会社はこれからどうなるのか?
「むつかしかったはず」の岩井克人さんの新刊。
『会社はこれからどうなるのか』(岩井克人/平凡社)
これは、いま読むべき、とても重要な本だと思います。
経済学のプロ中のプロが持っている重要な知識を、
1冊で「素人の知識」として受け取ることができるから。

「会社」を経営する人も、「会社」で働いている人も、
「会社」からモノやサービスを買う人も、
「会社」って何で、「会社」をどうしたいのか、
どうつきあっていくか、考えてもいい時期だと思うのです。

あまりにもおもしろい本だったので、
岩井克人さんに、興奮気味に、いろいろ訊いてきましたよ!
インタビュアーは、「ほぼ日」スタッフの木村俊介です。

第1回 悩みは無知から生まれる


『会社はこれからどうなるのか』
(岩井克人/平凡社)

「行政職は向いてないんです」
東京大学経済学部長の
岩井克人さんですよ!
ほぼ日 『会社はこれからどうなるのか』は、
岩井さんの本としては異例の、
インタビューを下地にして
書き下ろされた単行本です。

「わたしはインタビューという形式の
 自由さに誘われて、
 最初から文字を書き連ねていたならば
 けっして取り上げなかったであろう話題に、
 何度も脱線しています。
 全体の議論の運び方も、
 ゆっくりとしているはずです」

「出自がインタビューであったということが、
 かえって
 この本を読みやすいものにしたのではないか、
 とひそかにわたしは思っているのです」

「インタビューされることによって、
 それまで考えてきたいくつかのテーマの間に
 思いがけないつながりがあることに気づかされ、
 次の仕事のおおきな足がかりになった……」

岩井さんご本人も、
あとがきで、そう語られているように、
今回の本は、従来の学問的な本とは
ずいぶん違う目的で書かれたと思います。

『会社はこれからどうなるのか』は、
どんな読者に手に取ってもらいたい単行本ですか?
岩井 わたしにとって、「この本の読者」は、
具体的には、実際に会社で働いている
ビジネス・サラリーマン、
サラリーウーマン、それから、これから
会社へ入ろうかどうか検討している学生です。

今までのわたしの本って、だいたい、
書店では、経済学や
人文科学の棚で売られていましたが
今回は、ビジネス書としても読まれるように、
実際に働いている人を意識して書きました。

世界経済も動いてますし、
特に日本経済は
「失われた10年」ということで、
サラリーマン、サラリーウーマン、
それから、これから就職する学生も、
会社で働くということについて、
いろいろな「不安」を抱えていると思うんです。

「不安」って、どういうものかというと。

まず、
「日本的経営はもうダメになったといわれ、
 一方でグローバル化しているから、
 もっと国際的にならなくちゃならない」
という不安が、ありますね。

それと、アメリカもつい最近までは
株式市場の値上がりが続き、景気も良かったから、
よく世間でいわれていたように
「アメリカが大繁栄していて、
 今はすべての国際標準がアメリカに倣う」
ということへの不安も、ありますね。

そして、一方でIT革命が起こって、
「技術が全ての世界を制覇する、支配する」
という大きな不安も、出てきます。

それから、
「金融市場がどんどんど新しくなって、
 いろんな金融商品ができて、
 デリィバティブだとか、一般の人から見ると、
 わけのわからないものが登場してくる」
ということへの不安もあります。

そういういろんな情報が錯綜しているので……。

「その中で、いったいどういうかたちで
 自分がいまの会社の中で
 仕事をしていくのか?」

「会社を選ぼうとしている自分は、
 どういうかたちでどんな会社に
 入っていけばいいのだろうか?」

会社に関わっている人、
もしくはこれから関わろうという人たちは
そんな風に、悩んでいると思うんですね。

そういう人たちに対して、わたしの試みは、
「錯綜した情報を、
 ある程度は現状の理解ができるように
 まとまった枠組みを提供してあげたい」

ということですね。

もちろん、わたしの本が
みなさんの持っている悩みに
解決を与えるわけじゃないんです。
「解決」っていうのは、それぞれ
本人が見つけるしかしょうがないわけで。

だけど、すくなくとも、
不安の源になっていることに関して、
解決を探る糸口が見つけられるような、
そういうヒントを、
この本では提供しようと思っています。

独断と偏見はなるべく省いて、
「会社という仕組みには基本原理があるんです」
というところから、解きほぐそうと考えました。
つまり、学問的に、理路整然と、
理解を積みあげていくという試みです。

