ボサノバをつくった男。
ジョアン・ジルベルトが日本にやってくる!

大貫妙子さんにとってのジョアン・ジルベルト、
そしてミウシャ、ボサノバという音楽について。


──ジョアン・ジルベルトに限らず、
  本人が最も愛してるもの
  それに向き合う姿は人を感動させます。
  音楽に限らずに、人を感動させようと思ったり、
  考えたりして物を作るのは本末転倒だと思うんです。
  本当にそれを愛し、
  それがなければ自分が生きられないくらいに
  魂と一緒になったものが
  結果的に人も感動させるんだ、
  ということだと思うんですね。
  全ての芸術や、仕事もそうだと思うんだけれど。
  ジョアン・ジルベルトは、その神髄ですよね。
  (大貫妙子さん談)




ほぼにちわ!
いよいよ、週があけたら、
ジョアンの日本公演がはじまります。
ほぼ日枠でチケットをお買求めくださったみなさまから
「チケットが届きましたよ!」という報告も、
たくさんいただいています。
ぼくらも、同じように、その日がたのしみです。

さてきょうは、音楽家の大貫妙子さんのお話をどうぞ。
大貫さんは、ジョアンの前の奥さんである
ミウシャと、親交があるんだそうです。
彼女を通して知ったジョアン、
コンサートを観てのジョアン、
いろいろなお話を、おききしました。
大貫さんおすすめのアルバム紹介も、ありますよ。



年のコンサートは、
ほんとうにすばらしかったですね。
5000人というひとで満杯の会場なのに、
ほかのひとがいるなんて思えないくらい、
ジョアン・ジルベルトと自分だけっていうくらいに、
全部が彼に包まれていました。
聴いている空気も、
たんにシーンとしているだけじゃなく、
あたたかい静寂でした。
コンサート全体のああいう雰囲気というのは
近年、ほんとうに経験したことがありません。

ジョアンの頭のなかには、
膨大な音楽が入っていて、
すぐにそらで完璧に歌える曲が
100曲はあると聞きました。
それは、人に聴かせるためだけでなくても、
彼が毎日音楽を奏で、
もう何万回も、歌っているということなんですよね。
そのなかで、しょっちゅう、しょっちゅう、
響きを変えているんでしょうね。
ちなみにコンサートのとき、足もとに、
リストが置いてあるんですね。
あれは、曲順のメモや、ましてや歌詞ではなく、
今日はこんな感じだろうな、という、
曲名を挙げたリストなんですって。
そのなかから、一曲終わるごとに、
次はどれにしようかって
見るためのものなんだそうです。

ジョアン・ジルベルトの音楽、
とくにコード。もう超オリジナルのものなんです。
そうだなあ、何と言ったらいいかなあ。
このあたりのことはね、
坂本龍一さんの言葉をお借りしましょう。
日本公演に行ってきたよ、って、
坂本さんに言ったら、メールが返ってきたので。

=(坂本さんのメール)
彼が費やした何十年という孤独な時間を思って、
気が遠くなりそうになりますよ。
コードがものすごく変。
凝りに凝って何十年もいじくりまわしているうちに、
元がなんだか分からなくなっちゃった
彫刻みたいですね(^^)。

最後に「にっこりマーク」がついたメールです(笑)。
彼の言う「コードがものすごく変」っていうのは、
もちろん、いい意味です。
つまり、ジョアン・ジルベルトは、
ギター1本に歌をのせているわけなんだけれど、
ギターのコードのなかに、
ベースから何から入っているんです。
歌のメロディが4つ動くと、
それに全部くっついてくるくらい、
細かくコードが変化する。
わたしね、彼の、コードを奏でる指を追っていたら
目眩がしたくらいですから(笑)。



たしは直接ジョアンを知りませんが、
彼の二番目の奥さんだったミウシャ、
彼女と、ともだちなんです。
ブラジルにレコーディングに行った時も
彼女とずっと一緒でしたし、
日本に彼女が来たときは
一緒にごはんを食べたり‥‥。

