私には、
・毎日の通勤時間が憂鬱なとき
・雨のとき
・やる気が出ないとき
などのテンションが下がっているときに
士気上げをするためのものがいくつかある。
たとえば、X JAPANの「THE LAST LIVE ~最後の夜~」のDVD。
まだHIDEが生きている時代の東京ドームでの最後のLIVE DVD。
「FOREVER LOVE」の曲の中で、
YOSHIKIとTOSHIが抱き合うシーンは、
もうとにかく感動する。
「All I see is blue in my heart」で抱き合い、沸き起こる大歓声。
私のスマホには、LAST LIVEが入っており、
毎日の通勤で聞いている。
そして、観客とともに、頭を振りながら聞くのをこらえ、
「わーーーーーーーーー!!!!!!」と言うのをこらえている。
そのほかには、「ゴジラ」。
私はゴジラシリーズが大好きだ。
小さいころ、平成ゴジラシリーズを見て育った私は、
松井秀喜との出会いも、
松井秀喜が「ゴジラ」と呼ばれていただからといっても
過言ではない。
これも携帯にサントラが入っている。
「ゴジラのテーマ」を聞いて、テンションをあげている。
「来た来た、ゴジラ来た。やばい、え、逃げる!?どうする!?」と
電車の中で、きょろきょろしそうになってしまうのをこらえながら、
毎日通勤している。
そう、私は毎日の通勤で、
下がっていたテンションをあげようと戦っていたはずが、
いつの間にか、上がりすぎてしまうテンションと戦っている。
話をもとに戻そう。
そうやって自分の気持ちを盛り上げるための士気上げの中に、
2009年ワールドシリーズ第6戦を録画したDVDがある。
この試合は、松井秀喜の所属していたニューヨークヤンキースが
ワールドシリーズを制覇した試合であり、
かつ松井秀喜のワールドシリーズMVPが決まった試合でもある。
ちなみに、この試合の録画DVDは再放送を録画している。
2009年11月4日、私は18歳の秋を迎えていた。
希望にもえる大学1年生、硬式野球部所属。
日課である野球速報を見ながら、
松井秀喜の大活躍に胸を躍らせていた。
そして、届く、松井秀喜MVPの知らせ。
尊敬する松井秀喜の活躍がうれしいと同時に、
その活躍を見逃したことが、悔しかった。
このとき、私はこの試合をなんとしても、見たい、
そして手元に残しておきたいと思った。
どうすればいいのか。
すると新聞のテレビ欄にこう書いてあったのだ。
「ニューヨーク・ヤンキース対フィラデルフィア・フィリーズ
ワールドシリーズ第6戦 再放送」
よっしゃー!!!!!!!!!!
これだ!!!!!!!!!!!
と思った。
そこで、野球部の実家暮らしの友人に頼み込んだ。
「頼む。録画してDVDにやいて、俺にくれ!!!!」と。
今考えるとなんとも図々しいお願いだが、
その友人は快く承諾してくれた。
彼とは卒業以来、まったくあっていない。
けれども、彼の優しさは今でも身に染みて、覚えている。
O君、本当にありがとう。
私は、手に入れた。
あのワールドシリーズからもう8年たった今でも、
私の士気を上げ続けるDVDを。
このDVDを私は何度も観ている。
そして、本当に仲の良い人たちに、
ほとんど無理やりに近い形で観せている。
なぜなら、あの興奮をともに味わいたいからだ。
しかし、一緒に観た人たちは一様に同じ反応をする。
「待て待て、この結果知ってるんだよね?」と、笑うのである。
なぜ、そうなるのか。それはここから話していこう。
【一回表、フィリーズの攻撃】
ワールドシリーズ第六戦を見るにあたり、
いくつかの見るポイントがある。
一つ目が、1回表のヤンキースの守備である。
「え、松井がファインプレーでもしたんですか?」
と隣で見ている人は、私に聞いてくる。
いや、違う。松井はこの試合、DHでの出場であり、
守備には一切ついていない。
では、なぜ守備なのか。
見てほしいのは、ミスターヤンキースと言われる
デレク・ジーターの守備である。
なぜ、守備を見なくてはいけないのか。
それはメジャーリーグのすごさを感じてほしいからだ。
1回表、1番バッターの2球目、
やや深めの位置にショートゴロがいく。
野球をやっている人ならわかると思うが、
野球は時間のスポーツである。
だいたい一塁に、打ったバッターが到達するスピードは約4秒。
その時間間隔が、野球をやってきた人、
特に内野を守ってきた人なら、体に染みついている。
だからこそ、ゴロを補給するジーターを見て、
違和感を覚えるのだ。
「あれ、これ、間に合わなくない?内野安打じゃない?」
だが、ここでメジャーリーグのすごさ、そしてワールドシリーズが
いかにレベルが高いかを思い知らされる。
ジーターの送球がすごい。