インタビューをもとにしたので、
話がわき道に逸れることもあったのですが、
その「議論のゆっくりした動き」や
「くりかえしがあるところ」があるゆえに、
逆に、わたしがふだん書く本よりも、
わかりやすくなったのではないかと思うんです。
ほぼ日 インタビュアーは、
平凡社の編集者の西田裕一さんですが、
今回、どんな取材をされたのですか?
西田 ロングインタビューをしまして、
それをまとめてみましたら、
400字詰原稿用紙でいうと
1000枚近い原稿が、まず、できました。
岩井 14時間の長いインタビューです。
西田さんから、
A4で4〜5枚の質問集をいただいて、
それをもとにインタビューをすすめました。
夏に、汗だくになってやったんです。

ちょうど夏休み中の土日だったので、
学校の冷房が止まっちゃっていまして……。
ほんとにもうしわけないぐらい暑い中で、
西田さんと、それから
テープ起こしをしてくださった
脇坂さんという方と一緒に、
話をしていったんですけど。
西田 その1000枚近い原稿を、
なんとか短い本にしようと思って、
無理矢理まとめたんです。
それを見ていただいたところ、
「これじゃいかん」と岩井さんが思われて。
岩井 (笑)
西田 それで、手を入れていただいたんです。
ほとんど原形をとどめていないですし、
ほぼ書きおろし状態になるまで、
岩井さんの直しが入っていますから、
わたしたち取材者のしたことは、
本の「あらすじ」を作ったようなものです。
岩井 いや、そう言うけども、
たぶん西田くんの章だてが
あってこその本だと思うけど。

ぼくは、西田くんのインタビューを受けて
考えをまとめていくことで、
自分がこれまで専門でやってきた資本主義論と
この10年来の研究テーマである法人論とが、
自分の中で結びついてきたというのが、
すごく大きかったんですよ。
西田 わたし自身が会社員でして、
非常に不安定な会社につとめていますので(笑)
「これから
 会社というところでどう働けばいいのか、
 岩井さんからいろんなヒントをいただきたい」
というのが、この本の企画のモチーフでした。
だから、素朴な疑問も含め、
会社に関する質問をいっぱいしたんです。

はじめから、岩井先生には
「答えなどはありません」
と言われていましたし、
普通は「自分で考えなさい」と
言われるべき問題なんですけども、
ともかく何かヒントをいただきたいっていう
気持ちが強かった……。

そういうことだけは、
読者を代表している振りをして、
ずいぶんしつこくうかがった
という気がします。
ぼくがやったのは、それだけです。

あとはもう、本の構造にしても、
岩井さん独自の論の運びかたで、
推理小説のようにも
読めるようにしていただいて。
すごくおもしろいものになりました。

だからそういう意味では、
やはり答えをいただいたなぁ、
という感じがしています。
本ができあがった時は嬉しくて、
いちばん最初に会社の社長に持っていきました。
「これ読んで下さい。ウチの会社のことです」
って(笑)。
  (※あしたか、あさってに、つづきを掲載します!
  次回は、岩井さんのイェール大学助教授時代の話。
  かなりスリリングな冒険を経験されているんですよ)



これまでのインタビュー
  第1回  悩みは無知から生まれる
  第2回  成功を約束されていたけれど
  第3回  違和感が発見をきりひらく
  第4回  会社は株主のものではない
  第5回  「信任」こそ社会の中心
  第6回 差異だけが利潤を生む

2003-04-16-WED


戻る