主婦と科学。 家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所 |
研究レポート36 家電でよく見る「マイナスイオン」の科学。 【前編】 そもそも「マイナスイオン」って何でしょう? ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。 研究員Aの趣味のひとつは通販カタログの「読書」。 たとえ何も買わないとしても なんとなーくお買い物気分に浸れるのが幸せなんです。 そんなカタログを見ていると たくさん目に入ってくるのが「マイナスイオン」の文字。 空気清浄機だけでなく なんと服やパソコンまで出現しているようです! 「イオン」なんてついていると 科学的に証明されている気がしちゃうのが私たち消費者。 でもよーく商品の説明を見ると 「なんだか良いような気もするし インチキのような気もするし」 と混乱してしまうのが普通ですよね。 マイナスイオンは科学かエセ科学か? 微力ながら研究員Aが 貧弱な脳みそを酷使して解読してみましょう〜。
皆さんは中学や高校で 「イオン」について学習した記憶があるかと思います。 でも実は「マイナスイオン」という用語 これは科学用語ではないのです! 学校で習ったのは「陰イオン(アニオン)」 「陽イオン(カチオン)」です。 「じゃあ、マイナスイオンって言葉は何なのよ?」 ってことになりますが これは「和製英語」であり「商業用語」なのです。 のっけからエセ〜? のニオイがして参りましたが とりあえず先に進みましょう。 それではまず、ちょっとした基礎知識のお話を。 どれも学校で習ったはずのお話ですので 「ああ、そういえば習ったことあるかも」 と思いながら読み進めて下さい〜。 「電気の力」→「原子のしくみ」→「イオン」 の順でそれぞれを復習してみましょう。
電気の力、ってわかった気にはなっているものの 普段目にすることがないので、ピンと来ないですよね。 身近に実感できるのは 雷が鳴ったときや静電気がバチッとなることくらい? リンゴを床に落下させるのはみなさんご存じの「重力」。 重力は電気の力に比べるとなじみ深いかと思います。 なんと電気の力は、その重力の 10億の10億の10億の10億倍! くらいもある大きな力です。 電気の力って、普段気にはしていないけれども すっごい力! そして、重力と異なる点がもうひとつ。 電気の力には「正(プラス)」と「負(マイナス)」の 2種類の力があることです。 同じ種類であれば反発し 違う種類であれば引き合います。 重力は「引力」の一種類しかありませんからね。 自然界にあるすべての物質は この「正の力を持つモノ」と 「負の力を持つモノ」の混合物なのです。 鍋もそうですし、食塩だってそう。 そして、アナタ自身も 「正の力を持つモノ」と 「負の力を持つモノ」の混合物なんですよ〜。 その「正の力を持つモノ」の最小単位は「陽子」 「負の力を持つモノ」の最小単位は「電子」です。 脳の奥底に眠っている学校で習った記憶が なんとなーく思い出されてきたのではないでしょうか?
電気の力の話のお次は、原子の話に移りましょう〜。 原子は100ちょっとの種類があります。 周期律表はその原子の種類を並べたものです。 世の中にあるものは、この原子の組み合わせで いろいろなものが作られているのです。 だから、原子は物質の最小単位といわれます。 それではこの原子を拡大して見てみましょう。 上図のように 原子は中心に正の電荷を持つ原子核があり その外を負の電子が回っているという かたちをしています。 原子核は、正の電荷を持つ陽子 (と電荷が中性の中性子の)集合体です。 原子は通常、陽子の数と電子の数が同じなので ものすごい力であるはずの電気の力は バランスをとっていられるのです。
原子にある陽子と電子の数はぴったり同じ! だから、その原子全体をみたときの電荷は プラスでもマイナスでもない中性になります。 でも、実は電子の居場所には「定員数」が決まっています。 そして、原子は電子の数を「定員数ぴったり」 にしたがる場合があります。 このときイオンがうまれます。 定員オーバーの場合は電子を追い出してしまいます。 そうすると、その原子は電子が足りなくなり 電荷が正になるので「陽イオン」になります。 逆に、定員数よりも少ない場合は 電子を新たに受け入れるので その原子は電荷が負になって 「陰イオン」になるというわけです。 マイナスイオンの本題にはいるまでの 前置きが長いですね〜。 「目に見えない」ものの話ばかりで ちょっと眠くなってしまったかも。 お待たせしました! ようやく本題であるマイナスイオンの話に進みます。
上で「原子は電子を定員数ぴったりにしたがる。 だから、イオンになる」と書きました。 でも、気体の場合はちょっと事情が異なります。 気体中では「イオン化した原子のエネルギーは 中性の原子のエネルギーよりも大きい」のです。 これじゃ何のことやら? ですよね。 簡単な言葉で言い換えると 気体の場合 「イオンになるより中性でいる方がラク」 なのです。 というわけで、気体では普通の状態では イオンは存在し得ません。 でも、「何らかのエネルギー」がかかると 「ある程度」負の電荷を帯びた分子と 正の電荷を帯びた分子にわかれます。 これを電離といいます。 つまり、「無理なこと」をしないと 気体の場合は電離してくれないのです。 しかも、その量はごくわずか。 この電離した分子が 微粒子や水分子の集団(クラスター)などと 結合したものをマイナスイオン、プラスイオンと 呼んでいるようです。 「ようです」なんてあいまいな言い方をしましたが この構造、厳密な意味では「イオン」の定義に あてはまらないと研究員Aは思うのです。 でも、各業界ではこのように定義されているみたい。 (↑間違っていたらどなたかご指摘お願いします!) では、マイナスイオンの実体は? と聞きたくなりますよね。 これがよくわかっていないのです! 各メーカーが一般的に主張するには 「酸素と水とのクラスター」 しかし、これはまだ見つかっていないとのこと。 このマイナスイオンはできたそばから プラスイオンと結合して消滅してしまうので、 測定するのが難しい。 とりあえず、測定できているのはそれよりも 寿命の長い「窒素酸化物・硝酸・水」 という組成のマイナスイオンだとか。 なんだか、これだと大気汚染の原因である NOXやSOXを連想させて あまりイメージはよろしくないですわね。 それでは、実際なんだかわからない この「マイナスイオン」。 上に書いたとおり、大気中の普通の状態では イオンは存在し得ません。 だから、無理矢理作ってやらなきゃいけないのです。 ──というところで、少々長くなりましたので 前編を終わりにいたします。 次回は「マイナスイオンのつくりかた」のお話を させていただきますね。 (つづく) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 参考サイト 松永和紀のピリッとサイエンス 市民のための環境学ガイド 参考文献 「ファインマン物理学(3)」 R.P.ファインマン著 岩波理化学辞典 長倉三郎 岩波書店 |
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2004-06-04-FRI
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