主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポートその6
男の脳・女の脳(2)
「音楽家のほがらかな脳。


ほぼにちは、カソウケンの研究員Aです。

ほぼ日読者のみなさまは
『新宿二丁目のほがらかな人々』
の単行本、手に入れましたか~?

もちろん、研究員Aも買いましたとも!
抜かりなく「英雄カレンダー」も
手に入れたのであります。
ふっふっふ。

この英雄カレンダー。
偉大なるゲイ(と、言われている)
の方たちの誕生日が
盛り込まれているのです。
眺めていると
「え?」「う?」
と言葉にならない言葉を連発してしまうくらいの
意外な方々のオンパレード。

音楽家だけでも、
チャイコフスキー。バーンスタイン。ホロヴィッツ。
サン・サーンス。ガーシュウィン。ベートーベン。
シューベルト。カラヤン。
。。。ってびっくりですよね。

「新宿二丁目のほがらかな人々」内の
「三人、英雄を語るその9」lでは
ピアニスト、ホロヴィッツのステキなエピソードが
紹介されています。

「ベートーベンはバックハウスよね~」
と思っている研究員Aですが、
ホロヴィッツの弾くベートーベンのピアノソナタ「悲愴」
は、だーいすきです。
いかにも! って感じのベートーベンらしさはないけど
何かがしっくりきている、と思うのは
二人とも「ほがらかさん」だったからでしょうか?

どうやら、音楽家に「ほがらかさん」が多いのは
ちゃんと理由がありそうなのです!

というわけで、今回のレポートは
「男の脳・女の脳」の続編として
「音楽家の脳は中性的?」
というテーマをとりあげたいと思います。
「音楽する脳」を探ってみましょう~。

まずご紹介するのは
M.ハスラー(1990年)の作曲家を
対象にした研究です。

男性の作曲家の脳の働き方→女性の脳の働き方に近い
女性の作曲家の脳の働き方→男性の脳の働き方に近い

ということ。

要するに、
「音楽家の脳はどちらかというと中性的」
であるというわけなのです。

しかも、音楽の才能が高くなるほど
中性化の度合いも高くなるというのが
さらにオドロキ。

でも!
男性の作曲家と女性の作曲家では
同じ音楽を処理する場合でも
脳の違う部分を使っているとのこと。

ふむふむ、ってことは音楽の才能を示す人に
「ほがらかさん」が多いのは当然なのかもしれませんね。

ちょっと、話題は変わりますが。。。
「音楽などの芸術面が得意な人は右脳型」
って、よく聞きますよね?
音楽に関係するのは右脳であると
一般的には思われているようです。
実際、研究員Aもそう思っていました。

しかし!
音楽というものは片側の右脳だけで営まれているような
単純なものではないことがわかってきています。

その一例をご紹介しましょう。
音楽に関する課題に対して、脳のどの部分が活動するか
PETスキャンという測定法で調べた研究によると

・ピッチ・リズム・曲名想起の課題→左脳
・音色の課題→右脳


がそれぞれ活動する、という結果が得られています。
(カーン大学 H.プラーテルら
 Brain 120: 229-243,1998)

ふむふむ。音楽活動は右脳! っていうのは
一昔前の神話ってことになりそうですね。
音楽を聴きながら右脳を鍛えていたつもりの
研究員Aっていったい。。。

さらに、面白いのが
「音楽家or音楽の素養のある人は
 そうでない人に比べて左脳が活動する」
という研究結果がいくつも得られていることです。
そのうちの2つをご紹介しましょう。

メロディーを識別する課題を与えて
脳のどの部分が活発になるか
PETスキャンで測定したところ、

・音楽的素養のあるもの→左右差なし
・音楽的素養のないもの→右の活動が活発


という結果が得られました。
音楽の素養の有無で
メロディーの識別のメカニズムが違うということです。
(カリフォルニア大学ロサンゼルス校
 J.C.マッツィオッタ Neurology 32: 921-937,1982)

つぎにご紹介するのはもっと最近の日本の研究です。
カソウケン本部「音楽の才能は先天的?」
すでにとりあげた研究ですが。。。
バッハのイタリア協奏曲を被験者に聞いてもらい
そのときの脳の様子を核磁気共鳴MRIで測定しました。
すると、音楽を聞いているとき

・プロの音楽家→左脳が活発
・普通の音楽家ではない人たち→右脳が活発

いう結果が得られました。
(東京芸大・国立精神・神経センター 大西隆ら
Cerebral Cortex 11; 754-760,2001)

この話をうちの所長
(注:独学のギター程度で
 音楽の素養なんてないようなもの)にしたところ
「うん、確かに僕はいつも音楽を聴くときは左の脳だね」
どっちの脳で聞いているかなんて
わかるわけないじゃないのっ。
アホすぎ~。

「脳と音楽」の著者である岩田誠氏は

ヒトの大脳は素晴らしいオーケストラのごとく、
すべての領域が協力し、支えあって
音楽という精神活動を営んでいる

と記しています。
なるほどー。「音楽する」ってことは
脳の全体をはたらかせていること、
と考えても良さそうですね。

とすると、最初に紹介した「音楽家の脳は中性的」
ってハナシもなるほどなーと思えます。
左脳も右脳も活躍させている脳であるからこそ
優れた音楽家になりうるんでしょうね。

というわけで、研究員Aもこれから
音楽を聴いたり、歌ったり、楽器を弾くときは
「ふふっ。わたしってば右脳も左脳も鍛えているわ」
と悦に入ることにしましょう。



参考文献
脳と音楽 岩田誠 メディカルレビュー社
カラフルライフ-遅咲きのすすめ- 吉成真由美 文化出版局

 

2003-05-16-FRI


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