音をつけるなら、
「ズギューーーーーーーーーーン!!!!!!!!」
か、
「ぅおーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」
である。
これは、私がDVDを見ながら言う効果音でもある。
「え、間に合わなくない、その捕球だと・・・
ぅおーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」
送球のスピードが速い、速すぎる。
外野からのレーザービームはイチローなど有名な選手がいるが、
ショートからレーザービームが飛ぶ。
ノーバウンドで、一塁にすさまじいスピードのボールが投げられるのだ。
唖然とする。実際、私は見た瞬間、笑いが出た。
おもしろいのではない。すごすぎて笑うのだ。
これが、メジャーリーグだ。
これが、ワールドシリーズだ。
これが、ヤンキースというチームのレベルだ。
ここまでが、アイスブレイクである。
大事な商談のとき、人と話すとき、必ずアイスブレイクが大事になる。
なぜなら、気持ちができあがっていないからだ。
私は松井秀喜のすごさを伝えたい。
しかし、ただ松井秀喜のバッティングを見せても、
そのすごさは、「わー、すごく打つねー」と
まったく興味のない感じで終わってしまう。
だから、デレク・ジーターの守備を見てもらい、
まずは、どれだけメジャーリーグがすごいのか、
そして松井秀喜と一緒にプレーしている人たちがすごいのか、
さらに松井秀喜以外のすごい人を見せることで、
松井秀喜のすごさを伝えるのである。
たとえるなら、一回表のジーターの守備は、
X JAPANのLAST LIVEでいうところの、
1曲目の「Rusty Nail」である。
イントロで流れる、
「ティリテンティテンテテテテンテテテン・・・・・♪
デーンデーーーーンデンデンデデデデンデンデデデン」
そこから、TOSHIが叫ぶ。
「いーくぜーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
湧き上がる大歓声。
そのTOSHIの観客を盛り上げる掛け声こそが、ジーターの守備である。
つまり、「いーくぜーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」が
ジーターの送球、
「ぅおーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!」なのだ。
【松井秀喜 第一打席】
では、松井秀喜の第一打席にいこう。
この試合の先発ピッチャーは、ペドロ・マルティネスだ。
全盛期、レッドソックスのエースとして活躍し、
かつては地上最強投手の異名をとったメジャーリーグ最強投手。
そして、何よりも松井秀喜の因縁の相手と書くと大げさになるのだが、
すこぶる相性が悪い相手である。
松井秀喜とペドロマルティネスの対戦成績は、
公式戦では28打数4安打、打率1割4分3厘、1本塁打、1打点。
このように、公式戦での相性は良くないが、
松井秀喜はワールドシリーズの第2戦に、
ペドロマルティネスからホームランを打っており、
球場全体に何か起きるのではないかという期待は広がっていた。
0アウトランナー1塁。
松井秀喜の第一打席。
打席に入るとき、いつものように球審に挨拶をする松井秀喜。
- 那須野
- 「そうそう、こういうところね。こういう姿勢が、松井秀喜の良さなのよ。
松井秀喜はずっと本当に、和の心というか、礼儀を大切にしていて、
いまだにちゃんと球審に挨拶するし、バットも丁寧に扱うんだよね。
高校球児だと、礼儀とか、口酸っぱく監督に言われるから
みんなちゃんとするんだけど、プロになるとしなくなってしまうんだよね。
だけど、メジャーリーグに行っても松井は礼儀を大切にしていて、
本当に日本の代表として、誇りをもって、打席に立ってるんだよね。
ね、すごくない?これぞ、日本人じゃない?」
- 一緒に観ている人
- 「(あ、やばい。この人もうスイッチ入っている。)うん。」
第1球。
インコース低めのストレート(ややツーシーム気味)を見逃し、ストライク。
- 那須野
- 「よしよしよしよし。大丈夫大丈夫。よく見えている。
これはね。あえて見逃しているのよ。
この打席。決して焦る場面じゃないからね。
野球は3回ストライク取られないと、アウトにならないからね。
この、一球目のストライクを、堂々と見逃す感じ。
これがさ、やっぱ怖さになるよね。逆にね。」
第2球。
真ん中に来たストレートを引っ張り、
ライトスタンドに行くが、惜しくもファールに。
- 那須野
- 「(打った瞬間)いったー!!!!!!!!!!!
