スキージの傾きは65°くらいがいいらしいんだけど、
そうなってませんね...。
つうか、そんなの、目分量じゃわかんないよ。


しっかりと腰を決めて、スキージ全体に、
平均して力がかかるように刷るのがポイントです。



これが腰が決まった姿勢かどうかは、
大いに異論のあるところでしょう。
ぼくも自分で見てびっくりしました。


グラフィックが終わるとこの、もう少し下まで
スキージを引けば、終わりです。
よし、これでプリントできた!
はずなんですが…

フレームを上げてみると、
ありゃ!?
色がうすい。


わかりにくいかもしれませんが、
思いっきりうすいのです。
みすぼらしい、とさえ言えます。


おいおいおい、なんだよこれ。
まるで、5回くらい洗濯したかのような
うすぼんやりしたインクの乗り。
ROCK西本さんなどは、「これ、ユーズドですかあ?」
などと、笑みをたたえて冷やかしてくる。
おかしい。こんなはずではない。

しかし、考えてみれば、以前やったときも、
1回刷っただけではうすくて、2回刷った気もする…
しかも地が黒というのは、インクが一番うすく見えるもの。
気を取り直して、もう一回刷ってみました。

うわ。
なんとまだうすいだけでなく、はげしい版ズレ。
えーこんなのありかようどうなってるんだよう
そりゃないだろヘンだぞこのインク。
なんで版ズレするんだよう
しっかり固定されてるじゃないかよう
ヘンだぞこのT-Beans。


わかりにくいかもしれませんが、
思いっきり版ズレしているのです。
実になさけない気分になります。


ぶつぶつ言いながらも、真っ青になりました。
ああ、ああ。このプロジェクト全体が
がらがらと音を立てて崩れていく。
無言で難詰するスタッフと
苦虫を噛みつぶしたような顔のdarling。
そんな不吉なイメージが次から次へと…

◆マジでやばい

しかしうろたえてばかりいるわけにいきません。
なんとかしなければ。
まずはツテを頼って、「Tシャツくん」の手練れに、
意見を伺ってみました。
へなちょこのお二人、それとそのお友だちの、
渋谷ロフトデザイン用品売場の美細津(みさいず)さん、
どうもありがとうございました。

結果、ぼくの刷ったものは、確かにうすいけど、
「Tシャツくん」でやる限り、
まあこんなもんでしょう、ということでした。

でもおかしいなあ、ぼくが以前やったときは
もっとべったりインクがついたんだけどなあ。

ぼく   「他のインクを使うとどうなんでしょう?」
美細津さん「たとえばこんなのがありますが」

ということで見せていただいたのが、
油性のマルチチョイスインクを使ったサンプル。
おお、べったりとインクのってるじゃないすか。
このインク、いままで「マルチ」というのが、
なんか「マルチ商法」を想い出して敬遠してたんだけど、
そうは言っておられぬ。よし、これを試そう。

美細津さんのご好意で、以前店頭デモで使っておられた
いろんな色のインクをいただき、鼠穴に舞い戻りました。

で、刷りましたよ。
どうなったか?
あは。あはは。あははははは。
ダメ。うすいの。

もうちょっと試してみるべきかとも思ったけど、
油性インクって、練りが固いし、
アイロンをかけないと固まらないので、
どっかについちゃうことが多いし、
ついちゃったら取れにくいしで、
扱いが大変なのにめげて、早々にアキラメてしまいました。
美細津さん、申し訳ない。

その後、刷るときのスキージの角度、力の入れ方、
スクリーン版のつくり方、はては、夏だし暑いので、
インクの粘性が落ちて、こうなるのかと思って、
冷蔵庫でインクを冷やしたりまでしたけど、
ぜーんぜんダメ。

やばい。マジでやばいっす。

ダメなのか?ここまでなのか、オレ。
しょせんTシャツひとつつくれないウ○コ野郎なのか?
プレゼント応募受付は目前に迫っておる。
さあ、どうする!?


ヒマな方におくるTシャツコラム 第4回

ヒップホップはファッションに“自由”をもたらした?
えーほんとかよ、適当なこといってんじゃないよ、って
思います?思いますよね。
いやぼくだって、自分でもほんとかな、って思うんだけど、
いろいろ考えてみて、やっぱりそうじゃないかなあって。

アイビーとの関係で考えると、そう思うんですよ。
ヒップホップというのが登場するまで、
この何十年かのファッションというのは、
アイビーとの距離の取り方で成り立っていたと思うんです。
つまり、反発するにしろ、取り入れるにしろ、
モードというのは、アイビーを
常に意識してきたんだと思うんです。
アイビーをくずす、アイビーをベースに発展させる、
アイビーと何かをミックスする、
アイビーを極端にして新しいものをつくりだす、
アイビーが絶対やらないことをやる。などなど。

たとえば、コム・デ・ギャルソンなんかもそうですね。
アイビーが基礎にあって、その上で過激なことや、
自由な発想で遊んだり、進化させてる。
しっかりした基礎部分があるからこそ、
自己満足に終わらないクリエイティブになってる
代表例じゃないでしょうか。

アイビーを極端にする、っていうのでは、
ヴィヴィアン・ウエストウッドがそうですね。
めちゃめちゃでかいアーガイル柄とか、
かならずアイビーというか、トラッドいうかが、
モチーフになってますね。
だから、すっごいユニークなスタイルをつくりだしても、
ちゃんとサマになるというか、安心できる部分があります。

じゃあ、
オースティン・パワーズみたいなサイケっぽいのとか、
パンク・ファッションはどうなんだよ?っていうと、
これはアイビーに対するアンチとして、
位置づけられると思います。
コモン・センスなものというか、
カタギのアイビーに対して、「オレたちはちがうんだぜ」
ていうのをすっごい意識してると思います。
でもパンク・ファッションなんて、
さっきのヴィヴィアン・ウエストウッドが
つくたようなもんだし、
サイケにしても、カラフルな色以外は、
アイビーよりさらに時代をさかのぼる、という形で
距離を取ってる感じで、実はアイビーの重力圏を、
そんなに出てないという気が、ぼくはします。

それなら、ヒップホップはどうなのか?

初期の上下アディダスのジャージに、金のクサリ、
なんてのは、醜怪なことこの上ない、と
当時も今も思うけど、でも今ふりかえってみると、
そのたたずまいは、アイビーがどうの、とかいうハナシを
突き抜けてた気がするんですよ。

ヒップホップ・ファッションには、
アイビーに対するアンチがない、と思うんです。

(つづく)

2000-08-01-TUE

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