もくじ
第1回「はがす」 2019-02-26-Tue
第2回「おしだす」 2019-02-26-Tue
第3回「ぬく」 2019-02-26-Tue
第4回「とりのぞく」 2019-02-26-Tue

編集者1年生。駆け出しだからこそ、ぶつかっても、転んでも、駆け抜けたい。

私のすきなもの</br>爽快感

私のすきなもの
爽快感

担当・柴田真帆

第2回 「おしだす」

時は流れ、私は高校生になる。
そこで手にした爽快感は、
「おしだす(押し出す)」ことによるもの。

その押し出す対象は青春のシンボル、ニキビである。
炎症が悪化する、跡になる、とのいくつかの理由から、
ニキビは潰さない方が良い。そんなことは百も承知。

医学的な話ではなく通説にもなってしまうのだが、
よく耳にする3つのニキビの種類をご紹介したい。
まるで早口言葉のようだが、
白ニキビ、赤ニキビ、黄ニキビである。
(黒ニキビも存在するが、
私に該当したのは黒以外のためここでは割愛)
白から赤へ、そして黄へ。炎症の段階で色が変わる。
私が最も爽快感を感じるのは、黄ニキビだった。

ある朝、目が覚めると、
おでこや頬、鼻の下に白くプツっと突起ができている。
それは少しずつ赤みを増し、大きくなる。
その変化の過程で決して引っ掻いてはならない。

徐々に先端の赤みが黄色みを帯びて、
そっと触れると独特の弾力性を持ってくると、そろそろだ。

小指の爪の先で、ちょんと引っ掻くと、
たやすく先端が破ける。
(以下、破けた先端を“ニキビ穴”とする)
両手の人差し指で、ニキビ穴を両側からぎゅっと押すと、
わずかな抵抗ののち、にゅるんっと
黄色く粘着質のある物体(つまりは膿)が押し出される。

そこで終わり……ではないのが、最大のポイント。
もう一息、力を込めると
細く白い物体(以下:芯)が頭を覗かせる。
そして、もう一息……。
そしてニキビ穴を360度から、
ぎゅ、ぎゅ、とまんべんなく押すと、
芯は、まるで「くくっ」と効果音が聞こえるかのように、
ニキビ穴から全貌を現すのだ。

芯はおそらくほんの2mm程度の
すぐに見失ってしまうほど小さな収穫物。
だが芯を押し出すまでの
この一連の工程で得られる爽快感は、
収穫物の大きさには関係なく、私を満たすものだった。

親や友人にも、ニキビは潰さない方が良い、
と言われても、やめられなかった。
「膿を全部出しきって、その先の芯を取り出せば、
そのニキビは再発することはない」と、
自身に言い聞かせ、思い込んで、言い訳にしていた。
「押し出す」爽快感を得るために
正当化しようとしていたのだろう。

「ニキビ1つで世界は変わる」。
そんな言葉をどこかで聞いたことがある。
誰のどこにニキビがあっても、おそらく本人以上に
気にする人はあまりいない。
自身がニキビを気にするあまり、
ニキビのある自分、とない自分では
見える世界が変わってしまう、という意味なのだろう。

私にとっても、世界はニキビ1つで変わっていた。
観察:ベストな潰しどきはいつなのか。
予測:潰すときの穴は最小限にできるのか。
想定:どの程度の膿が出てくるのか。
懸念:芯まで無事にたどり着けるか。

大袈裟なようだけれど、
ニキビ1つから実にドラマチックな世界が
広がっていたのだから。

第3回 「ぬく」