え、え、え、あー、ファールかー。」
- 那須野
- 「いやいや、もうさ、フェアゾーン広げようよ。
てか、もうホームランでよくない?もうホームランでいいって。
でも、大丈夫。なんかね、こう打つ雰囲気がすごいする。
いや、これ、絶対打つよ。今の打球で確信した。これ打つね。」
- 一緒に観ている人
- 「(野球やってた人が、フェアゾーン広げろって。。。
見た感じ結構ファールだし。でも、そんなこと言ったら怒りそうだし。
まあ、当たり障りのない感じで言っておくか)
打ちそうだね!」
第3球。インコース高め。ボール。2ストライク1ボール。
- 那須野
- 「はいはい、いーよいーよ。そうそう。これ焦ってるよ。
ペドロマルティネス、焦ってますよ。もう気持ちで勝ってる。
いけるよ。これいけるよ!」
第4球。外のストレート。ボール。
- 那須野
- 「そうそう、よしよし。いやー、ボールが良く見えているね。
松井、かなり調子いいからね。ペドロもビビっちゃってるよ。
もう投げるコースないでしょ。これ。どこ投げても打たれる気がしちゃってるでしょ。
きてるよ、これきてる。いけるね!」
- 一緒に見ている人
- 「(さっきから思ってるけど、この結果知ってるんだよね。
ねえ、知ってるんだよね?)
あのー、この打席の結果って知ってますよね?見たことあるんですよね?」
- 那須野
- 「うん、ホームランだよ。」
第5球。インコースのストレートを引っ張り一塁線へ。ぎりぎりファールになる。
- 那須野
- 「いったー!!!!えー、もうフェアでいいでしょ。いや、もうフェアだよ。これ。
でも、まー、ヒットだもんなー。あれフェアでもヒットだもんなー。
逆に審判、空気読んだ的な?ホームラン打つから的な?
でも、これで凡退とか、見逃し三振は怖いなー。くー、悩むね。
この打席やばいね。」
- 一緒に観ている人
- 「(もうはよ打て。はよ、ホームラン打ってくれ)
がんばれ、松井!」
第6球。
インコースのストレート、際どい!ボール。
- 那須野
- 「おーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
やばいね。普段だったら、絶対振ってる。
調子悪いときは、振って、空振りで三振。
調子が普通のときは、振ってファール。
だけど、今日は見たね。見極めたね。
これあるね。ボール見えすぎてるね。
止まっているね。もう松井にボールは止まって見えてるね。
これいくわ。確実にいくわ。もうホームランしかない。」
- 一緒に見ている人
- 「(いや、だから、さっきホームラン打つって言ってたじゃん)
うん、打ちそうだね!」
第7球。
真ん中低めのボールをすくいあげて、ライトスタンドにファール。
ここにきて、急に口数が減る那須野。
次こそは、打つぞと、集中をはじめたからだ。
もうファールで一喜一憂しない。
ホームランを打つその瞬間に向けて、
パワーをためているのだ。
第8球。
真ん中に来たボールを、振りぬき、ライトスタンドへ!
打った瞬間にわかる。これはホームランだと。
そして、ヤンキースタジアムの観客たちと一緒に私は立ち上がり、叫ぶのだ。
- 那須野
- 「いったー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
やばい、ホームラン打った!よっしゃー!うおーーーーーーーー!!!!!
しかも、KOMATSUの広告も映ってんじゃん。やばい。
あ、KOMATSUはね、松井秀喜のお兄ちゃんが働いているんだよ!
知ってる?知ってた?いや、すごい!
まさかワールドシリーズで先制のツーランホームランを、
KOMATSUの広告に向けて打つってすごくない?
よっしゃー!すげー!マジですごい。やばい。もうかっこよすぎる。
よっしゃー!!!!!!!!!!」
ここで一緒に見ている人は、そのテンションの上がりきった姿を見て笑うのである。
いや、ここで笑う人でないと、私は見せていない。
ここで、
「あ、こいつ、自分の頭のこと『いったー!』って言った!?