ミウシャはリオ・デ・ジャネイロの
レブロン地区というところの
アパートメントの最上階に住んでいました。
部屋は大きくないのだけれど、
部屋よりも大きなベランダがあって、
パリから持ってきたというルッコラを
ベランダの隅に植えていました。
そのベランダで、夕方の5時くらいから
夜中の2時くらいまでずっとお酒をいただいて。
彼女はごはんも食べないでお酒ばっかり飲むもんで‥‥
それに付き合わされちゃったんだけど(笑)、
月が上ってきて、気がついたら
月がどっかにいっちゃってた。
気持ちよい風が吹く夜で、
そこからの眺めはすばらしくて‥‥。
ずっと音楽の話しを飽きもせずにした
素晴らしい一夜でした。

女は若いときに、パリの学校に行っていて、
そこでジョアンと出会っているんですよね。
そんな話を聞きながら、
「イザウラ」っていう曲を録音したときの
カセットテープを、聴かせてもらったり。

何度も何度も、同じ曲の同じ歌が入っているんです。
どれも同じように聞こえるの。
なぜジョアンはこんなに何度も歌うの? と聞いたら、
これはレコーディングの前の練習だって言うわけ。
ジョアンは「いやもう一回!」「もう一回!」
って、ちょっとでも間違う、あるいは、
なにかがちがうと思うと、
「いやもう一回、頭から」って言うらしいのね。
彼女はそれにずっとつきあっていたんですって。
ミウシャ、スコッチをたくさん飲んで酔っぱらっちゃって、
CDになっていないようなジョアンの録音も
いっぱい聴かせてくれました。
門外不出なのだけれどね。
それが、ブラジルの、すごくいい思い出です。



え? わたしが、ボサノバを?!

いいえ、日本人であるわたしは、
“ボサノバに乗っかって”歌うことはできても、
“ボサノバをつくる”ことはできないです。
「大貫妙子ボサノバを歌う」っていうのは‥‥
やってみたいことではありますが、
素晴らしい曲が、いーっぱい! あるし。
でも、ボサノバに限らず、ブラジルのミュージシャンとは
いっしょに音楽をつくりたいです。
とても!

ボサノバって、ちょっとやそっとじゃ、
勉強したからといって
できるようなものじゃないような気が‥‥‥‥
ブラジルに行ってそれを強く感じました。
じつは、自分でつくった楽曲で、
ちょっとボサノバ風、というようなものを
ブラジルの音楽家たちに聴かせたことがあったんです。
そうしたら、このコードは変だね、って、
思いきり直されてしまって(笑)。
コードに正しいとか正しくないというのも
ないんですが。
すくなくとも、ボサノバのつもりなら、
違うってことですよね。
ところがそうするとほんとうに
「ボサノバになってる!」( 笑 )
和音響き、だけではなく、リズム、いわゆるノリ。
というようなものは、
そうかんたんに修得できるようなものではないです。
もう本当にブラジルでちゃんと時間を過ごして
染み付いてきた「何か」がないとできない。
そう思っています。



★大貫さんのおすすめのアルバム
『三月の水』




どれも素晴らしい!
ウンデューウンデューウンデュー(UNDIU=歌う)って
ウンデューって言ってるだけの曲もいいし、
とくにわたしが好きなのはね、これ。
「E'PRECISO PERDOAR」
(エ・ペルシーゾ・ペルドアール=許してあげよう)。
この曲はいろいろな人がカバーしてますが、
カエターノ・ヴェローゾとかも。
でもジョアンが歌ってる
このバージョンはとくに好きです。
ギターの音も、歌も。
このアルバム、好きですねえ。


大貫さん、ありがとうございました!
また次回。

PHOTOGRAPH by P-2 VIBRATION(仁礼博+横山慎一)

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2004-09-30-THU


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