研究レポート25
餅の科学。
松の内は過ぎてしまいましたが、
あけましておめでとうございます。
カソウケンの研究員Aです。
みなさま年末年始はどのようにお過ごしになりましたか?
カソウケンのメンバーは特にどこにも出かけず、
だーらだらだーらだらお餅ばっかり食べて過ごしました。
(研究員Cはまだお餅食べることができないんですけどね)
買っておいたお餅だけでは足りなくなってしまい、
研究員Cの1歳のお祝い用一升餅
(冷凍保存しておいた)まで
食べ尽くしてしまった我々。
(これまた研究員Cは食べることができないんですけどね)
もーお餅はうんざり! という方が多いかもしれませんが
すぐそこに鏡開きも待っております。
というわけで、今回は
「餅の科学」をお届けいたしまーす。
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なんでトーストは美味しいの?
お餅は焼くと美味しいの? |
切り餅は食べる前に焼きます。
つきたてのお餅は美味しいですが
いったん冷えて固くなったものは
焼かないことには始まりません。
餅に限らず、デンプン質のものは
温かい方が美味しいもの。
ご飯だってそうですし、パンも同じ。
これは、デンプンには加熱したり冷えたりすることで
3種類にすがたを変えるからなのです。
生デンプン(βデンプン)
↓水分・加熱
糊化デンプン(αデンプン)
↓冷却
老化デンプン(βデンプン)
という具合にです。
そして
・αデンプン→美味しいが、保存に適さない
・βデンプン→美味しくないが、保存に適している
という特徴があります。
例えば、
「生米は美味しくないが長い間保存できる」
「茹でたパスタは美味しいが保存はきかない」
ですものね。
このようなα←→β間の変化をするところが、
デンプン質の食べ物の
「便利さ」を表しているんでしょうね。
冷えて「老化デンプン」になってしまったら
温め直すことで再びαデンプンに
変化させることができます。
つまり、
・ご飯を温め直す
・パンをトーストする
・餅を焼く
というのは全て、αデンプンに変えて
美味しく食べるための作業なんです。
デンプンが老化して不味くなるのは
・水分含有量30~60%のとき
・温度0~3℃のとき
がもっとも進みやすいのです。
というわけで
炊いたあとのご飯を冷蔵庫に入れておくと
不味くなってしまう! のは
冷凍するよりも、常温においておくよりも
もっとも老化が進みやすい状態だからなんですね。
残ったご飯やパンは冷凍した方が
あとで美味しく(マシに?)食べることができます。
これは、「老化が進みやすい温度」
よりも温度を低くするという他にも
もう一つの効果があります。
冷凍することで「余分な水」を凍らせて
老化を促進するための水分を取り除くのです。
フリーズドライといわれる製法は
急速に冷凍してしまって
水分に老化させる暇を与えません。
だから、フリーズドライ製品は「αデンプン」のまま。
お湯をかけるだけですぐ
食べることができる状態に戻るのです。
この「余分な水」を取り除く方法としては
砂糖を使うものがあります。
砂糖というものは水分を抱え込む力が強いのです。
(詳しくはカソウケン本部の「砂糖の科学」にて)
砂糖を多く加えたパンや餅が
冷えても固くならないのは砂糖の力によるもの、
なんですね~。
砂糖って「甘いだけ」じゃないんです!
研究員Cを見ていると、赤ちゃんの肌を例えて
「もち肌」っていうのも「なるほど」と頷けます。
そして、「デンプンの老化老化~」と書いていて
ふと自分の肌を見ると、これまた「なるほど」です。
くうう~。
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こんがりいいにおい、の秘密は?
メイラード反応といいます。 |
そんな研究員Aの老化の話はどーでも良いので
餅の話に戻りましょう~。
餅が焼けるときにはいかにも美味しそうな匂いが充満し
表面がこんがりきつね色になります。
あの手の食欲をそそる
「匂い・焦げ色」を作り出すの反応には
「メイラード反応(アミノーカルボニル反応)」という
名前がついています。
メイラード反応は
アミノ化合物(アミノ酸・タンパク質など)
と
カルボニル化合物(ブトウ糖・果糖など)
が存在するところで、加熱されると起こる反応です。
お餅が焼けるときだけに限らず
・肉を焼くときや
・パンやクッキーを焼くとき
にもメイラード反応が関わっているという具合に
食べ物の世界とは切っても切れない反応なんです。
そして「じゃ、どんな反応式なの?」
って質問には簡単に答えることができない
ふくざつ~な反応。
何しろ、糖もアミノ酸も種類はたくさん!