ねえ、言った?」と
真顔で伝えてくるような奴とは仲良くなれない。
この打席は、私とあなたが親友になれるかどうか、その境目でもある。
【松井秀喜、第二打席】
第二打席の松井秀喜も神がかっている。
もう、松井秀喜を超えている。
「シン・マツイ」である。
1球ごとの解説は控えよう。
ペドロマルティネスの高めの速球を
センター前にはじき返し、2点タイムリーヒットを放つのだ。
1打席目のホームランだけでも、もうあまりにも感動している状況の中、
2打席目にもチームの勝利に貢献する安打を打つ。
私は神を見ているのかと思った。
「神(シン)・マツイ」である。
だか、これは現実の松井秀喜である。
「真(シン)・マツイ」なのだ。
振ったら、すべて安打になる。
「振(シン)・マツイ」であり、
「芯(シン)・マツイ」でもあるのだ。
もはや、あまりにもすごいものを見てしまい、声は発せられない。
【松井秀喜 第三打席】
この打席では、見る以外のことも少し意識してほしい。
「聴く」である。耳をすませてほしい。
スタンドから、歓声が聴こえる。
そう松井秀喜が打席に立つだけで、スタンドが湧いているのだ。
この打席、松井秀喜はフェンス直撃の2点タイムリーツーベースを放つ。
これで、ワールドシリーズ一試合の最高記録に並ぶ6打点。
打った後の歓声を聴いてほしい。
そう、この打席からのテーマは「聴く」だ。
「MVP」コールが沸き起こるのだ。
音だ、音を聴くのだ!
【松井秀喜 第四打席】
ここは、もう完全に耳で聞いてほしい。
松井秀喜は見なくてもいい。
松井秀喜が打席に立った瞬間から沸き起こる、「MVP」コール。
超満員のヤンキースタジアムの観客が
スタンディングオベーションで大歓声を送る。
選手に対して、
拍手や応援をする姿は見ることがあるが、
たった一人の松井秀喜という男に
球場にいる観客が全員一緒になって声を送る姿は見たことがない。
松井秀喜の野球人生が表れたと、私は思う。
ニューヨークに愛され、ヤンキースファンに愛された松井秀喜。
ここで三振したことなんて、もう関係ないのだ。
結果ではない。もう打席なんてみなくていい。
耳で、松井秀喜の野球人生を感じてほしいのだ。
【試合終了後のインタビュー】
試合終了後からMVPのインタビューで、
私は松井秀喜の野球人生を走馬灯のように振り返る。
日本時代、巨人の4番に挑戦し、
失敗して3番に戻るという苦労を味わった松井秀喜を。
巨人打線がシーズン中に調子が悪かったときに、
「ちょっと打順も変えていきますよ」と長嶋さんが
記者会見で言って、帰っていくときに、
「あ。4番は変えませんよ」とわざわざ言ってから
移動したことを。
メジャーリーグに挑戦する決意をした松井秀喜が
「命をかけて挑戦します」といった記者会見を。
ヤンキースタジアムのデビュー戦に打った満塁ホームランを。
メディアから「ゴロキング」と叩かれていたとき、
ジョートーリ監督から「ちょっと近くに立ってみたらどうだ」
と言われ、素直に実行し、ホームランを打ったことを。
ポストシーズンで、逆転のホームを踏んだときに、
一切感情をあらわにしない松井秀喜が飛び跳ねたことを。
浅いフライを取りにいき、左手頸を骨折したことを。
骨折からの復帰戦、4打数4安打と活躍したときの
ジーターの笑顔を。
そして、監督が代わり、松井秀喜の出場も減り、
膝の調子も思うようにいかず、くすぶっていた時代を。
そのすべてを思い出しながら、
私は、こらえるのだ。涙を。
そして、松井秀喜はインタビューで言う。
「ニューヨークが好きだし、ヤンキースが好きだし、
チームメイトが好きだし、ここのファンが大好きだし、
それだけです。」
私は涙をこらえる。
いや、実際ちょっと泣いているかもしれない。
「好きだから、それだけです」という松井秀喜。
どれだけ苦労したのだろうか。
私だったら、絶対にこのインタビューでは、
自分のことを話す。
「本当にここまで苦しいシーズンでしたけど、
打ててよかったです!(ニコッ!)」
くらいやってしまいそうである。
だが、松井秀喜は一切そんなことは言わない。
自分の気持ちも、ファンへの感謝の気持ちになるのだ。
私がどれだけ、松井秀喜が好きなのか伝わっただろうか。
そして、どれだけ、松井秀喜が魅力的な選手なのか
お気づきいただけただろうか。
最後に、
ここまで読んでくれた皆さんの気持ちを代弁して終わろう。
「知らんがな。(笑)」
(おわります)