糸井 |
これをつくっているときのことって
思い出せます? |
ボーズ |
ええ。ものすごくたのしかったけど、
やっぱり、きつかったですね。
それは、まぁ、どのアルバムでも
そうかもしれないですけど。 |
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糸井 |
たのしいけど、きつい。 |
ボーズ |
そうですね。
やっぱり、おもしろいことを考えるって、
すごい、しんどいことじゃないですか。
だから、つくってると、たのしいんだけど、
ボロボロになっていくんですよね。
体力的にも、精神的にも。 |
糸井 |
なるほど。 |
ボーズ |
それは、できたときにしか救われない。
完成しないつらさはね、もうほんとに。
どうしたらこれがうまくいくんだろう?
って、毎日、毎日、考えてやるんで。
でも、なんでやってるんだって言ったら、
自分たちがやりたいからやってるし。
これをつくったときは、そんな感じでしたね。 |
糸井 |
いまとは、違いますか。 |
ボーズ |
やっぱり、違いますね。
もしもいま、こんなふうにやるとしたら、
なんていうか、こういう気持ちになるまでに、
だいぶ、がんばんないといけない気がする。 |
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糸井 |
なにが変わったんでしょう。 |
ボーズ |
単純にその、こういうシチュエーションを
つくるのが難しくなってきてるというか。
まぁ、家庭があったりもするし。
わかりやすいところでいうと、
これをつくってるときって、
いつまでやっててもよかったんですよ。 |
糸井 |
ああーー。 |
ボーズ |
たとえば、夜9時ごろはじめて、
つぎの日の朝10時までずっとつくったり、
遊んだり、ゲームやったり。
それはもう、さすがにいまはできない。
もう、物理的に無理(笑)。 |
糸井 |
そうだねぇ(笑)。 |
ボーズ |
かけてる時間とか、
精神的なきつさみたいなものは
いまも変わらないんですけどね。
つくってる環境もそんなに変わってないし。
つくる場所も同じだし。 |
糸井 |
どういうところでつくってるんですか? |
ボーズ |
目黒に、以前、アニとシンコが住んでた
マンションがあるんですよ。
昔もいまもそこをスタジオみたいに
使ってるんですけど、
当時は、まだふたりが住んでたから、
ぼくが夜行って、ピンポンって鳴らして
‥‥‥‥あ、違うわ。
これを作ってたときは、まだ実家ですね。 |
糸井 |
実家? |
ボーズ |
そう。アニんちの実家に、
ぼくが夜中に行くんですよ。
で、居間で、家族が寝ているところで、
こそこそ、こそこそ‥‥。 |
糸井 |
ほんとに(笑)? |
ボーズ |
いや、ほんとに。
『ブギーバック』くらいまでは、
アニんちの実家でつくってました。 |
── |
へええーーー。 |
糸井 |
じゃあ、このアルバム全体、
夜中にこそこそと? |
ボーズ |
そうです、はい。 |
糸井 |
「ケンちゃんポーズできめ!」とか
夜中にこそこそつくってるわけ? |
ボーズ |
ははははは、そうです。
あの、これ、当時のノートなんですけど。 |
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糸井 |
うわ、そうなんですか。
へーーー、これをつくったときの? |
ボーズ |
そうです、当時の。
このノートを、こう広げて、
3人の真ん中に置いて、
こそこそ話して、書いて、見せて。 |
糸井 |
はーーー。 |
ボーズ |
あ、たとえば、このページは
『彼方からの手紙』ですね。 |
糸井 |
ああ、ほんとだ。
小さい字だね。びっしり。
こそこそ書いてたんだねぇ。 |
|
ボーズ |
こそこそ、こそこそ。
声の小ささと字が比例してると思う。 |
糸井 |
そうか(笑)。 |
ボーズ |
となりで家族が寝てて、
ちょっとうるさいとか言われてたり。 |
糸井 |
はーーー。
ちょっと、見て、いい? |
ボーズ |
はい。 |
糸井 |
「そちらの様子はどうですか
天気もよくみんな元気です」
あ、ちょっと変わってるんだね。 |
ボーズ |
あー、そのへん、途中のやつですね。
歌詞になってない部分とかは、
ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。
たぶん、できあがったのが、
こっちに清書してある。 |
糸井 |
ああ、ほんとだ。はぁーーー。
いやぁ、これは、うれしくなっちゃうね。 |
ボーズ |
はははは。 |
糸井 |
だって、ほら、ぼくは、リスナーだからね、
とくにこのアルバムに関しては、
すごく、ファンだから。 |
|
ボーズ |
(笑) |
糸井 |
ふーーーーん。
(ノートを慎重にめくりながら)
‥‥なんでこんなことはじめたんだろうね。 |
ボーズ |
はははははは、そうですねぇー。 |
糸井 |
他にもいろいろさぁ、あるじゃない。
この道じゃない道って
ものすごい多いじゃないですか。 |
ボーズ |
そりゃそうですね(笑)。 |
糸井 |
いや、それは誰に聞いてもきっと
そうなんでしょうけどね。
よりによって、この道、3人もろとも。 |
ボーズ |
そうなんですよねー。 |
糸井 |
すごいことですよね、思えば。 |
ボーズ |
そうですね。
このアルバムをつくってたときは、
ラップでアルバムをつくれるなんていうことが
世の中の状況として
あまり考えられなかったころなので、
「もしもラップのアルバムが
つくれたらうれしいね」
っていう気持ちしかなかったですね。 |
糸井 |
ああ、ああ、なるほどね。 |
ボーズ |
アルバムができて、ライブとかできたら、
もうそれ以上、望むことはないっていうか。
そういう意味では、けっこう、気合というか、
これで最後と思いながら、やってましたね。
3人とも。 |
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糸井 |
なるほどね。
あの、質問だけれど、
どうして、ラップだったんだろう? |
ボーズ |
いや、なんか、
たまたまラップをやっただけみたいな気も
ありますけどね。 |
糸井 |
ああー。 |
ボーズ |
なんか、表現したかったことがあって、
ちょうど、ラップが好きで、
目の前にそれがあっただけで、
時代が少しでもちがえば
ぜんぜん違うことをしてたんじゃないかなぁ。 |
糸井 |
本田宗一郎だったらエンジン作ってたみたいな。 |
ボーズ |
ははははは、いや、さすがにエンジンは
作れなかったかもしれないですけど、
コントとかやってたかもしれないし、
マンガを描きたかったような気もするし。 |
糸井 |
なるほどね。 |
ボーズ |
なんか、だから、よく、
「スチャダラパーさんはラップの先駆者で」
とか言われたりするんですけど、
いまだに違和感がすごいあって。 |
糸井 |
ああー。 |
ボーズ |
べつに、ぼくらは、ほんとに、
真ん中にいた気はまったくないので。 |
糸井 |
なんだろう、スチャダラパーって、
たしかになにかをはじめたし、
リスペクトされて当然なんだけど、
なぜか、つくってきたはずの
ラップの世界から外れているというか、
すごくインディペンデントな
感じがするんですよ。 |
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ボーズ |
ああ、はい。はい。 |
糸井 |
それは、当人たちがそういう姿勢だから、
ラップの様式に埋もれないのかもしれない。 |
ボーズ |
そうですね。
いまだに、なにかしら、
王道にあるものとは、ちょっずれたところで、
なにかをやりたい気分があるので。 |
糸井 |
うん。わかる。
いや、今日は、いろいろよくわかった。
どうもありがとうございます。 |
ボーズ |
はい、ありがとうございました。 |
糸井 |
おもしろかったーー。 |
ボーズ |
おもしろかったです。
あの、昔、このアルバムをつくったときは、
今日話したようなことなんて、
ぜんぜん訊いてくんなかったですよ、誰も。 |
糸井 |
ははははは。
当時はどんな扱いだったの? |
ボーズ |
なんか、かわいい3人組、みたいな。
よくわからないアルバムを出したぞ、みたいな。 |
糸井 |
(笑) |
(ボーズさんと糸井の対談は今回で終わりです。
読んでいただき、どうもありがとうございました)
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