時は流れ、私は高校生になる。
そこで手にした爽快感は、
「おしだす(押し出す)」ことによるもの。
その押し出す対象は青春のシンボル、ニキビである。
炎症が悪化する、跡になる、とのいくつかの理由から、
ニキビは潰さない方が良い。そんなことは百も承知。
医学的な話ではなく通説にもなってしまうのだが、
よく耳にする3つのニキビの種類をご紹介したい。
まるで早口言葉のようだが、
白ニキビ、赤ニキビ、黄ニキビである。
(黒ニキビも存在するが、
私に該当したのは黒以外のためここでは割愛)
白から赤へ、そして黄へ。炎症の段階で色が変わる。
私が最も爽快感を感じるのは、黄ニキビだった。
ある朝、目が覚めると、
おでこや頬、鼻の下に白くプツっと突起ができている。
それは少しずつ赤みを増し、大きくなる。
その変化の過程で決して引っ掻いてはならない。
徐々に先端の赤みが黄色みを帯びて、
そっと触れると独特の弾力性を持ってくると、そろそろだ。
小指の爪の先で、ちょんと引っ掻くと、
たやすく先端が破ける。
(以下、破けた先端を“ニキビ穴”とする)
両手の人差し指で、ニキビ穴を両側からぎゅっと押すと、
わずかな抵抗ののち、にゅるんっと
黄色く粘着質のある物体(つまりは膿)が押し出される。
そこで終わり……ではないのが、最大のポイント。
もう一息、力を込めると
細く白い物体(以下:芯)が頭を覗かせる。
そして、もう一息……。
そしてニキビ穴を360度から、
ぎゅ、ぎゅ、とまんべんなく押すと、
芯は、まるで「くくっ」と効果音が聞こえるかのように、
ニキビ穴から全貌を現すのだ。
芯はおそらくほんの2mm程度の
すぐに見失ってしまうほど小さな収穫物。
だが芯を押し出すまでの
この一連の工程で得られる爽快感は、
収穫物の大きさには関係なく、私を満たすものだった。
親や友人にも、ニキビは潰さない方が良い、
と言われても、やめられなかった。
「膿を全部出しきって、その先の芯を取り出せば、
そのニキビは再発することはない」と、
自身に言い聞かせ、思い込んで、言い訳にしていた。
「押し出す」爽快感を得るために
正当化しようとしていたのだろう。
「ニキビ1つで世界は変わる」。
そんな言葉をどこかで聞いたことがある。
誰のどこにニキビがあっても、おそらく本人以上に
気にする人はあまりいない。
自身がニキビを気にするあまり、
ニキビのある自分、とない自分では
見える世界が変わってしまう、という意味なのだろう。
私にとっても、世界はニキビ1つで変わっていた。
観察:ベストな潰しどきはいつなのか。
予測:潰すときの穴は最小限にできるのか。
想定:どの程度の膿が出てくるのか。
懸念:芯まで無事にたどり着けるか。
大袈裟なようだけれど、
ニキビ1つから実にドラマチックな世界が
広がっていたのだから。