決まった組み合わせだとしても
温度・環境の酸性度・共存物質・偶然~~などで
生まれるものは変わってきます。
という具合に複雑きわまりないメイラード反応。
その解明をライフワークにする研究者も多いとか。
「焼いたときの美味しい匂い」のいろいろは
根っこが共通している、ってところが
興味深いところですよね。
そのお餅が焼けるときの様子ですが、
研究員Aはダテに餅ばっかり食っていません。
じっと観察してみました。
餅が膨れる科学に迫ってみよう~!
と意気込んだのです。
そーなんですが。。。
これまた一回一回がものすごーく
「多種多様」なんです~。
例えば、
庫内の温度が高いときは
表面が固くなるせいか?
比較的すぐに表面が割れてしまう。
温度が低いときの方が
水分が蒸発せず粘性が高いためか?
かなりよーく膨らんでくれる。
でも、膨れたときの皮が薄いときは
すぐ穴が空いちゃう。
局所的に熱が当たるオーブントースターのときは
風船のように表面から膨れるが、
全体的に熱が当たるコンベクションオーブンのときは
最後まで風船のように膨れない。
という具合に。。。
・熱の伝わり方
・庫内温度
・餅の水分量・粘性
などなどで、いろ~んなケースで場合分けして
考えなければならないようです。
もー正月ボケした研究員Aにはわけがわかりません。
(デフォルトでボケているんじゃないの?
というご指摘は、ごもっともすぎるので却下)
まあ、食品にまつわる色々は
メイラード反応のように
「複雑で、かんたんには言えないところ」が
「食の奥の深さ」を表していて
私たちに楽しみを恵んでくれているのでしょうね。
(と、ムリヤリまとめてみた)。
ただ、「餅の膨らむ科学」に共通して言えることは
「餅の中の水分が熱せられて水蒸気になる」
ということ。
水が気体になると1000倍にも体積がふくれあがります。
餅を膨らませているのは空気ではなく、
元々は水だった水蒸気なんです。
その1000倍の体積の膨張を実感できるのが
「餅を焼く」という動作なのです~。
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お餅がぷっくりふくらむのはなぜ? |
なぜそんなにも体積が膨張するのか?
もうちょっと突っ込んでみましょう。
液体状態にある水は、水の分子同士の間にある力で
ゆる~くつながれています。
そのゆる~くつながれている状態が、液体。
(水分子の間にはたらく力について
もう少し詳しく知りたい方は
カソウケン本部の「不思議な物質、水(2)」を)
加熱することで「熱エネルギー」が
水の分子に渡されます。
熱エネルギーをもらった分子はどうなるでしょう?
温度が低いときも動き回っていた水分子たちですが
その運動するためのエネルギーがアップします。
そうすると、つながれている力よりも
動き回る力が上回るので
分子たちはあたりを自由に走り回ることになるのです。
元気いっぱいの水分子たちは餅の「壁」に
より頻繁に衝突することになります。
もし、分子たちの入っている「入れ物」が
形の変わらないものならば
その入れ物の中の圧力が高くなります。
そもそも、圧力というのは
「分子たちが壁に衝突する頻度」を表しているんです。
でも、餅の場合は形の変わる入れ物です。
というわけで、元気になった水分子たちの衝突によって
餅がぷーっと風船のように膨らむというわけなんですね~。
当然の事ながら熱せられた気球が膨らむのも同じ理屈。
温度が低くてゆっくり動き回っていた気体分子が
熱エネルギーを受けてより速く動き回るからです。
そして、
「熱いうちに蓋をしたものが冷えてしまうと
内側の圧力が下がって蓋が開かなくなる」
理由もおわかりになるかと思います。
たかがモチ一つとりあげても
・デンプンの構造
・メイラード反応
・熱力学の初歩の初歩
などの科学が潜んでいるのが楽しいところ、です。
みなさんも、もし鏡開きをして
お餅を焼く機会がありましたら
ぜひぜひ観察してみてください~!
これを書いていたらまた
お餅が食べたくなってしまったので
あとでお買い物に行こうと決意した研究員Aでした。
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参考文献
料理のわざを科学する Peter
Barham著 丸善株式会社
お菓子「こつ」の科学 河田昌子著 柴田書店
物理化学(上) アトキンス著 東京化学同人
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